第29話 ロケットパンチ!
俺は剣を握り締め、真っ直ぐに構える――決死の思いで斬りかかったその時だった。
荒々しいエンジン音を轟かせる車両が、ヘッドランプをピカピカさせながら迫って来る。
汚染の
こんな最新の乗り物、中々手に入らない筈だ。搭乗者は一体どんな人だろうと思った矢先、雄鹿の派手な角飾りを施したヘルメットが見えた。
「良い面構えしてるぞ、ルドウィーグ。そのままやっちまえ!」
聞き慣れたしわがれ声……俺は驚きつつも酷く安心し、いつものように生意気な口を叩いて返した。
「賞賛なのか冷やかしか分かんないだろ」
「わーったよ、後は俺に任しとけ!」
そう言ってくれたのは我らがスレッジ。彼は謎の瓶を腰元から取り出し、こう叫ぶ。
「汚染の主か……てめぇにゃ手始めに特製火炎瓶をプレゼントしてやる!」
そんな無駄なセリフを吐いている場合かと心配したが、彼がそれを投げつけると主の身体は大炎上した。想像以上に眩しく、かなりの熱気が伝わって来る……向こうに居るジュリエッタも思わず声をもらす程。
これには主も堪らず、繰り出そうとしていた拳を引っ込めてのたうち回っている。
「ハハッ、大分効いてるみてぇだ。 なら、もうとっておきを使っちまおうじゃねえか!」
こんなところでも上機嫌に一口酒を飲んで、啖呵を切るスレッジ。彼が次に手を掛けたのは義手だった。一応、大鉈のような武器がバイクに収納されているようだが、そっちは本命ではないらしい。
俺はジュリエッタと合流してそれを見守っていたが、彼女がまた口を開く。
「ねぇ、オーナーの義手ってあんな形状だったっけ?」
「⁉」
言われてみれば確かに、いつもより一層メカメカしくなっている。戦闘用に追加パーツを増設しているようだ。
スレッジはそうした装置の中の一つ、箱筒のようなものの蓋を開けて、点火した。そのタイミングで彼はこっちを一瞥し、
「お、ジュリエッタも居たのか! よし、まずこの炉に火を入れてだな……」
見せびらかすように説明を始めた。こういうところで、やっぱりろくでなしだと再確認させてもらう。
「限界まで小型化に成功した蒸気機関を利用してパワーを溜める!」
彼の説明に従うかのように、内蔵された歯車やパイプなどが盛んに動き出し、音を立て始めた。装置が物凄い蒸気を吹くようになると、汚染の主も復帰していた。
「さぁ、後はチャンスを伺うだけだ!」
口から飛沫を飛び散らせながら主は再び咆哮を上げて、空気を揺らす。
何度目にしても、恐るべき迫力だ。自分の本能がかなりの緊急性で「逃げろ」と訴えかけて来る。けれど、スレッジは相手から目を離さない。
主は両腕を振り上げ、身を乗り出すように思い切り叩きつけた。その凄まじい衝撃で立った大量の土煙によってスレッジの姿は消えるものの、義手に点った火が彼の動きを確かに伝えている。
彼は思い切り腕を突き出し、同時にレバーハンドルを倒した。
「ロケットぉ、パ~~ンチッ!!!!」
威勢の良い掛け声が響いた次の瞬間、土煙は忽然と消えて、清々しい程の轟音が撃ち鳴らされた。一発、空間が大きくよろめいた。俺たちの鼓膜が置き去りにされた。
俺もジュリエッタも耳を抱えたまま呆然としてしまい、それからしばらくして主の巨体が何メートルもかっ飛ばされていることに気付いた。
ジュリエッタに肩を借りつつ、スレッジの下に駆け寄って声を掛ける。
「今のは?」
彼は赫々となるまで熱せられた装置を義手から切り離しつつ、答えた。
「おぉ、きっちり見てたか? 俺の『
「でも、これなら止めを刺しに――」
「いいや、駄目だ。すぐ逃げられる。深追いしようもんなら、ここらの奥の湿地に連れ込まれるぞ。そうなると、アイツのラウンドだ」
「……」
俺が言葉に詰まっていると、スレッジはその思いを汲んでくれた。
「……俺だってローレンスの仇を野放しにする気はねぇよ。また今度、次はお前が仕留めるんだ」
「そうできるように努めるよ」
スレッジはとにかく飲んだくれだし、ハチャメチャな男ではあるが、こういった「大人として大切な細かな気遣い」はできる人に思える。
その誠意に応えられるように辛うじて返事はしたけれど、マズい。毒が回って来たかも……とても眠い。どうしようもなく眠い。
瞬きの回数は増えるのに、ちっとも瞼が上がろうとしない。俺はそのままスレッジにもたれるように倒れて、記憶は一度ここで途切れた。
・後書き――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴッドハンド
隻腕の弔いスレッジが装う改造義手
ただ殴るだけでも十分だが、本質はまた別にある
ドリフト諸島特有の素材の中でも、耐久性、柔軟性、熱耐性に優れるものを厳選し
珍兵器の開発に成功した
今やこれは、ロマンと暴力に酔いしれる変人の象徴だ
奥義:ロケットパンチ!
ゴッドハンドに専用装置を増設し、内蔵する機関と連動させて繰り出す必殺の一撃
限界まで圧縮した蒸気と共に、ごく重い拳を一瞬にして打ち出す
その無茶苦茶な発想は武器性能、使用者の技術の両方があって初めて実現し
生身では到底得られない最高の威力と快感を齎すだろう
ちなみに、スレッジ本人は技名を「パイルバンカー」と迷った末にこちらにしたという
実にどうでもよい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます