Episode Memory:25 手がかりと王
「突然ですが、運上さんが少しの間学校を休むことになりました」
そして月曜日。
幸奈たちのクラスのホームルームで、担任から告げられた言葉に幸奈たちは固まる。
みのりが休むことは誰も聞いていなかったらしく、教室が少しざわつく。
「ケガをしたわけではないので安心してください。ただ、親御さんから連絡は控えてくれると嬉しいと言われました」
ホームルームは別の話に変わって進んでいく。だが、幸奈たちはみのりのことで頭がいっぱいで、それ以降の話は一切耳に入って来なかった。
そして、みのりが休むことを幸奈たちは洸矢たちにもすぐ伝えた。
全員が幸奈たちと同じ反応をする中、瑞穂だけは違った。
「運上さんのこと、私に任せてくれないかしら」
「瑞穂ちゃんに?」
幸奈の問いに瑞穂はうなずく。
「実は、運上さんとは同じ小学校だったの。……と言っても、親同士の仲がよかっただけで、私と運上さんにほとんど関わりはなかったわ」
不安そうな幸奈たちに、瑞穂は決意を持った瞳を向ける。
「変わっていなければ家の場所は知っているわ。だから、本人に直接話を聞きに行くわ」
「じゃあ、俺は瑞穂を手伝う」
日向はニッと笑う。
「瑞穂を一人にはさせねぇからな」
「そしたら、俺は影井を探しに行く」
日向に続いて、洸矢が言う。
「今度こそ、影井を見つける」
放課後。
なにかあればすぐ連絡を取ると約束し、洸矢とプレア、日向と瑞穂とフレイムとセレンは、それぞれみのりと颯太を探すために動き出そうとする。
「あ、あのさ!」
だが、幸奈の通る声に、洸矢たちは思わず立ち止まる。
振り返ると、幸奈はいつも以上に不安そうな表情を浮かべていた。
「みんな、離れ離れにならないよね?」
自分がいれば、ラインと別れることはなかったはず。幸奈は精霊祭の日からずっとそのことを考えていた。
日向は小さく笑う。
「チームだから大丈夫だろ」
「そうね。全部解決したら、またみんなで出かけましょう」
日向に続いて瑞穂が微笑む。
洸矢たちを見送り、幸奈はシルフに向き直る。
「シーちゃん。あたしを精霊界に連れてって」
予想もしていない言葉に、シルフと凜は目を見開く。
「……幸奈、あなた自分がなにを言ってるか分かってるの?」
「分かってる」
「精霊界に勝手に行くことは禁止されてるのよ」
「でも……もしかしたら、精霊界で解決できるなにかが見つかるかもしれないよ」
幸奈の迷いのない、まっすぐな瞳がシルフを貫く。
だが、シルフは首を縦に振らなかった。四大精霊である自分なら他の精霊と違い、精霊界に行くことはできる。しかし、もし誰かに幸奈を精霊界に連れて行ったことが知られてしまったら、責任は幸奈に降りかかる。
「……僕も連れて行ってほしい」
「凜くん?」
「幸奈だけに背負わせるわけにはいかない」
凜も幸奈と同じように、迷いのない瞳をしていた。
精霊もどきの謎を追うこと、ラインを探すこと、それらはきっと繋がっている可能性がある。
「……分かったわ」
「シーちゃん……!」
「ただし、こっちの時間で一分だけ。人間界から精霊界の移動は、ゲートが開いたのと同じ扱いになるかもしれないわ。一分なら疑われないギリギリの時間のはずよ」
幸奈たちはうなずく。
そして、幸奈たちは体育館裏に移動した。
外れにある体育館裏に
「二人とも、私の手を取って」
幸奈と凜がシルフの小さな手に触れる。
繋いだ手を中心に風が巻き起こり、だんだんとその勢いは増していく。幸奈と凜が目も開けられないくらいほどの勢いになった瞬間、体がふわりと浮いた感覚がした。
風が弱まり、幸奈と凜が目を開けると、周りは一面の花畑だった。
新緑と色とりどりの花はどこまでも続いていて、空は絵に描いたような青空。まるで天国のようだと表現したくなるような場所だった。
「綺麗……」
暖かな日差しと柔らかい風が肌に当たり、誰もが永遠にいたいと思えるような場所だった。
それは幸奈も例外でなく、ぼんやりと花畑を眺めていた。
「幸奈」
幸奈の意識は凜の声で引き戻される。
「僕たちが精霊界に来ていると知られる前に、手がかりを探そう」
本来の目的を思い出した幸奈はこくりとうなずく。
歩き出そうと草を踏みしめた瞬間、
「何者だ」
低く、深い声が響いた。
「
シルフがつぶやく。
見上げると、
しかし、あまりにも大きいせいで上半身しか見えず、まるで別次元から幸奈たちを見下ろしているようだった。
幸奈も凜も精霊王の存在は知っていたが、まさか実際に出会うとは思っていなかった。王という名前にふさわしい威厳のある姿に二人は圧倒される。
「人間の言うゲートを通ってきたわけではなさそうだな」
「精霊王、私です。シルフです」
「……シルフか。久しいな」
シルフが幸奈たちの前に立ち、深く礼をする。
「なぜ人間を連れてきた」
「私たちが追っている謎の存在を解明するためです」
「謎の存在とはなんだ」
「私たちは、それらを精霊もどきと呼んでいます」
「精霊にもどきという言葉を使うのか」
精霊王の声が一層低くなる。
凜が言葉を詰まらせるシルフの横に並び、精霊王を見上げる。
「初めまして、精霊王。僕は神宮寺凜と言います。……シルフたちは精霊の力を感じたと言っていました。そして、精霊もどきはなにもしていない僕たちを襲ってきました」
精霊は理由なく人間を襲わないと聞いています、と凜は続けた。
幸奈がシルフの横に並ぶ。
「シーちゃんの親友の春風幸奈です。精霊もどきとは、精霊界とは別の世界で会ったんです」
「別の世界だと?」
精霊王の鎧の隙間から見える目が細くなる。
「精霊界と人間界以外に、第三の世界が存在するはずがない」
「精霊界に似てるってシーちゃんは言ってました。でも、そこは孤立した島だから、精霊界じゃなかったんです」
「孤立した島……?」
「精霊界に孤立した島はないんですよね?」
「ない。そのような島があったら、誰もが覚えているはずだ。それに、王である私が忘れるなどあり得ない――」
精霊王の言葉はそこで終わり、精霊王を見上げる幸奈たちの間に緊張が走る。
「……精霊もどきと呼ぶ存在は、精霊研究者と名乗っている人間に聞けばいい」
堂々とした
「人間界に帰れ。精霊界にその謎を解明する手段はない」
精霊王は鎧をまとった手を幸奈たちに向けてかざした。
すると、淡い光に包まれ、精霊界に来たときと同じように幸奈たちの体がふわりと浮く。
次の瞬間、幸奈たちは光に包まれたまま精霊界から姿を消した。
包んでいた光がなくなると、幸奈たちは体育館裏にいた。
「……戻されちゃった」
手かがりを探す間もなく、精霊王の手によって人間界に戻されてしまった。
「まさか精霊王に会うなんて……」
「私も、思いがけない形で再会したわ」
凜に同意するようにシルフはうなずく。
本来出会うはずのない精霊に出会い、シルフも戸惑いを隠せなかった。
「精霊王に気づかれたってことは、また精霊界に行っても強制的に戻されちゃうよね?」
「そうだね。それに、精霊王は精霊界に手がかりはないって言ってたから、人間界で探す必要がありそうだね」
二人が話す一方で、腕を組んで考えを巡らせるシルフ。
「精霊王は精霊研究をしている人間に聞けって言ってたわ。精霊研究者なら、彼も当てはまるわよね」
「彼って……リヒトさんのこと?」
幸奈の問いにシルフはうなずく。
「精霊王が言うんだから、間違いなく人間界に手がかりがあるはずだわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます