3話。彼女いませんよね?
3話。彼女いませんよね?
「私が近いうちに連絡しますので、ぜひ一度会いましょう!>
レンはメッセージを読んで思った。
「会おうって?」
しかし、レンはあまり返事をしたくなかった。 いずれにせよ、業務用携帯電話からのメッセージであり、辞職届を出したため、業務用携帯電話はしばらく切っておいても構わないはずだから、彼女のメッセージを読むこともないだろう。
レンは数日間一人暮らしのワンルームに閉じこもって、隠居生活を始めた。 業務の負担感から抜け出して数日を過ごすと解放感が感じられた。
食べ物は家の近くの飲食店で包装して食べたりコンビニで買ってきたもので食べながら狭いワンルームで数日間ほとんど寝たり横になって携帯電話を見ながら時間を過ごした。
一週間ほど経った時、レンは夕食を食べてベッドに横になったまま久しぶりに業務用携帯電話の電源を入れた。 予想通り、シユキからのメッセージが何通か入っていたが、レンはわざと読まなかった。
さて、知らない番号から文字メッセージが一通入っていた。
<芹沢レンさんの携帯ですか?>? 私は伊藤弁護士です。 父が亡くなりましたので、このメッセージを確認したらすぐに連絡してください。>
レンはびっくりしてベッドから立ち上がった。 メッセージの発信日時は前日午前だった。
連絡をほとんどせずに過ごしていた父親だったが、いざ亡くなったという連絡を受けると衝撃だった。 携帯電話を見てみると、誰かが発送したメッセージがまたあった。 誰なのか調べてみたら叔母が送ったメッセージだった。 おそらく叔母もレンの連絡先を正確に知らないため、父親の携帯電話アドレス帳にあるすべての人々にメッセージを送ったようだった。 メッセージには父親が前日の朝に亡くなったという事実と共に葬儀場の名前と位置などが詳細に出ていた。
レンはまず弁護士に連絡しなければならないと思い、電話をかけた。 それほど遅い時間ではなかったので、弁護士はすぐに電話に出た。
「はい、伊藤弁護士です。>
「こんにちは。私、芹沢レンと申します。>
弁護士はレンの声を聞いて答えた。
「あ、芹沢レンさんでよろしいですか? 連絡が取れなくて心配しました。 プロ野球団スカウトとして働いていらっしゃるという話を聞いて球団事務所に聞いて連絡をずっと差し上げたのですが、連絡が取れず携帯電話の電源が切れていました。>
「携帯の電源をずっと切っておいて、少し前につけたので今分かりました。>
「もしかして今葬儀場にいらっしゃるんですか。>
「行ってみないと。>
「それでは私も今出発しますので、葬儀場でお会いしましょう。>
「今ですか?。>
「はい。今すぐ出発すれば10時頃には到着できるはずですから、すぐ出発します。>
「私もすぐ出発します。>
先日、球団職員が葬儀を行ったことがあったので、葬儀に着て行けそうな服と黒いネクタイが幸い家にあった。
レンは着替えて叔母が送ってくれた葬儀場の名前と住所を確認し、車に乗って出発した。
病院に着くと叔母といとこたちがレンを迎えてくれた。
「レン!来たんだ!連絡が取れなくて本当に心配した。」
「おばさん、すみません。」
叔父がいたが、数年前に亡くなったため、叔母は父親の唯一の血肉だった。 叔父の事業がうまくいっていると聞いたが、家の中が豊かなせいか、叔母は顔色がよさそうに見えた。
レンは父親の遺影写真を見て、子供としての礼を尽くした後、喪主として弔問客を迎え始めた。 一人息子のレンが連絡が取れなくて前日から叔母が代わりに喪主の役割をしたのは申し訳なかったが、それでも葬儀が終わる前に連絡を受けて葬儀場に来たのが幸いだった。
10時頃になると、スーツを着た男がレンに近づき、言った。
「芹沢レンさんできますか?」
「はい。」
「伊藤弁護士です。」
「いらっしゃいましたか?」
「よろしければ、しばらく外でお話しできますか?”
「はい。」
レンは伊藤弁護士と一緒に葬儀場ロビーの椅子に行って座った。
「実は私が伺いに来たのは遺産相続問題のためです。」
「遺産相続ですか。」
「社長の遺産を相続される方は芹沢レンさんしかいらっしゃいませんか? それから、遺言状も作成されて、すでに公証もしておいた状態で亡くなりましたからね。 所有していた住宅や自動車、そして株式などを総合すると負債をすべて返済すると仮定し、贈与税を考慮しても2億円近い金額があなたに相続されます。 そして、これは社長が残した遺言状です。」
レンは父親が残した遺言書を読んだ。 その中には父親がレンに送る手紙も一緒に入っていた。
<レン。あなたがこの手紙を読む頃には私はこの世にいないかもしれないね。 ワンルームで一人で苦労しているのは気の毒だが、プロ野球団のスカウトとして活躍しているというニュースを聞いて安心した。 すでにあなたのお母さんと離婚手続きを終えたのはずいぶん前のことで、私の血肉はあなただけだから、私が相続してあげる遺産であなたに合う配偶者に会って幸せに暮らしてほしい。 君にずっと無関心だったこととあなたのお母さんと最後まで一緒にできなくてあなたとお母さんに言うことがないし、ただ後悔して申し訳ないだけだね。>
レンは手紙を読みながら胸がいっぱいになった。 一生家族に無関心でお金を稼ぐことだけに気を使っていた父親をいつも恨んでいたが、手紙を読んでみると父親が亡くなる前に顔を見れなかったことが後悔されたりもした。
人が死ぬ直前には嬉しくて幸せだった記憶より後悔することだけがたくさん思い浮かぶという話を聞いたことがあるが、父親もそうだったと思った。
葬式を終えて叔母がレンに言った。
「弁護士に話を聞いた。 その間狭いワンルームで一人で過ごすのに苦労したよね? 相続手続きを早く進めるとおっしゃったので、手続きが終わったら君も広い家に移して結婚もして暮らせばいいんだな。 彼女はいるの?」
「ありません。」
「そう? 一人暮らしはいつも気の毒だったが、おばさんがしてくれたこともなく申し訳ない。」
「いいえ、大丈夫です。」
新しいプロ野球シーズンが開幕して数日足らずで、レンには多くの変化が生じた。
遺産相続手続きが終わり、レンは父親が住んでいた家を売って原宿の方にあるマンションに引っ越した。 幼い頃をそこで過ごしたレンにとって原宿はとても身近な場所だった。
レンは新しく引っ越した家で何日を過ごしながら、これから何をするか考えた。 父が譲ってくれた遺産はあるが、それだけを信じてぶらぶらして生きるわけにはいかないので、野球と関連した事業をするか何かを新しく始めてみるつもりだった。
4月がほぼ終わりに近づいていたある日、レンは家にだけいるからもどかしくて原宿駅付近のあるカフェに行ってアイスアメリカーノを飲みながら一人で座っていた。
ひょっこり出入り口の方を見ていると、出入り口が開くとある女性がカフェに入ってきた。 ショートカットで背が低かったが、とてもかわいい顔をしている女性だった。 少し短く見えるミニワンピースを着ていたが、顔でも服装でもなぜか可愛さがにじみ出ていた。
しかし、レンはすぐスマートフォンに視線を固定させ、野球に関するニュースを探した。 レンがスカウトとして働いていた球団は、序盤に勢いに乗って先頭グループを維持していた。
「あの、ちょっと座ってもいいですか?」
レンは女性の声に顔を上げた。 さっきカフェに入ってきたかわいいショートヘアの女性だった。 彼女はグラスを手に持ってレンを見つめながら立っていた。
「どうしたんですか? 私を知っていますか?」
「はい、知っています。」
レンはその女性の答えに驚き,顔を見つめた。 いくら考えても初めて見る顔だった。
「とりあえず座りましょう。」
どうして顔も知らない女がレンを知っていると言うのか気になった。 もしレンの電話番号でも聞くために嘘をついたのかも知れないが、どうせ忙しいわけでもなかったので、何を言おうとしているのか聞いてみようと思った。
おかっぱの娘はレンの向かいの席に座った。 そして自分が注文したレモンエードを一口飲んでテーブルの上に置いた。 レンがじっと顔を見ると、彼女はレンに尋ねた。
「芹沢レンさんですよね?」
「どうして私を知っているんですか?」
レンの名前を知っていたら、電話番号を聞こうとする目的で近寄ることはなかっただろう。 しかもレンは野球選手でもなく、ただ野球団スカウトとして働いたので、人々に名前や顔が知られることもなかった。 そして、SNSに自分の写真を一枚アップしたこともなかった。 では、どうやってレンを知っているの?
「あの、彼女いませんよね?。」
レンはそれを聞いてさらに気になった。 彼女がいるかはどうして聞くの?
「いったい…···あなたはどなたですか?」
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