第4話 皆兄弟!

 ウィリアム王子も自分が贈ったドレス以外が誰からの贈り物なのかが気になる。そして、先程の『複数の女性からの言及』と言っていたことが頭を過り「まさか」とカミラ嬢に問い掛けるように言えば「ちっ」と貴族令嬢らしからぬ舌打ちが聞こえたことでウィリアム王子は驚いてしまう。


「カミラ様、正直に言ってみてはどうですか? ウィリアム様はお優しいですから、理解してもらえるかも知れませんよ」

「な、何を仰っているのか私には分かりかねますが……すみません」

「おや、そうですか。では、私から補填する形で説明しましょうか。まずドレスはそちらのウィリアム様からの贈り物ですね。イヤリングは……あ~そちらのマイケル様。指輪はダルク様で、ネックレスはバーグ様で靴はアッシュ様からですよね。他にも色々ありますがこんなところでしょうか」

「え? どうして、それを……あ!」


 私がカミラ様が今身に着けている贈り物を誰からなのかをウィリアム様に伝えると、それを隣で聞いていたカミラ様が呟くが、その発言内容が事実だと認めてしまっている。私はそれに気付かないふりをしてウィリアム様に読み上げたリストを渡す。


「では、こちらが目録になります。どうぞ」

「あ、ああ。ありがとう」


 ウィリアム様が受け取ったリストをカミラ様は悔しそうに見ているが、貴族令嬢がする目付きではありませんよ。


「さて、ウィリアム様。あなたが婚約破棄したい理由は以上でしょうか?」

「あ、ああ。そうだな悪かった。私は何も見えていなかったようだ。すまない。では、今回の婚約破棄はなかったことに「なりませんよ」……え?」

「ですから、婚約破棄は受け入れます」

「どうしてだ! 私は目が覚めたのだぞ」

「少~し目覚めるのが遅かったようですね」

「ん? それはどういう意味だ?」

「ですから……病気を保有している方とのお付き合いはご遠慮させて頂きます。と、そう申し上げています」

「え? だから、それが分からないと言うのだ。私がなんの『病気を保有』していると言うのだ?」

「おや? もしかして御自覚がないのでしょうか?」

「だから、それは何を言ってるんだと聞いている!」

「では、先程読み上げたカミラ様に贈り物をされた方にお聞きしましょう。最近、股間がどうしても痒い方、いらっしゃいますよね? 後、非常に申し上げにくいのですが、所謂男性特有の臓器から膿が出ている方もいらっしゃいませんか?」

「「「……」」」


 私の発言に思い当たることがあるのか、何人かの男性が顔を伏せ「許せない」と呟いている。


「グレイス嬢、済まないが分かる様に説明してもらえないだろうか」

「え? 私の口から言わせるんですか?」

「ウィリアム様、その辺でよろしいでしょうか。婚約破棄の件は後ほど、陛下より正式な書簡にして頂きますので」

「宰相殿、それは「意見はいろいろありましょうが、まずはその身を清めてからにして頂きたい」……それはどういう意味だ?」

「言わなければ分かりませんか?」

「ぐ……」


『病気持ち』と言われたウィリアム様は私にどうしてそうなるのかを説明しろと迫って来たが、いくらなんでも貴族令嬢に言うことか。まあ、そういう残念なところが可愛いと思ったこともあったが、ここまで緩いと父が言うように廃嫡して弟のヘンリー王子に任せた方がいいのかもしれない。


「グレイス、ここはもういい。早くその赤ワインを洗い流して清めるがいい。フィリー頼む」

「はい、ビル様。お嬢様、参りましょう」

「はい。では、父上。失礼します。陛下、ごきげんよう」

「あ、ああ。グレイス嬢よ。色々と悪かった。不出来な息子で済まない」

「陛下。そこまでで」


 王が頭を下げようとするのを父であるビル宰相が止める。なんだか納得いかないが、この場から逃げられるのなら、それでいい。


 陛下と父に挨拶をしてから舞踏会の会場から出て行く。


 舞踏会の会場を出る前にウィリアム王子とカミラ様とウィリアム様の穴兄弟が、その場でカミラ様にどういうことだと詰め寄っていた。そして、その穴兄弟の周りにはそれぞれの婚約者が自分の婚約者とカミラ様を責めていた。


 あれだけの男性を美醜で差別することなく資金力だけでヤッちゃうのもある意味感心してしまうなと思いつつフィリーに馬車に乗せられると王宮から出て、屋敷に帰る。


 屋敷に帰れば、家人に挨拶することなく浴室へと案内され、こちらが何かをするよりも早く衣服が剥ぎ取られ複数のメイドの手により頭からつま先まで綺麗に洗われる。


 湯舟でゆっくりと温まり浴室から出ると、また数人のメイドにより水分を拭き取られ、髪を整えられ、衣服を着せられ、腰には片手剣を下げている。


「あれ?」


 それが鏡の中の自分を見て思った感想だ。これじゃまるで冒険者じゃないかと。

 さっきまでドレスを着て、優雅に扇子で口を隠し思いっ切り笑うことも出来ずに腹筋が痛くなっていたのに鏡を見て、どういうことだと繰り返し考えているとフィリーがトレイを持って隣に立つ。トレイには手紙らしき丸められた書簡と硬貨……多分、金貨が入っていると思われる革袋が載せられている。


「ビル様よりお預かりしているお手紙と金子になります。お改めください」


 フィリーからトレイの上の革袋と手紙を受け取り、広げるとそこにはこう書かれていた。


よ。お役目ご苦労。お陰で娘である『グレイス』はあのバカ王子と婚約解消の運びとなった。礼と言ってはなんだが金貨五十枚を受け取ってくれ。そして、二度と私の『』と名乗ることを禁じる。今日中に家から出るように」

「うわぁ~これだけのことをやらせといてたったこれだけかよ」

「グレイス様?」

「いや、俺はもうじゃないから」

「……そうでした。では、なんとお呼びすれば「いいよ」……はい?」

「だから、もう俺はお役御免で、この家から追い出される身だから。もう会わないだろうし、そういうことで。じゃあね」

「え? どういうことですか?」

「詳しくは親父……あ~もうでもないか。あの宰相のオッサンに聞いて。じゃあね、今までありがとう!」

「あ……」


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