幼馴染がひきこもりになってしまいました……僕の部屋で。~特にどこに行くわけでもない幼馴染が毎日僕の部屋で遊んでいます~
一木連理
第1章 幼馴染はひきこもり
第1話 僕たちの日常
「そうめん、食べたくありません?」
「急にどうしたよ……」
「いえ、流しそうめん器ってあるじゃないですか。あれって、子供が唯一『食べ物で遊べる機会』だと思ったんですね」
相星依里(あいぼしより)は、急にそんなことを言い始めた。彼女は、僕――館山恭弥(たてやまきょうや)の部屋に押しかけてきた幼馴染だ。
そのくせ、僕の部屋に住み着いて引きこもっている。我が物顔をしてパソコンを置き、ネットを通じて物を買うこともしばしば。
依里の隣には、大きな段ボールが置かれていた。この話の流れで何が置かれているのか、わからないわけではない。
「というわけで、どーん! 買ってきました!」
「買っちゃったか……年に何度も使うわけでもないのに……」
「年に2回で五千円、そう考えると高い買い物ですよね~。子供のころに親が買ってくれなかったのも納得です」
「でも、僕の部屋に置いておく場所なんてないけど」
「今日使ったら捨てますよ」
「金持ちかよ……」
「お金持ちですが?」
そう、依里はいろいろあって大金を持っている。五千円くらい彼女にとってははした金にすぎないのだ。お金は大量に持っている引きこもり……タチが悪すぎる。
リビングでそうめんを茹でて、再び二階に上がる。依里はめったなことがない限りリビングに降りてこない。他人の家だから居にくい、というのはあるのだろう。じゃあなぜ僕の部屋はいいのか、という疑問には絶対に答えてくれない。
「さぁ、始めましょう流しそうめん!」
上に戻ったら設営が終わっていた。上から下へ、プールにあるウォータースライダーのミニチュアのように水が流れている。白い絹のようなそうめんを一番上に入れると、するすると流れていき――。
「ぜんっぜん取れないんですけど!」
「依里が買ったの、すげーいいそうめんだからじゃん? こんな細い麺初めて見た」
「そりゃ、最高の流しそうめんをしようと思ったら最高のそうめんを買いましょうよ! 黒帯でもない、“神”の名を語るそうめんブランドなんですよ!」
「あんまりそうめんについて詳しくはないけど……そうなんだ」
そんなにいいそうめんなら、普通に食べたい。
「っていうか、家の中で流しそうめんって、趣も何もないな……」
「上から下に食べ物が落ちてくるだけなのに、何にそんなに憧れてたんでしょうね……」
いつの間にか、僕たちは子供の心を失っていたのかもしれない。
食べにくいそうめんをどうにか箸で掴んで啜る。ときめきはどこへやら、食べれば食べるほど沈鬱な気持ちになっていく始末……。
「これは、私たちの今のコンディションが悪いんです!」
「ほう!」
耐えきれなくなった依里が、無理やりテンションを上げる。叫びながらこぶしを突き上げた。
「来年の夏こそは! 私たちもまたわくわくしてると思うんですね!」
「なるほどね?」
「というわけで、これはいったん封印! また来年の夏にリトライです!!!」
そんなこんなで、我が家にゴミが増えた。
来年は高校三年生――僕は受験期だ。そんな忙しい時期にこれと向き合うのかと思うと……。
冬場にでも捨てておこう。そう誓って、クローゼットの下のほうに格納しておくことにした。
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