道場訓 十一 勇者の誤った行動 ③
約一時間後――。
「おい、まだ目的地の
俺は足を止めると、地図を見ながら先頭を歩いていたカチョウに呼びかけた。
カチョウも歩くのを止め、俺たちのほうに顔を向ける。
だが、その表情は周囲と同じぐらい暗かった。
「すまん……もしかすると、道に迷ってしまったのかもしれん」
「な、何だと?」
思いがけないカチョウの言葉に、俺の怒りは一瞬で最高潮に達した。
「ふざけんな! どうして地図を見ながら進んでいたのに迷うんだよ!」
俺はカチョウに向かって怒声を浴びせる。
「もうここは20階層だ! だったらすぐに
「いや、それはそうなんだがこう暗くては地図も上手いこと読めないし、この地図に書かれている道と周囲の状況を照らし合わせることも難しいんだ。お主もそう思わんか?」
「ぐっ……」
そう言われては俺も口を閉ざすしかなかった。
やっぱり今の俺たちの
たった今まで俺たちは注意深く周辺の気配を探りながら、アリーゼが必死に絞り出した小さな
しかし、今のアリーゼの光源魔法の明るさは弱すぎる。
普段ならば半径30メートルは明るく照らしていたものが、今はせいぜい3~5メートルを照らすのに精いっぱいだったのだ。
正直なところ、この範囲の明るさではまともに戦闘もできない。
それこそAランクの魔物の群れに襲われでもしたら全滅は
くそっ、こんなときに
などと俺が心中で舌打ちすると、カチョウは「せめてもう少し明かりが強ければ違うのだが……」とアリーゼをちら見する。
するとアリーゼは「はあ~?」と
「ちょっと待ってよ。あんたがまともに道案内できないのを私のせいにするの? これまでだって私の
ぴくり、とカチョウの
「つまりお主は
「そう聞こえたということは自分自身でもそう思っているってことよね? だったら自分の能力の低さを他人のせいにしてないでもっと頑張れば?」
不毛な言い争いを始めたカチョウとアリーゼ。
そんな二人に対して、俺は「ごちゃごちゃとうるせえんだよ!」と腹の底から怒鳴り声を上げた。
「俺から言わせればどっちもどっちだ! お前ら二人とももう少し冷静に――」
なりやがれ、と俺が続きの言葉を発しようとしたときだ。
「――――ッ!」
俺たちは前方から何かが近づいてくる気配を感じた。
「……アリーゼ、明かりをもっと前に移動させろ」
俺の指示にアリーゼはすぐさま
アリーゼは俺たちを中心に照らしていた光源魔法を前方に飛ばす。
数秒後、光源魔法の明かりによって近づいてきた敵の正体が判明した。
オークか!
身長2メートルを超える巨体に、豚に似た顔をした亜人系に属する魔物。
間違いない。
Bランクの魔物のオークだ。
「どんな敵かと思えばオークか……どうする、キース? ここは大事を取って逃げるか?」
逃げる? たかがBランク程度のオーク相手に逃げるかだと?
「馬鹿言うなよ、カチョウ。相手はたかがウスノロのオーク一匹だ。さっさとぶっ殺して
俺は《神剣・デュランダル》を抜き放ち、全身に
体外で超常現象を発生させる魔法使いのアリーゼとは違い、俺とカチョウは練り上げた
「うむ、ならばいつものように
カチョウは左腰に帯びていた
同時にカチョウも
そして――。
「チェエエエエエエエエエイ――――ッ!」
続いて俺もカチョウの後を追うように
まずはカチョウが敵に斬りかかり、仕留め損なった際には俺が
単体の敵に絶大な効力を発揮する、俺とカチョウの連係技――〈
事実、俺とカチョウはこれまで何度も単体の敵をこの技で仕留めてきた。
しかも俺たちの目の前に現れたのは、いつも俺たちを見て震えていたオークだ。
人間と外見や中身が似ている分だけ、勇者パーティーのリーダーである俺の実力に気づき恐れをなしていたのだろう。
へっ、こんなビビリの豚野郎一匹くらいカチョウだけでも余裕だな。
俺はカチョウの背中を見つめながら思った。
同時に俺の脳裏には、オークがカチョウにやられる光景が鮮明に浮かんでくる。
一刀のもとに斬り伏せられ、悲鳴を上げながら倒される光景が――。
「ぐああああああああああ――――ッ!」
そうそう、こんな風に叫びながら
俺は駆けていた足を止め、食い入るように前方を見つめた。
信じられなかった。
全身と武器を
そんなカチョウは数メートルも吹き飛び、ごろごろと転がりながらやがて壁に激突して静止する。
「て、てめえ……何やってんだ、カチョウ! 油断するのも
俺が
俺はハッと気づき、慌ててカチョウからオークへと視線を向けた。
「ブキイイイイイイイイイイイイイイ――――ッ!」
空気を震わせるほどの声を上げ、オークが俺に向かって
そこにはいつも楽勝で勝てていたウスノロのオークなどいなかった。
オークは全身の筋肉を
「ひいっ」
強烈な殺意に
何だ、こいつは? 本当に俺たちがこれまで倒してきたオークなのか?
そう思ってしまうほど、棍棒を
まるで勇者である俺を
あっという間に間合いを詰めてきたオークは、俺の頭上目掛けて棍棒を振り下ろしてくる。
「くっ!」
俺は
しかし、オークの攻撃は終わらなかった。
「ブギイイイイッ!」
オークは棍棒を両手で持つと、そのまま大きく踏み込みながら突きを繰り出してくる。
俺はその突きも身を
う、嘘だろ!
不安定な足場に態勢を大きく崩した俺は、オークの棍棒での突きをまともに食らったのだった。
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