川で溺れたら【液状妖魔族《バブルスライム》】に転生した。

霞杏檎

適者生存編

第1話 死亡して転生

 今日、俺は、古川 敬こがわけいは無職になった。


 一応職があったときはとあるITエンジニアの派遣社員として仕事をしていた。でも、その仕事が俺には合わなかったのである。

 残業は毎日、上司には教育の一環として毎日サンドバックのように怒られ、挙句の果てには休日出勤と来たものだ。

 そんな生活を続けていた俺は到頭身体が壊れそうになった。急いで最寄りの内科へと足を運び、会社に行こうと思うと動機、息切れが激しくなると医者へ説明する。

 医者はすぐに適応障害の病名を付けてすぐに診断書をくれた。

 俺は会社に診断書を提出して、2か月の休職期間を頂いた。この頂いた2か月、何をしようか考えようとしたが当時は上手く頭が働かなかった。

 そして、そのままぼーーっとしていたら2か月が終わろうとしていた。2か月経っても身体はだるいままだったので俺はそのまま会社を辞めてしまったのだ。

 別に就職活動などしていなかったが俺には休みが欲しかった、そんな気がする。


 仕事を辞めた俺はそのまま田舎の実家へと帰り、ゆっくりと仕事を探すことにした。

 しかし、仕事は一度辞めると次を決めるのが億劫になるのだ。こういうもんだ、人間と言うのは。

 毎日パソコンの前に座り、動画サイトでゲーム実況を見漁ったり、ゲームをしたり、読んでなかった本を読んだりして時間を潰し、気が付いたら一日が終わっている。何て堕落した生活なのだ。

 こうしてはいられないと思っているが、だからと言って今すぐに働きたいとは思わなかった。だからこそ、家族の目も少々気になってしまう。


 流石に外には出なければならないと思い、俺は毎日夕方に散歩をすることを始めた。

 この俺のいる田舎町では夕方は人の出が少ない。だから、俺はこの時間帯に外に出て、新鮮な空気を吸うのだ。

 耳にワイヤレスイヤホンを付けて近くの堤防を歩く。俺のワイヤレスイヤホンは安物だからノイズキャンセリングがない。だから、近くで流れている川の流れる音が聞いているアニソンと混ざり合い少しだけ心地よかった。

 俺はゆっくりと川に面している階段に座り、河川を眺めていた。川の流れを見ていると少しだけ心が落ち着く。

 少しでも現実を洗い流してくれているような気がする。ああ、心地いい。


「このまま、川と一緒に流れていきたい……どこか遠くへ」


 俺は思わずそう呟いてしまった。



 ☆☆☆☆☆



 気が付くと、俺はあれから川の流れをずっと見ていた。スマホの時計を見るともう19時を過ぎてしまっていた。

 そろそろ帰らなくては。

 そう思い、立ち上がった時だった。立ち上がった時、段差が濡れていたようで俺は足を滑らせてそのまま川へと落ちてしまった。


「ぐぼぉ!?」


 昨日、雨が降ったせいで川の水量がいつもより多く、足が付かない!! そして俺はカナズチだから泳ぐことが出来ない!!


 まずい!? まずい!!!!


 俺は顔を水面から上げようとするが顔をが上がらない。体中が水中で思うように動かない。

 俺はもうパニックになっていた。

 バシャバシャともがき続けるがどんどん体が川に流されていく。この時確信した。


 俺は死ぬんだ。


 そう思った時、自然と身体の力が抜けていく。ああ、まるで俺は液体にでもなったようだ……

 意識がどんどん薄れていく。薄れゆく意識の中で、頭の中に言葉が響いてくる。



《身体の『液体状』を希望、承知いたしました》



 ん? なんださっきの今の声は?

 まぁいいや、どうせ死ぬなら童貞は捨てたかった。最後の最後まで孤独に死んでいくんだ。


《……エラーが起こりました。【童貞】に関連するスキルがありません。続いて【孤独】……検索完了エクストラスキル【蠱毒】のスキルを獲得しました。更に【毒耐性】を獲得しました》


 さっきからなんだよ。ああ、もしかして、これが女神さまの声なのか……

 もしかしてアニメで見た異世界転生? ってやつか? まぁ本当にあるかは知らんが……どうせ死ぬんだ。もし、死ぬならなら頼む……俺を最強にしてくれ、そして、沢山モテたい。


《キーワードを確認【モテたい】……類似言語に【持てたい】を確認。ユニークスキル【無限収納】を獲得しました。更にユニークスキル【大食漢】を獲得しました》


 ああ、よく聞こえなかった。でも、何か希望を通してくれたんだな。やばい、本当にそろそろ視界が落ちる……


 最後に……PCの……電源……切って、くれ……


《キーワードを確認【電源】……類似言語に【電流】を確認。【電流耐性】を獲得しました》


 ありが……とう。


 こうして俺の意識は途切れた。これが俺、古川 敬の最期だった。

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