ツリーの☆を打ち落とせ

貴良一葉

本編

 師走。鈴の音や華やかな装飾が町を彩る季節。

 

 一人の少年が、自宅のリビングに設置された巨大な飾り物の天辺に、狙いを定めていた。三角錐状の木に様々なオーナメントがぶら下がり、その頂には光り輝く大きな星が鎮座している。

 クリスマスの象徴、クリスマスツリーである。


「おのれ、地球の平和を脅かす宇宙生命体の悪人どもっ! 今日こそ決着をつけてやる!」


 どうやらそのツリーの星は、宇宙からやってきた侵略者たちが潜むアジトのようだ。金色のキラキラとした塗装の中心に、クリアなアクリルで作られた横長の窓が付いている。なんとも宇宙船のような見栄えだ。


 少年が構えているのは、大人の腕の太さほどあるバズーカであった。彼は照準をずらさぬよう、慎重に引き金の傍に備え付けられたボタンを押した。発射のパワーゲージを貯めるチャージボタンだ。

 ピコピコと電子音が鳴り、発射筒の両サイドで赤いLEDが光を放つ。『コンプリート』という無機質な女性の機械声が響くと、少年は不敵な笑みを浮かべた。


「いっけぇ! スーパーキラスペシャル・バズーカ砲、発射!!」


 ズズズ、ガガガガガ――――ッ! ズキューンッ!!


 引き金を引いたバズーカからは、けたたましい発射音が鳴り響いた。LEDは今度は七色に光り、必殺技が炸裂したことが伺える。

 少年はバズーカ砲を空中に大きく八の字を描くように回しながら下ろすと、仁王立ちをした。


「はっはっはっはー! 見たか、宇宙生命体の悪人ども。スーパー戦隊キラレンジャーに倒せぬ敵はいないのだ!」


 得意げに笑い、彼はご満悦のようだ。


 お察しの通り、これはバズーカ砲を発射する〝演出〟であり、実際にはレーザービームも爆発も何も発生していない。流行のスーパー戦隊モノのオモチャを使用した少年のただの〝戦隊ごっこ〟である。


 そんな五歳児の少年の横を、何かが勢いよく飛び出し、先ほどまで彼が狙っていた星に当たって跳ね返った。驚いた少年が振り返ると、彼の三つ上の兄が銃のようなものを構えていた。

 跳ね返って落ちたものを見てみると、それは輪ゴムだった。兄が手にしていたのは、割り箸で作ったゴム銃だったのだ。


「えぇー!? 兄ちゃん、何ソレ!」

「凄いだろ、こっちは実際に狙って撃てるんだぞ?」


 自慢げに話す兄に食いつき、少年は手にしていたバズーカ砲を投げ捨てると、ゴム銃に興味津々で手を伸ばした。幼児の好奇心というものは、とても目移りしやすいものである。

 それから兄弟は仲良く、強力なゴム銃の制作に夢中になるのであった。





「だ、大王様……あいつら、新しい武器を所持している模様です」

「マズいぞ、さっきのはかなり揺れた」


 おやおや? 何やら星の中から声が聞こえるようですが。


「このアジトももう終わりか……子供と思って舐めていた」

「窓が付いていたから丁度良かったのに、新たなアジトを探すしかありませんね」


 星に潜んでいた謎の生命体は、ゴム銃の襲来に戦々恐々としていた。

 ……案外、子供の妄想もフィクションと馬鹿に出来なかったりして。



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 天の声:お母さんは怒らないんですか? ってか、キラレンジャーって……。

 貴良(筆者):後で怒られます。ネーミングに何か問題でも?(ドドン)


 読んでくださり、ありがとうござました。

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