道場訓 二 追放された実は最強の空手家
「てめえ、俺たちをおちょくるのもいい加減にしろよ」
ロングソードに似た《神剣・デュランダル》の刀身は青白く輝いて見える。
「おいおい……仮にも国から
「うるせえ! この無能の戦士もどきが!」
「戦士もどき? それは俺の
と、俺がそこまで
「くだらねえ
キースの言葉を皮切りに、他のメンバーも次々と続いた。
「そうそう、あんたってばゴブリンどころかスライムとかにも
などとアリーゼが言うと、
「
カチョウも淡々と思っていたことを口にする。
「ははははっ、こっぴどく言われてるな。だが仕方ねえよ。これが
キースは高笑いしながら《神剣・デュランダル》の切っ先を俺に突きつける。
「お前、自分が何をしているのか分かっているのか?」
「ああん?」
「仲間に剣を突きつけて平気なのかと
「仲間? はっ、無能になると耳も悪くなるのか。てめえはもうクビなんだから仲間じゃねえ。それなら剣を突きつけても構わねえだろ?」
キースは
他のメンバーを見渡すと、アリーゼもカチョウも俺を見下すような眼差しを向けている。
俺はどっと肩を落とした。
最初はこんな感じじゃなかった。
半年前――俺がこのパーティーに入ったときの三人は、お世辞にも冒険者として抜きん出た才能があったわけじゃなかった。
それでも半年前の三人には、がむしゃらに成り上がろうとする
戦闘中はスタンドプレーに
だから俺はこのパーティーの前では
俺が堂々と魔物相手に
そう思ったからこそ、俺はひたすらに裏方に回ったのだ。
同時に強く決意した。
この三人を絶対に有名な冒険者パーティーにしてみせる。
そのために俺は〝裏〟で何でもやった。
口に出せること出せないことも
だが、俺のそんな行動は間違いだったのかもしれない。
数々の難関だった上位クエストをこなし、ランクが上がるにつれてキースたちの態度や性格は
特に
自分よりも下の冒険者たちをあからさまに見下すようになり、少しでも
問題は他にもまだあった。
確か
俺は嫌な記憶を思い出して大きなため息をつく。
いくら裏社会の人間相手とはいえ、事件をもみ消すための人殺しはさすがに後味が悪かった。
しかし、あのときはやるしかなかった。
国に選ばれた勇者が
すべてはキースたちを裏から手助けして、名実ともに国中の人間たちから
仲間に対して平然と剣を向けるような性格になる前に、適当な理由をつけて自分から出て行くべきだったのかもな。
やがて俺は「分かった」と小さく
「俺がパーティーに必要なくなったと言うのなら出て行く。お互いにわだかまりがあっても今後のクエストに影響が出てくるだろうしな……ただ、一つだけ言わせてもらえないか。お前たちは俺のスキルを自分たちに恩恵を与えられない無能スキルだと馬鹿にしたが、それは使用するための条件が厳しいだけで、俺のスキルの恩恵を得る効果は絶大なんだ。それは――」
ガッシャアアアアン――――。
不意に冒険者ギルドの一角にけたたましい音が鳴り響いた。
アリーゼやカチョウのみならず、他の冒険者たちも慌てふためく。
キースが《神剣・デュランダル》でテーブルの上にあった酒や料理を薙ぎ払ったのだ。
そしてキースは血走った目で俺を
「この際だからはっきり言わせてもらうぜ。てめえのスキルのことなんざどうだっていいんだ。俺が前から気にくわなかったのは、てめえの俺を小馬鹿にするような態度そのものなんだよ」
「どういうことだ?」
「どうもこうもねえよ。俺と同じ年なくせに
「
俺がそう言うと、キースは「はっ」とした表情を浮かべた。
公衆の面前と勇者としての言動、という言葉に反応したのだろう。
キースは軽く周囲を見渡した。
自分たちを横目にこそこそと
さすがに冒険者ギルドの中で
キースは長く深い息を吐くと、《神剣・デュランダル》を
そのままドカッと勢いよく椅子に座り、
「ふん、最後のご忠告ありがたく
「うふふふ、ご
「
三人の悪意のこもった
もう俺が知っている三人はこの世にいないんだな。
俺は立ち上がると、椅子の背もたれにかけていた
空手着の上から
「今まで世話になったな。これから三人で頑張れよ」
「ぐだぐだ言ってねえでさっさと消えろよ、無能……ああ、そうだ。ついでに言っておくが宿屋に預けてある装備品や所持品はすべてパーティーで使うものだから、クビになったてめえには一つたりとも渡す理由はねえからな」
そこまで言われると逆にどうでも良くなる。
「じゃあな」
俺はそれだけ言い残し、冒険者ギルドを後にした。
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