第38話 公判・論告・求刑 最終弁論 判決

 翌月、検察官による論告・求刑、弁護人による最終弁論があった。

 村井氏は私用があるとの事で今回は傍聴をパスしたが、仙人はいつも通り先に傍聴席に来ていた。


 開始数分前に神野が被告人席に着席するとすぐに公判が開始された。無意味な本人確認の後、検察官による論告・求刑があった。

 自信がないとみえてやや低めの声で述べ始めた。

 その内容を要約すると以下のようなものである。


 現場は原告が証言した場所でなく、被告人が証言し、目撃者も当初の偽証を認め最終的に証言したH2である。原告は一度でも触られているので、被告人を無罪にさせない為に心ならずも偽証をしたものである。


 被告人はこれまで何度か女性の身体に触れているのが目撃されており、店内でも評判が悪かった。その為過去を反省してもらう為に目撃者は偽証してしまったが、被告人にも責任の一端はあると考える。


 原告、目撃者とも被告人が原告の臀部を下から中央付近まで触っているとの証言で一致しており有罪である。


 よって、罰金15万円を求刑する。



 一方、山本弁護人は落ち着いて次のように述べた。


 目撃者の当初の証言は完全偽証であり証拠としての価値は皆無である。この事は既に目撃者は認めておりこれ以上は触れませんが、被告人にも責任の一端はあるとはいえ、過去の逆恨みから被告人を罪に陥れる機会を窺っていたのは明白である。


 被告人が他の女性の身体に触れた云々は被告人のトレーニング仲間とのコミュニケーションや相互サポートであり、評判云々は女性特有の嫉妬以外の何物でもない。

 その証拠に検察側は被告人に触れられて不快だったという証人を誰一人証言台に立たせていない。


 被告人は外トレ用前屈ストレッチングをできるよう腰を柔軟にする方法を知りたく、先ずこのストレッチングの効果を感じて貰いたく原告に教えようとしただけ。ハムストリングから臀部の付け根辺りまでなのに、目撃者から入れ知恵された原告が誤解したものと思われる。


 原告は仕事に対する姿勢が年齢よりかなり低いように思われ、仕事のルーズさで被告人から何度も注意を受けており、逆恨みをしていたと考えられ、目撃者の策に乗せられたものと思われる。



 最後に被告人にも言い分があれば、と少しの時間が与えられた。


 神野は静かに述べた。


「時間が十分あった割には、原告と目撃者の打ち合わせは不十分だったように思われます。

 目撃者は初めに偽証したように臀部を何度も撫でていたという根幹の部分を何故原告にしっかり念押ししなかったのか、頭の切れる彼女にしては致命的なミスですね。

 それに原告尋問が先に終わっているのに、何故目撃者尋問で原告に証言を合わせなかったのか?

 打合せミスです。こんな矛盾した証言をすれば、余程の裁判官でない限り、例えば認知症とか、有罪にはできませんわ。

 それとも、私を冤罪にしない為にわざと…、まあそれはないか⁉」



 翌月、判決が言い渡された。


  【被告人は無罪】


 当然ではあっても、神野は安堵した。

 悪評の高い裁判官だけに一抹の不安もあったので。

 

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