第8話 本屋「ブクス」の魔法書コーナー
チリンチリン。
木製のドアを開けると、ドアに付けられたベルが美しい音色を奏でる。
「いらっしゃいませ~」
店員は老若男女問わず幅広い。
店内には、雑誌や小説、絵本、実用書、参考書など様々な本が、各コーナーに分かれてずらりと並んでいる。
その中には、魔法や魔法具に関するものも多くあった。
――魔法書もだけど、まずはこの世界のことをもっと知る必要があるな。
魔法書のほかにも何冊か買って帰ろう。
本を眺めながら店の奥へと進んでいくと、「この先魔法書コーナー」と書かれたドアを発見した。壁に窓はなく、ドアの先を確認する術はない。
どうやら、魔法書はそれなりに特別なものとして扱われているらしい。
緊張しつつもドアを開けると、入ってすぐの場所にカウンターがあった。
店内には、多くはないが何人かの先客がいて、魔法書を吟味している。
「いらっしゃいませ。身分証のご提示をお願いします」
魔法書コーナーへ立ち入ろうとすると、カウンターにいた紫色の髪の女性に声をかけられた。まっすぐの髪が、肩よりやや上で綺麗に切りそろえられている。
外見で判断するものではないだろうが、彼女の持つミステリアスな雰囲気に、うっかり「魔法書コーナーに相応しい人だな」なんて思ってしまった。
「身分証がいるんですか?」
「クレセント王国民である証明ができない方には、魔法書はお売りできない決まりになっておりますので」
なるほど、それで売り場が分かれてるのか。
でも困ったな。身分証なんて持ってるわけ――。
そう思いながらも無意識にズボンのポケットへ手を突っ込むと、何かカードのようなものが入っていた。
うん? なんだこれ?
取り出すと「クレセント王国 国民身分証」と書かれており、名前や性別、年齢、職業、住所などが書かれていた。いつどうやって撮ったのか、撮られた覚えのない俺の写真まで貼られている。怖い。
住所のところにはモザイクがかかっている。これで大丈夫なんだろうか?
「あの、これで……」
「ありがとうございます。お預かりいたします」
紫髪の女性は、俺の身分証を金色の魔法陣が書かれた黒い石板に載せて手をかざす。
すると魔法陣が光を放ち、五秒ほど経つと再び消えた。
「ご提示ありがとうございました。問題ありませんでしたので、どうぞご覧ください。ご購入の際はこのカウンターへお持ちください」
女性は一礼し、魔法書を見ることを許可してくれた。どうやらあの身分証で問題なかったらしい。
魔法書はどれも分厚くずっしりとしていて、どういう仕組みなのか開くことができず、中身は見られない。
その代わり、裏表紙にどんな魔法が取得できるのかの説明が書かれていた。
――う、けっこうな額するんだな。そりゃそうか。
魔法書は、安いものでも10000ボックル、高いものになると1000万ボックルするものもある。所持金の500万ボックルがあれば当分は困らないと思っていたが、そう甘くもないのかもしれない。
――とりあえず水と火、氷、光の初級魔法。これは多分必須だよな。
ちなみに光の初級魔法は、簡易的な治癒魔法らしい。
あとは初級魔法事典も買っておこう。まずはどんな魔法があるのか知りたいし。
「……あの、こちら全てお買い上げでよろしいですか?」
「? はい。あ、冊数制限があるようでしたら」
「い、いえ、そういうわけでは……。かしこまりました。それでは、合計90000ボックルです」
支払いを済ませ、重い魔法書が入った紙袋二つを受け取って、俺は魔法書コーナーをあとにした。重い!
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