第10話 魔法書から精霊が出てきた!

「ふんっ! ぐぬうううううう! ふんぬうううううう!」


 布団に寝転がり、表紙と裏表紙に手をかけて、俺は魔法書と格闘していた。

 が、どう頑張ってもページを開くことができない。


「――っはあっ、はあっ。なんだこの本、どうやって開くんだ?」


 女神フィーナの計らいによって、俺には全属性への適性がある。はず。

 それなら、適性がなくて開けないというわけでもないだろう。

 第二の人生でも魔法は使っていたが、こんな開き方すら分からないややこしい魔法書は存在しなかった。


「誰かに聞けば教えてくれるかもしれないけど、でもこの歳で魔法書の使い方を知らないのはアリなのか……?」


 そこまで考えて。

 ふと思いつきで魔法書に手をかざし、魔力を送ってみることにした。

 この世界での魔法の使い方は知らないが、前世と同じ感覚でいけるのなら、魔力を送るくらいはできるかも――と思ったのだ。

 ちなみに、魔法書を使わずに魔法を発動させることはできなかった。

 どれだけ集中しても、魔力の塊らしきものができた瞬間、そのまま霧のようにふわんと霧散してしまうのだ。


「まあ、物は試しだよな……」


 まずは『火の初級魔法①』と書かれた魔法書に手をかざし、魔力を送ってみる。

 すると魔法書が強い光を放ち始め、温かな何かが体内に流れ込んでくる感覚があった。そして。


ポンッ!


『――ふあーっ! ようやくあたしの出番ね!』


 魔法書が消えたと思ったら、そこに身長二十センチほどの赤髪に赤い目をした何かがいた。赤髪の何かは、俺のまわりをクルクルと回りながら観察し、「ふーん?」「人間にしてはなかなかね」などとつぶやいている。


「あの、君は……?」

『あー、あたし? あたしは――』


 そこまで言って、赤い髪の何かはピタッと動きを止め、驚いた顔でこちらを見る。

 驚いてるのはこっちなんだが?


『え……あの……あんたあたしが見えるの?』

「――え? まあ、うん」

『すごーい! ええっ、なになに、あんた本当に人間!? 精霊が見える人間なんて初めて見たっ!』


 赤い髪の何か――本人によれば恐らく精霊なのであろうそれは、目をキラキラと輝かせながらすごい速度で俺のまわりを回っている。

 本来、人間には見えないものなんだろうか?


「えーっと……俺が買ったのって、『火の初級魔法①』で合ってるよな?」

『もちろんっ! あたしは火の精霊フラムよ。魔法書はね、この世界と精霊界を繋ぐ扉なの。所有者が魔法書に魔力を流すことで世界が繋がって、あたしたちに認められることで魔法が使えるようになるんだよ!』


 そういう仕組みだったのか。

 ダメ元だったけどやってみてよかった。


「それで、火の初級魔法を使うにはどうしたらいいんだ?」

『もう使えるわ。安定させるには練習が必要だろうけど。でもまあ今回のは初級中の初級だし、一週間もすればそこそこ安定するんじゃない?』

「そっか。教えてもらえて助かるよ。ありがとな」

『いいのいいの。あたしも人間と話すなんて貴重な経験させてもらっちゃったし! ねえねえ、また遊びに来てもいい? お友達になってよ!』


 フラムは顔の至近距離までぐっと迫ってきて、興奮した様子で目を輝かせる。


「俺はべつにいいけど……」

『本当!? やったー! じゃあまた来るわね! 町を出られるくらい力がついたら、西の森にある精霊の国にも連れてってあげる♪ 練習頑張って!』

「お、おう……」


 火の精霊フラムは、そう言って、ぶんぶんと手を振りながら姿を消してしまった。


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