復讐に全フリしようと思いましたが、全力で逃げたいと思います
由友ひろ
第1話 未来と過去
「……いつから」
私は目の前の光景に、目眩がして吐き気まで込み上げてくるのを、足を踏ん張って耐えた。
家とは駅3つ離れたところにあるショッピングモール。いつもならば、ここまでは買い物にはこない。駅から家までの間に昔ながらの商店街があるし、買い物はそこで十分間に合うからだ。
今日は、たまたまショッピングモール内にある病院に用事があって……。
日頃と違う行動をしたから悪かったのか、それともそれを知れて良かったと受け止めるべきか。
10メートル先に、仲が良さそうな親子がいた。
お父さんは3〜4歳くらいの女の子を肩車してあげていて、そのお父さんに寄り添うように腕を組むお母さんのお腹は、2人目を妊娠しているのか大きかった。
誰が見ても幸せそうな親子の買い物風景、私も憧れた親子の姿。あそこで笑っているのが私の夫でなければ。
★★★
「ごめんな。急な出張で」
「しょうがないよ。健ちゃんの会社はバリバリ大手だもん。転勤がない代わりに出張多めなのは、就職の時の契約なんでしょ」
「うん。ほら、
健ちゃんは、結婚3年目にもなるのに、いまだに行ってきますのキスをしてくれる。
付き合いだけでいったら、それこそ私の年齢だけの付き合いはあるし、私が中学の時から付き合っているから、マンネリ夫婦になってもおかしくないのに、まだ子供がいないせいか、友達からも新婚さんみたいと呆れられるくらい仲が良い。
私達の母親が親友で、家を買うのも同じ地区の分譲住宅、夏休みに冬休み春休みは、常に2家族で過ごした。
私より2つ年上の健ちゃんは、私のことを妹みたいに可愛がってくれて、私の初恋は健ちゃんだし、健ちゃんの初恋も私だって聞いてる。健ちゃんが高校生になって、違う学校に通うようになると、彼女ができちゃうんじゃないかって不安で、私から告白した。
初めての彼氏も、初めてキス、初めてのHも全部健ちゃん。
そして、私が大学を卒業すると同時に結婚。最初は、私が勤めたばかりだし、子供はもう少し後かなって話し合い、25歳間近になって、そろそろだよねって話になった。不妊治療してみようって私から言ったんだけど、何故か健ちゃんは乗り気じゃなくて。「まだ早いよ」って、もう25歳なのに……。
色々調べて、うちから電車で3つ乗った先にある女医さんのいる産婦人科が評判よくて、不妊治療もしているみたいだから、健ちゃんが出張の時に、ちょっと話だけでも聞いてみようって、不妊治療外来の予約をとってみた。
病院で診察する前に検査しますって、尿検査したら……いきなり妊娠発覚。内視鏡検査をしたら、小さな豆みたいな赤ちゃんがいたの。
もう嬉しくて!
でも、電話なんかじゃなく、健ちゃんの顔を見ながら報告したくて、自然とニヤける顔を引き締めながら歩いていたら、出張で東京にいない筈の健ちゃんが、子供を肩車して、お腹の大きな女性と楽しそうに歩いていた……。
「パパー!もっと高く、高く」
パパ?!
健ちゃんは、パパって呼ばれても普通の顔で、女の子の身体を両手で高く持ち上げては下げるをを繰り返していた。女の子は、本当の父親に対するように無邪気にキャッキャ喜んでいる。
「パパの腰が痛い痛いになっちゃうよ。カオちゃん、自分で歩こうか」
「ヤッ!カオちゃんパパの肩車がいい」
「駄目よ。ちゃんと歩こうね」
「真由、俺は大丈夫だよ。カオちゃんには単身赴任で寂しい思いさせてるからな。帰ってきた時くらい甘やかしてやらないと」
単身赴任?3駅先に単身赴任ですか?
「パパ、明日帰るまで、カオちゃんといっぱい遊ぶからな」
「カオちゃん、今日はパパとねんねする。いつもカオちゃんのけもので嫌なの」
「大きくなったら、ママやパパとは一緒に寝ないんだろ?カオちゃんお姉ちゃんになりたいから一人で寝るって、ずっと一人で寝てたじゃないか。だから、本当にお姉ちゃんになれたんだけどな」
「健一、カオに変なこと言わないで」
健ちゃんは、女性の肩を抱き寄せながら笑っていた。
私…………何を見せられてるの?
心臓がバクバクして、身動きが取れなくなった。
健ちゃん達は私からどんどん離れて行き、私は息が苦しくて苦しくて……。立っていることもできなくて、目の前が真っ暗になった。
20☓☓年10月23日の出来事だった。
★★★
「赤ちゃん!」
私は目が覚めると、お腹に手を当てて飛び起きた。
私の……私と健ちゃんの赤ちゃん。
当たり前だけどお腹はぺちゃんこで。
滝のような汗が流れる。
いつから私は健ちゃんに騙されていたのか?どう見ても、3〜4歳の子供。私と結婚したくらいに生まれてる。なんで?
お腹を撫でて、私は異変に気がついた。
髪の毛が伸びている?
肩を少し超えるくらいの茶色いミディアムヘアだったのが、真っ黒サラサラストレートの背中を覆うくらいのロングヘアーになっていた。こんなに長かったのは、中学か高校生の時くらいで……。
ハッとして周りを見て、ここが結婚してから暮らしているマンションではなく、実家であることに気がついた。壁にかけてあるカレンダーに目を向けると、7年前の10月。
「……ドッキリ?」
私はバクバクする心臓を押さえてベッドから起き上がると、カレンダーの横、壁にかかった鏡の前に立った。
「嘘……」
鏡の中には、まだ若々しい私がいた。7年前といえば高3。
え?これから受験?
あの時私は大学受験に失敗して、健ちゃんの通っていたJ大学には入れなかったんだった。しょうがなく、唯一受かった女子大に通ったんだけど、高3の時にデートばっかしてないで、ちゃんと勉強してたらって、凄く後悔をしたのを覚えている。
悔しくて悔しくて、試験問題を何回もやり返した……やり返したわね。問題を今でも夢に見るくらい。
勉強机に走り、参考書を開いた。似ている問題に丸をつけていく。教職を取って英語の予備校講師の仕事をしていたから、英語は問題ない。苦手な数学は出る問題がわかってる。他は頑張ればいけるんじゃない?
あの時は、健ちゃんに誘われるままデートしてたけど、よく考えたらおかしいよね。同じ大学に来て欲しかったら、勉強見てくれるなり、せめて邪魔はしない筈。それが、毎週土曜日はデートしてたし、日曜日はバイトだからって、朝とか夜とかに呼び出されてたような記憶がある。平日も、夕飯までは遊んだり……。私がJ大ギリギリだって知ってたのに。
健ちゃんが浮気するなんて全く考えていなかったから、ただ私に会いたいから、好かれてるんだって思っていたけれど、今考えると……同じ大学になって浮気がバレるのを防止したかった?
フツフツと怒りが込み上げてくる。
私は健ちゃんだけだった。14歳で付き合って、全部が全部健ちゃんが初めてで、いつまでも仲良しだって、そう信じていたのに。
健ちゃんは共学の高校からJ大に進学、大手のK商事に就職。
私は女子校の高校からI女子大に進学、教職を取ったものの、学校には就職できずに塾講師になった。
付き合い出したのは、健ちゃんが高校1年の時。いつから私を裏切っていたのか。あの、女の子の母親とはいつからの付き合いなのか。
まずは知りたかった。
大好きだったから、だからこそ許せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます