コスプレ喫茶で結界を張ったら、笑えないことになりました。そういうの、やめな。

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 コスプレ喫茶に結界を張ってみたら、残念なことになりました。助けてください。だれか、この人たちを何とかしてください。

 ここは、とあるコスプレ喫茶。

 (または「ざんねんな店」という)

 お気楽なオタク男子モナタ君が、こんな気持ちをかかげて働く。

 「ラキスタ(ラッキースタイルという意味らしい)を、目指せ!」

 コスプレ喫茶は、ほぼほぼ、接客業だ。

 「客のもつ世界観を、良い感じに演出してあげる仕事」

 コスプレ喫茶の店員たちは、客の思い描く世界観に合ったような服を着たりして、その世界の住人のようなキャラになりきる。

 そうして、なりきったその姿で、客たちのいるテーブルを回ったりする。

 客たちは、大満足だ。

 それは、そうと…。

 「モナタ君?」

 「何ですか、店長?」

 「客の入りが、良くないねえ」

 いつもの、ことだけれどね。

 「そうだ、店長?」

 「何かね?」

 「店に、結界を張りましょう!」

 「結界?」

 「俺には、宇宙人も驚くほどのパワーが備わっているのを、思い出しました(こういうことを言ってしまうのが、オタクっぽい)」

 「おお」

 「俺、実は、結界師の末えいなんです!」

 「…それはまた、漫画的に、ギリな言い方だねえ」

 「見よ、陰陽師の力!」

 「あれ?結界師じゃ、なかったの?」

 両手の人差し指を交差してみたり、中指とクロスしてみたりと、彼独自の動作がはじまった。

 「エロイムエッサイム!」

 「モナタ君?それ、やばい呪文じゃ…」

 店長の言葉もむなしく、彼の指が動き続ける!

 「テクマクマヤコン…テクマク…」

 「モナタ君?それも、ちがう気がする」

 呪文の詠唱が、終了。

 「店長?これで、やばいものは店に入ってこないはずです!」

 「やばいもの?…それって、たとえば?」

 「魔人ブウ、とか!」

 「魔人ブウは、コスプレ喫茶にはこないと思うよ?」

 「そうだ。店長!」

 「何かね?」

 「店の中から外に向けて結界を張っただけでは、弱いかもしれません!」

 「え?」

 「店の外側にも、結界を張りましょう!」

 「できるのかね、モナタ君?」

 「できますとも!こう見えても俺、奇面組に入っていましたから!」

 「うそだあ」

 先ほどのときと同じように、手を組み、指を動かしはじめた彼。

 「店長?フィンファンネルバリア、張り終わりました!」

 「今度は、ガ○ダム?」

 「あ、店長!」

 「え?」

 「俺、店の中に、入れなくなってしまいました!」

 「何だって?」

 「結界の力、ですかね?俺、店内に入れなくなってしまったんですよ」

 「ええ?」

 「じゃあ、今日は休みますんで」

 「あ、ずる休み!」

 店の外にまで彼を追いかける、店長。が、あっさりと、逃げられてしまう。

 「まったく…。さすがに、私のようなおじさんの足では、若者の足にはかなわない…。困ったもんだよ」

 おっと、店長?

 本当に困ったことは、そこじゃないはず。

 「…あれ?一旦、店の外に出てしまった私も、店の中に入れなくなってしまったぞ?…け、結界の力なのか?」

 新しい、ピンチ!

 客がいなくて、良かったね。

 結界が解けるまで、 1時間ほどかかった。

 「あ…!さては、モナタ君は、やばいものだったということか?私もまた、実は、やばいものだったということなのか?なるほど、客の入りが悪いはずだ」

 そうか。

 ようやく、気付いたか。

 客がいなくて、本当に、良かったね。

「さあて、私も、帰ろうかなあ。モナタ君だって、結界にはじかれて帰ってしまったんだ」

 このコスプレ喫茶は、今日も、平和だ。

 「私にも、帰る権利があるはず!」

 ダメですよ、店長?

 (注 :全国のコスプレ喫茶がこういう感じというわけではありません)






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