第9話 こんなシナリオは知らないのよ!
「そうですか。では、失礼ながらウィリアム様へのお小遣いの額は多少なりと聞いております。例えそれを貯めていたとしてもカミラ嬢が今身に着けている装飾品を含めての価格には及びません。それはどうお答えされますか?」
「え? 嘘……どういうことなんだ?」
グレイス嬢の問い掛けにウィリアム様はギョッとした顔で私を見るが私は思わず「チッ」と舌打ちをしてしまう。
そしてそんな風に慌てる私をグレイス嬢は面白そうに口元に扇子を当て微笑みながら私に言う。
「カミラ様、正直に言ってみてはどうですか? ウィリアム様はお優しいですから、理解してもらえるかも知れませんよ」
「な、何を仰っているのか私には分かりかねますが……すみません」
「おや、そうですか。では、私から補填する形で説明しましょうか。まずドレスはそちらのウィリアム様からの贈り物ですね。イヤリングは……あ~そちらのマイケル様。指輪はダルク様で、ネックレスはバーグ様で靴はアッシュ様からですよね。他にも色々ありますがこんなところでしょうか」
「え? どうして、それを……あ!」
ウィリアム様はグレイス嬢から目録を渡されると、それをジッと見る。そして私はなんでこんな物がとウィリアム様が見ている目録を横から覗き込むが、そこには私でも忘れていた贈り物が書き記されていた。
グレイス嬢が目録から目を離さないウィリアム様にそっと声を掛ける。
「さて、ウィリアム様。あなたが婚約破棄したい理由は以上でしょうか?」
「あ、ああ。そうだな悪かった。私は何も見えていなかったようだ。すまない。では、今回の婚約破棄はなかったことに「なりませんよ」……え?」
「ですから、婚約破棄は受け入れます」
「どうしてだ! 私は目が覚めたのだぞ」
「少~し目覚めるのが遅かったようですね」
「ん? それはどういう意味だ?」
「ですから……病気を保有している方とのお付き合いはご遠慮させて頂きます。と、そう申し上げています」
「え? だから、それが分からないと言うのだ。私がなんの『病気を保有』していると言うのだ?」
「おや? もしかして御自覚がないのでしょうか?」
「だから、それは何を言ってるんだと聞いている!」
「では、先程読み上げたカミラ様に贈り物をされた方にお聞きしましょう。最近、股間がどうしても痒い方、いらっしゃいますよね? 後、非常に申し上げにくいのですが、所謂男性特有の臓器から膿が出ている方もいらっしゃいませんか?」
「「「……」」」
グレイス嬢が言った『病気を保有している』が、胸に引っかかる。そしてそう言えばと私にも思い当たる節があった。最近、どうもアソコが痒いような気がしていたのはまさかそういうことなのかと腑に落ちる。
腑に落ちるが安心は出来ない。誰が感染源かは分からないが、私を中心に病気が広まっているとこの場で宣言されてしまったのだ。このままではいけない。そして、それに呼応するかの様に殿方達のキツい視線が私へと集中しているのが分かる。
「グレイス嬢、済まないが分かる様に説明してもらえないだろうか」
「え? 私の口から言わせるんですか?」
「ウィリアム様、その辺でよろしいでしょうか。婚約破棄の件は後ほど、陛下より正式な書簡にして頂きますので」
「宰相殿、それは「意見はいろいろありましょうが、まずはその身を清めてからにして頂きたい」……それはどういう意味だ?」
「言わなければ分かりませんか?」
「ぐ……」
ウィリアム様に救いを求めようと、そちらを見ればウィリアム様は既に私どころではなくご自分の身を案じているようだ。そして、ウィリアム様は宰相からの言葉に私を睨み付ける。
「グレイス、ここはもういい」と宰相に言われグレイス嬢が会場から出て行く。
そして私はどうやってこの場を抜け出そうかと考えていると、両脇を衛士二人に抱きかかえられる。
「え? 何? どうするのですか?」
「お静かに願います」
「あなたを連行するようにと命じられました」
「え、嘘! なんで! 私が何をしたというのですか!」
「見苦しい。さっさと連れて行け!」
「お待ち下さい! 陛下、私が何をしたと「うるさい!」……陛下……」
「カミラよ。皆まで言わせるな! 貴様は婚約者がいるウィリアムを誑かしたばかりか、貴族の子弟を手当たり次第に惑わし、剰え病気を感染させた悪女だ! もし、この病気が原因で子種がなくなれば、死罪どころでは済ませぬと心しておけ。連れて行け!」
「「ハッ!」」
「そんな……どうして……私は、幸せになれるハズだったのに……」
気付けば私は馬車に乗せられ、辺境にある女性ばかりの修道院へと送られた。
私をここまで連れて来た衛士の話では私に対する罪はまだ確定していないらしい。だが、喜んでいられないのは、その確定していない理由と言うのが、上げられた罪が多すぎて吟味している最中だということだった。
そして、その衛士は「よくて死ぬまでこのまま。悪くて引き裂きの刑か磔にされての投石になるだろう」と言い残して王都へと帰っていった。
「取り敢えずは死ななくて済んだけど、こんな終わり方はないよ。私が知っている
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