第7話 舞踏会での後の出来事
「パパ……」
「ウィリアムよ、疲れているようだな。少し奥で休むがよい」
グレイスが舞踏会会場から出て行くと同時にこの国の国王であり、この醜態をさらしたウィリアム王子の父でもあるチャールズ国王は嘆息すると息子であるウィリアム王子に話しかける。
「パパ!」
「諄い! ここでは『陛下』と呼べといつも言っているのが分からないのか! もういい、おい連れて行け!」
「パパ、パパ……お願いだよ」
ウィリアム王子はここに来て自分が何を仕出かしてしまったのか、ようやっと朧気ながら理解したようだ。
でも、自分は王子なのだから、父親でもあるチャールズ国王に縋ればなんとか収拾して貰えると思っていたが、国王はウィリアムが伸ばしたその手を払いのけると「連れて行け」と冷たく言い放つのだった。
ウィリアム王子は観念したように俯くと国王に命令された衛兵がウィリアム王子の側にピタリと寄り添い、そのまま舞踏会会場の外へと連れ出される。
「あれが私の息子だと言うのか。情けない……」
「陛下、あまりその様な物言いは控えた方がよいかと」
「しかし、宰相よ。其方も腹の中ではそう思っているのではないのか」
「ふふふ、それにはお答えしかねます」
「それは、そう言っているのも同じだろう。まったく……本来ならば、この舞踏会の最後にウィリアムと其方の令嬢……グレイス嬢との婚約を正式に発表し、貴族派に対して王族派の盤石ぶりを見せつけるつもりだったのに……それを彼奴が全て台無しにしてくれたわ!」
普段は怒鳴り声をあげることもなく温厚さで人柄もよいと言われている国王が玉座の肘掛け部分を『ゴン!』と鈍い音が発せられるほど握りしめた右拳を叩き付けている。
それほど腹立たしい思いをした国王とは裏腹に宰相は『よくやってくれた』と心の中で大喝采だ。
「これでアイツを王太子に選ぶことは無理になった」
「そうですね。平然と公金を横領したことを認めたのですからね。それも公金をまるで自分の財布とさえ勘違いしているように考えていた節があります」
「ああ、あれはダメだ。だからこそ、彼奴を王太子にする訳にはいかぬ」
「まあ、その辺りはごゆっくりお考えください。これでウィリアム王子を推していた貴族派の連中も少しは静かになりましょう」
「それもそうだな……」
国王と宰相の会話を聞いていた二人の王妃、ウィリアム王子の母である第一王妃『イザベラ』、そして第二王子の母である第二王妃『オリビア』の顔は対照的であった。
イザベラ王妃は言うまでもなく我が息子ウィリアム王子の醜態を見て顔が蒼ざめる。これで自身が国母となる道も潰えたと。
その反面、オリビア王妃は、これで自分の息子である第二王子が王太子へとなることが濃厚になったのだから、イザベラ王妃の横で笑いを堪えるのに必死だ。
「だが、彼奴一人でここまでのことをするとは思えん。誰か唆したヤツがいるはずだ。宰相よ。その辺りを調べてはもらえまいか」
「承知しました。少し時間が掛かるかも知れません。それとウィリアム様にも多少、強引に聞くことになるかと思いますが、よろしいでしょうか?」
「構わん。その程度なら彼奴にはいいクスリになるだろう」
「はっ、では進めさせて頂きます」
「ああ、頼む」
国王は鷹揚に頷くと宰相は近くにいた側仕えに軽く頷くと、その側仕えは了承したとばかりに軽く頭を下げると宰相の側から離れていく。
「少々、厄介なことになりそうですがよいのですか?」
「ふん! 相手が貴族派だろう国王派だろうが構わん。息子にした幾分の一だろうが後悔させてやるつもりだ!」
国王が憤慨する様子を見て宰相は思った。それほど怒るのなら、その前にちゃんと躾けろよと。
国の政を主に任されている宰相の身分としては、あまりにも色々な面で不出来なウィリアム王子が国王になることを約束された身分である『王太子』に任命されるのは我慢が出来なかった。そして自分の娘がこんなヤツに嫁がされるのは、それ以上に我慢が出来なかった。
だが、宰相が今回の主人公でもある男爵令嬢のカミラ嬢を仕掛けた訳ではない。宰相が手筈を整えたのは姉グレイスではなく
だが、妹グレイスはビル宰相が思っていたよりもいい働きをしてくれた。カミラ嬢のことに関しては単なる余興に過ぎなかったが、ウィリアム王子を追い落とす追い風になったことも事実だ。そして、カミラ嬢には叶うなら宰相からも褒美を与えたいと思ったことは内緒だ。
「彼奴は本当に余の息子であろうか」
「……」
宰相は言葉にしなかったが『間違いなく女性にだらしないところはあなたの血筋でしょう』と自分のことは棚に上げたままで、そう思うのだった。
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