恋と事件のトリック

M

第1話 夢と現実

ジリリリ ジリリリ


「はっ、!!」

耳障りな程に大きな音の目覚まし時計で目が覚めた。

額には汗が流れており、ベッドは僕の汗でぐしょぐしょだ。

「また…あの夢か。」


憂鬱な月曜日を乗り過ごしたと思ったら憂鬱な火曜日が待っている。

そんな毎日を過ごすのが辛く、そんな毎日を過ごすのが幸せだった。


いつも通りの朝を過ごし、学校へと出かけた。

ザワザワとした教室。いつも朝はうるさい。

「やばくない?」

「でも良かったかも」

「友達に話すネタできちゃった」

…?なんか今日はいつもと違う。

気になった僕は友人の山井に声をかけた。

「なぁ、何かあったのか?」

そう聞くと山井はおどおどしながらこちらに振り向いた。

やっぱり何かあったのかと思ったその瞬間

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

皆がドアの方を見る。

そこには手や顔にべったりと赤い何かが付いている女が立っていた。


「血っ、血よぉ!!!」

「お前ら落ち着け!!」

「無理っ、吐きそう、」

混乱が渦巻いている中、女は口を開いた。

「…貴方達、騒々しいわ。」

腰にズンとくるような重い声。その女が出した声とは思えなかった。

一瞬にして皆が黙ると、そのまま女は教室に入り教卓の前に立った。

「このクラスに殺人鬼がいる。私は探偵よ。」

黙ったと思えば、またもやクラス中がザワつく。

「近くで殺人…このクラスの人が殺されたのは知っているわよね。」

そうか、そのせいでいつもと違ったのか。

教室を見回してみるとクラスのお調子者の栗北が居ない。

いつも朝早くから来て花の水やりや掃除をしていた、真面目でお調子者な彼が。


「…お前の名前は佐伯だよな。」

「あら、どこかでお会いしましたっけ。」

僕は見覚えがあった。というより覚えとかなければいけない人だった。

「5年前、お前に…いや、ここで話す内容じゃない。」


この女、佐伯は5年前僕と会った時にはもう優秀な探偵だった。

僕はその時、探偵として邪魔しないという条件で現場にも行かせてもらっていた。

父が警察という事もあり、僕は探偵としての技術を高めることは容易かった。

その日も父に着いていき現場を見ていた。そこに佐伯がいたのだ。

佐伯は僕に会うなり挨拶をするように軽く言った。

「貴方、探偵に向いていないわ。」

こいつに一矢報いたい。だけど、まだ中学1年だった僕はそこで探偵をやめようと思った。

佐伯は分かっていたのだ。

僕が死体を前に怖がっていたのを。父にも秘密にしていたことを。


そこから5年。僕は一矢報いたいという気持ちを抑えきれずに啖呵をきった。

「佐伯、僕と勝負しろ。この事件の犯人をどちらが早く捜し出せるか!」

佐伯はそれを聞くなり教室から出ていった。

「貴方が私に勝てるとは思えないわ。」

吐き捨てるようにその言葉を残した。

このクラスに犯人はいる。そして、佐伯が血を付けていた理由はなんだったのか。

「山井、僕帰るから先生によろしく。」

「お、おう…」

全てを解決する為、僕は即座に父に電話し現場に行かせてもらえるように頼んだ。



「あら、さっきの…」

「葛切。葛切竜也だ。」

佐伯に負けないよう、自我を強く保つことで自分に自信をだす。

僕は僕のやり方で犯人を捜し出す。絶対に。

「私は佐伯恵理。不服だけれど、貴方とタッグを組めと言われたの。」

「…へ?」

どういうことだ?僕と佐伯は敵対関係で今から対決を…

なのにタッグを組め?どんな冗談だ。冗談も甚だしい。

「貴方のお父様に頼まれたのよ。勝負は終わり。今から事件の概要を…」

お父さん何やってんの?と言わんばかりの思いが湧き上がってくる。

こんな奴とタッグを組めなんて言われても無理だ。絶対無理だ。

「ちゃんと話を聞きなさい。」

額に指を弾かれる。

こう見えて可愛いところもあるものだ…いやいやいや、何言ってんだ僕。

「事件の概要を言うから全部頭に入れるのよ。」

少しの抵抗を見せる為僕は何も反応しなかった。

「…本当に子供ね。まぁいいわ。今回の事件は、貴方のクラスの栗北優希さんが殺された。

頭には打撲痕が1つ。傷はそこだけだったから頭に一撃よ。毒などもない。手足は縛られており、口も喋れないように布を咥えさせられていた。死亡時刻は今日の5時だと推測されているわ。これぐらいかしらね。まだ凶器も見つかっていない。」

スラスラと事件の概要を話す佐伯の手や顔には赤いものは付いていなかった。

「なぁ、お前、血は?」

そう聞くとピタリと話をやめ、開いていた手帳を閉じた。

「…話をちゃんと聞きなさい。あれは血ではなく塗料よ。」

「塗料?」

「探偵だけでは食べていけないわ。」

そんな悩みもあるのかと思いながら、塗料を使う仕事もあんまり食べていけないのでは?と思ったが流石に聞けれないのでやめた。

ていうか紛らわしいからやめろ。正直言って人殺しそうな顔してるから誤解生むぞ。

…なんて言える訳もなく「へ〜…」と言っておいた。

「いいかしら?今から聞き込みに行くのだけれど…」

「聞き込み?聞き込みに行かなくてももう分かったけど。」

「?!」

驚いた表情でこちらを見ている。

佐伯も分かっていると思ったのだが…。

「だ、だって…死体の脚に爪痕があるだろ?クラスで爪を伸ばしているのは少しの人だけだし…それに栗北は朝ランニングに行ってるらしいんだが、一緒に走っている子が確か爪を伸ばしていた気がする。」

「その子だと断定するには…」

「まだ早い、分かってる。それ以外にも栗北の顔を見てくれ。」

「…?」

そう言ったら佐伯は栗北の顔をまじまじと見るなり、ハッと顔を上げた。

「髪に隠れていて分からなかったけれど、よく見ると耳と額にも傷があるわね。」

「そう。散々と言ったがこれは栗北の爪痕だ。自分でやった傷。」

「じゃあ一緒に走っている子は何の関係が?」

「殺されたのは死体が発見された場所ではない。凶器もない。その子は栗北の尻拭いをしたんだ。」

どういうことだと言わんばかりに佐伯は頭を傾げる。

「栗北は自殺…というより事故だったんだ。本当は自殺しようとしていた。この爪痕はその際に他殺にみせかけるように付けた傷。ただ、仕込みをしている最中に誤って壁にでも頭をぶつけたんじゃないか?」

「そんな訳ないでしょう。確かに凶器はないし爪痕も沢山あるわ。けれどそれだったら尻拭いする理由がないわ!」

見るからに感情的になっている。

やけくそかと思うかもしれないがこの推理は絶対当たっているのだ。

「…一緒に走っている子は栗北の親友だった。いや、好きだったんだ。栗北の事が。」

「じゃあ何故?何故事故を隠蔽したの?」

「まぁ、学生ならではの約束ってやつだよ。一緒に死のうね。なんてよくある口約束だろ?人を殺すことによって死刑にでもなりたかったんだろ。」

僕だって馬鹿げた話だと思う。でも好きだからこそ庇いたかった。そういう思いが少なからずあったのだろう。

「まぁ、本人に聞こうじゃないか。今から行こう。」

「分かったわ…。」



その後、一緒に走っていたとされている谷崎に聞きに行った所、

「…そうだよ。私、好きだったんだ。でも好きだからこそ殺したかったの!!」

と言っていた。

殺したかったのに殺せなかった。だから自分が殺したように見せかけたという僕の推理の斜め上をいった発想だったが犯人はあっていた。

「今回は貴方のクラスの人だっから負けた迄よ。」

佐伯は悔しそうな表情を見せずに淡々と言った。

「いい加減”貴方”じゃなくて名前で呼んでくれない?」

「…葛切。仕方ないからタッグを組んであげるわ。ただ1回でも失敗したら解消よ。」

上から目線な所は変わらないなと思いつつ、僕は頷いた。


これから佐伯と色々な事件を解決していくのが少し楽しみなのは内緒だ。

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恋と事件のトリック M @suzuna_777

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