道場訓 十六 冒険者ギルドからの追放宣言
冒険者ギルドに入った直後、俺が感じたのはピリピリと肌に伝わってくる緊張感だった。
テーブルの席は全部が冒険者たちで埋まっているが、酒を飲んだり談笑している雰囲気は
全員が全員とも何かに
まるで
そう思いながら俺は、依頼書が貼られているはずの掲示板へと向かった。
しかし、肝心の掲示板には依頼書がまったく貼られていない。
報酬が破格な高ランクの依頼書はともかくとして、薬草採取や低級の魔物討伐などの低ランクの依頼書が一枚も貼られていないのはおかしかった。
むしろ商業街の冒険者ギルドならば、そんな依頼のほうが多くあるはずなのに。
「エミリア、君はよくこの冒険者ギルドを使っていたんだろう? ここはいつもこんな感じなのか?」
「いいえ……数日前に来たときはもっと依頼書が貼ってありましたし、さすがに一枚も依頼書が貼ってなかったときはないはずです」
「そうか……とりあえず、カウンターの受付係に聞いてみるか」
俺とエミリアはカウンターに向かい、受付係の女性に話しかけた。
「すみません、ちょっと聞きたいことがあるのですが」
「はい、構いませんよ。では、先にお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「俺は冒険者Cランクのケンシン・オオガミです。隣にいるのは――」
と、エミリアのことも伝えようとしたときだ。
「ケ、ケンシン・オオガミ! あの勇者パーティーから追放されたケンシン・オオガミさんですか!」
受付係の女性が大声で叫んだせいで、他の冒険者たちの目が一斉に俺たちの元へ向けられた。
「申し訳ありません、ケンシン・オオガミさん! そこでちょっと待っていて下さい! すぐに上の者を呼んできますから!」
そう言うと受付係の女性は、慌てた様子でカウンターの奥へと消えていく。
周囲がざわつき始めたとき、俺はポリポリと鼻先を掻きながら
う~ん、何かよからぬことの前触れな気がする。
などと考えながら受付係の女性の帰りを待っていると、やがて受付係の女性はカウンターの奥から一人の男を連れて戻ってきた。
身長2メートルはある、40十代前半と
「お前が勇者パーティーをクビになったケンシン・オオガミか?」
黒人の男は
「そうですが……それが何か?」
俺が逆に訊き返すと、黒人の男はフンと鼻を鳴らした。
「やはりそうか。その外套の下に着ている
黒人の男は俺に対して、一本だけ突き立てた右手の人差し指を突きつける。
そして――。
「ケンシン・オオガミ、お前の冒険者ライセンスを
俺はまたしても追放を言い渡された。
おいおい、またか。
俺が怒りを通り越して呆れていると、他の冒険者たちの目の色が変わった。
ケンシン・オオガミの冒険者ライセンスを
副ギルド長と名乗る黒人の男の宣言に、ギルド内にいた冒険者たちは一気にざわついたのだ。
無理もなかった。
冒険者ライセンスの
そんな冒険者ライセンスを堂々と公衆の面前で
しかも
ざわつくのも当たり前だった。
だが、周囲がどういう状況だろうと俺は納得できるはずがない。
それこそ冒険者ギルドの規約には、勇者パーティーから追放された者の冒険者ライセンスを
なので俺は当然の如く反論しようとした。
「おい、それは一体どういう――」
ことだ、と俺が黒人の男に詰め寄ろうとしたときだ。
「ドラゴさん、それは一体どういうことなのですか!」
当人の俺よりも
隣にいたエミリアである。
「お前はCランク冒険者のエミリアだな。どうしてお前がこの無能の追放者と一緒にいるんだ?」
「そんなことよりも答えて下さい! どうしてケンシン師匠の冒険者ライセンスが
黒人の男――ドラゴは「決まっているだろう」と偉そうにふんぞり返った。
「ここは勇者パーティーの中の
俺とエミリアは思わず互いの顔を見合わせた。
「エミリア……今の理由について納得できるか?」
「いいえ、まったく納得できません。どう聞いてもドラゴさんの私的な感情からの
そうだよな。
冷静な頭があれば、他の人間もエミリアと同じ考えになるはずだ。
などと思った俺が甘かった。
「ははははは、こいつはすげえ! 勇者パーティーから追放された無能が、今度は冒険者ライセンスを
「副ギルド長の言う通りだ! 俺たちの街を有名にしてくれた、アリーゼの足を引っ張った野郎の仕事なんて信用できねえ! ライセンス
「さっさと出て行け、くそ野郎! いつまでもそこにいると
次の瞬間、俺への
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