第25話 現場検証3
最後の検証に入った。
山本弁護人は野々宮奈穂が最後に目撃したという位置まで移動して2人に指示を出す。
「この告発者の描いた図通りに動いて貰います。うん、一つずつ行こう。合図したらゆっくり始めて。腹筋が終わったところから。仙人、中本の言う通り動いてくれますか? 中本にはしっかり指示してますから」
「そうですか。分かりました」
そう言って、山本弁護人は神野と共に第一目撃位置まで移動する。ここからは腹筋現場も前屈現場も手前の板壁が障害になり直には見えない。鏡だけが頼りである。
「始めて!」
の合図で2人は移動を始める。大友裕子が現場だと主張している位置(告発者)まで移動して貰いそれぞれのポーズを取って貰ったところで、
「カット!」
次に、再び元の位置から始めて、今度は神野の主張する実際の位置(被疑者)まで移動し、ここではポーズを省略する。それからゆっくり位置(告発者)へ移動し、そこでは再度ポーズを取って貰う。
これらの鏡に映る動作を山本弁護人は第一目撃位置からしっかりとスマホの動画に収めた。神野も真剣な面持ちで鏡を見つめていた。果たして、神野の主張する位置(被疑者)では、2人の姿は鏡から完全に消えていた。
次に、再度元の位置から位置(被疑者)までの移動の後、そこに留まってもらう。2人の姿が鏡から消えた後、山本弁護人はスマホでの撮影を続けながら第二目撃位置まで移動する。神野も山本弁護人の真後ろから鏡を見続けながら追った。
再び鏡に2人の姿が映し出されるのと直接見えるのとは殆ど同時ぐらいだった。
最後に、第二目撃位置から位置(告発者)及び位置(被疑者)を撮影する。
山本弁護人は撮影した動画を見終わり、満足そうに神野に見せた。神野も大いに満足した。
「皆さん…、神野さん、仙人、山本、今日はご苦労さん。おかげで貴重な資料が得られました。後は私の方で。警察の方も本店長もご苦労さまでした。じゃあこれで、我々は失礼します」
Kスポーツクラブの玄関前で神野と仙人は法律事務所の2人と別れたが、山本弁護人から力強い言葉を頂いた。
「神野さん、今日は仙人のおかげで良い資料が得られました。正確な間取り図を作成して法廷資料としましょう」
「分かりました。今日は本当にお二人には大感謝です。あ、お二人とは中本さんと仙人ですけどね」
「ハハハ、他に誰が居るんですか?」
「お三方と言うべきでしたか?」
「いや、お二人さんで十分ですよ」
「ですよね」
中本秘書、仙人、なにやらニヤニヤ。
「じゃあ、神野さん。ええっと、来週中ごろまでに連絡します。その後、じっくり話しましょう」
「そうですね。よろしくお願いします」
山本法律事務所の2人と別れた後、神野と仙人はどちらから誘うともなくいつもの喫茶店に入った。
「仙人、今日はほんとにご苦労さま。おかげで良い資料がたくさん獲れた。大助かりだわ」
「そりゃあ良かった。こういう作業ならいつでもできる。いつでも声掛けて」
「うん、頼りにしてる」
「山本弁護士って、しっかりしてるね。秘書の女性もテキパキしてるし」
「そうなんだよね。いやあ村井さん、最高の弁護士を紹介してくれたよ」
「どういう関係なんだろうね? 以前、弁護を頼んだ事が有ったのかな?」
「そこは分からんけど、彼はいろんなポケットを持っているよ。司法にも結構詳しいし、本職はいったい何なんだろうね。謎の人物だわ」
「謎の人物か⁉ ところで、ヒロさん、これからの予定は?」
「うん、先生が言ってたように今日の測定結果を基に正確な図面を作成してくれる。目撃者の眼には鏡にどのように映るか、理論的にもはっきりするよ」
「写真も随分撮ってたね?」
「そうなんよ。実際の現場と彼らつまり告発者と目撃者のでっち上げた現場の両方を撮ったけど、オレが特に気になってたのは実際の現場の方。まず間違いなく鏡には映らないとは思っていたけど」
「そうなん?」
「彼らが現場を変えたのは、実際の場所だと鏡に映らないからだと思ったので」
「ああ、それでニセの現場をでっち上げた?」
「まあ、だけどこれも一長一短あり。偽証がバレるリスクあり。それをどう考えたのか? 間違いないのは、これは全て野々宮奈穂の入れ知恵だという事。大友裕子には考えつかないだろうよ」
「どっちの現場も撮影してたね」
「うん、これはね、前もってオレが先生に頼んでおいたの。オレが現場を彼らの言う現場と思いこんでいるように本店長に思いこませてやろうと思ってね。彼から悪女2人に伝わるだろうと思ってね。ただ、実際の現場の動画も撮ったので、オレの意図を疑っているかも。ポーズは敢えて取らないようにしたけど」
「ヒロさんもなかなかやるね」
「あの大友裕子の描いた図面から悪女たちの意図が読めたので。ほんとの悪女は一人だが。まあそれより、山本先生の完成図とその後の話が楽しみだわ」
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