「女の子になって」と幼馴染に迫られて

ヨシモトミキ

第1章 Episode:凜

第1話「まだ男じゃなくてよかった」

 小学校5年生まで、ボクは間違いなく男の子だった。小柄で、女の子に間違えられることもあったけど、間違いなく性自認は男。女の子への初恋だって経験した。その初恋がすべての原因なのだけど。

 今のボクは誰がどう見たって女子高生だ。ちょっとうぬぼれさせてもらうと美少女と言ってもいい。もちろん、女の子の制服を纏って高校に通っている。巨乳ではないけど胸だって膨らんでいるし、裸になったって女の子。でも、本当は違う。男でもない。性別を失ってしまったボクは女子高生を演じながら日々を過ごしている。


 どうしてこんなことになってしまったのか。それは小学校5年生の夏休みから始まった。両親が共働きで帰りも遅いので、ボクは毎日ユミ姉ちゃんの家に預けられる。その年は彼女のお母さんがパートに出はじめたこともあって二人きりで過ごすことが多かった。


「凜ちゃんは私のこと好きなんだよね?」

 ユミ姉ちゃんはボクの髪を撫でながら、からかうように聴いてくる。もちろん、素直に答えたりしない。

「そんなことないし!それにもう5年なんだからちゃん付けで呼ぶのやめてよ。女の子みたいで嫌だ」

 彼女は相変わらずボクをからかうような笑顔を浮かべたままだ。

「女の子みたいなのは嫌?」

 いつもと少し違うやりとりの流れにボクは戸惑った。いつもなら「私は凜ちゃん大好きだよ」なんていいながらベタベタくっついてくる。ボクは口では「やめろよ」なんて言いながら内心ドキドキするんだ。ユミ姉ちゃんはボクの初恋の人だから。


 ボクとユミ姉ちゃんはいわゆる幼馴染だ。家が隣同士で物心ついた頃からいつも一緒にいた。ただ、歳は5つも離れていたので周囲から仲の良い姉弟のように見えていただろう。ボクも最初は姉のように慕っていた。でも小学校5年生、ちょうどこの頃からユミ姉ちゃんを異性として意識するようになって、彼女への気持ちが初恋なんだと自覚するようになったんだ。

 ボクのそんな気持ちを察したかのように、挑発をはじめた。それが夏休みに入ってからどんどん激しくなり、ボクはいろんな期待を抱くようになった。性の知識は乏しかったけど、男女がどんな形で愛し合うのかはネットでなんとなく知っていたし。一方で小学生と高校生という年齢差から、どうせからかわれているだけ、という気持ちもあった。そんな葛藤に苦しむ夏休みだった。


 そもそもボクが完全に性的に目覚めていたのかもわからない。子供の頃とは違う、明らかに女性として成熟しつつある彼女の胸やきめ細かい肌に感じていたのは、おそらく性的興奮だ。でも、ボクにはまだ射精の経験はなかった。男性として目覚めつつあるのは確かだったけれど、機能はしていなかったのかもしれない。そんな微妙な時期だった。


「女の子は凄くいいんだよ」

 そう言いながら彼女は思いがけない行動を取り始めた。服を脱いだのだ。夏だったので彼女が身につけていたのはTシャツ1枚。ブラジャーはつけていなかった。ボクは慌てて目を逸らす。見たかったけど、その気持ちが恥ずかしくて大げさに顔を背けた。でも、そんなに広くない彼女の部屋の中だ。すぐにその白い肌が視界に割り込んで来る。

「ちゃんと見て」

 何度か抵抗を試みるも、結局ボクの目は彼女の身体に釘付けになった。

「どう思う?」

 彼女の表情はさっきまでとはまるで違って、ドキっとした。真面目というか、どこか切実で切ないものだった。だから、ボクも観念した。

「好き」

 彼女は表情を変えないまま続ける。

「私の身体が好き?」

「ユミ姉ちゃんが好き」

 ボクが答えると、彼女の表情が柔らかくなった。

「私も凜ちゃんが好き」

 そのまま彼女に抱きしめられて、ボクはどうすればいいのかわからなかった。彼女は裸だったし、ボクのアソコも固くなっていた。この先、どういったことが起こるのかある程度想像はできた。でも、どうすればいいのかわからない。ドキドキしていたし、多分、性的に興奮していたけど、それ以上に怖かった。子供の頃からずっと一緒に過ごして、よく知っているはずの彼女がまるで知らない人のように思えた。

 そんなボクの気持ちを彼女はいつも察してくれる。

「ベッド行こ」

 気付いたらボクはお姫様抱っこのような形でベッドまで運ばれていた。これじゃボクが女の子みたいだ、そう思ったけど、抵抗はできない。

 ゆっくりベッドに寝かされて、服を脱がされる。さすがにトランクスに手をかけられた時は恥ずかしさから一瞬抵抗したけど、すぐに力を抜いた。ボクのアソコが硬く、大きくなっているのは抱きしめられた時に気付かれているはずだ。もう、どうにでもなれというやけくそな気持ちと、同時にやはり大きな期待でドキドキしていた。エアコンが効きすぎているせいでさっきまで肌寒いくらいだったのに、汗ばんでくるような感覚になる。

「凜ちゃんも、ちゃんと男の子なんだね」

 彼女は大きくなったボクの下半身を複雑な表情で見つめながら呟いた。

「ユミ姉ちゃんも、ちゃんと女の子でしょ」

 少し開き直ったボクは急に生意気な口も利けるようになった。すると、きっと彼女はいつもみたいにベタベタしてくる。今日は裸だけど。そして、それから……。でも、彼女の反応はボクの予想とは少し違った。

「男の子と女の子、どっちがいい?」

 あまりにも予想外の言葉に、ボクは言葉に詰まってしまう。

「私は、凜ちゃんも女の子がいい」

 言葉の意味がまるで理解できなかった。ボクの答えを待たずに彼女はボクのアソコを握る。ちょっと冷たい手だ。それだけで、これまでに味わったことがない不思議な感覚が襲ってきて、思わず腰を浮かせた。

「女の子みたいな反応するのね。かわいい」

 相変わらず彼女が言っている言葉の意味はわからなかったけど、バカにされているような気がして少しムっとして、彼女から顔を逸らす。

「恥ずかしいの?」

 意図とは違った受け取り方をされて、ボクはまたどうすればいいのかわからなくなる。でもすぐにさっきよりも強く握られて思考は遮られてしまった。そのまま、ボクと彼女はベッドの中でひとつになった。やり方が正しかったのかはわからない。初めての経験だったし、必死だった。気持ちよかったのかもわからないけど、確かに興奮していたはずだ。でも、最後までは至らなかった。多分、イったという感覚はあった。でも、何もでなかった。だから、結局はただの真似事だ。

「やっぱり凜ちゃんは女の子がいいよ」

 射精できなかったからだろうか。

「ボクは男だよ」

 認めたくないけど、まだ未熟なだけだ。子供ながらに、彼女を愛しているという自覚もあった。だから男だと主張した。

「安心したよ。まだ凜ちゃんが男になってなくて」

 今日の彼女は何かおかしい。

「凜ちゃん、女の子になってよ」

 そう言うと、彼女はボクにキスをした。

「女の子になったら、ずっと一緒にいてあげる。男を選ぶならもう会えない」

 理解できなかったけど、ボクは反射的に答えてしまった。

「ボク、女の子になるから一緒にいて」

 その言葉を聞き終わる前に彼女に強く抱きしめられた。この決断がボクの運命を大きく変えることになったのに、幸せだった。この時、一生分の幸せを感じてしまったのかもしれない。

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