世間は狭い

明通 蛍雪

第1話

今日は会社で知り合った友人と飲み会。居酒屋はどうやら友人が予約してくれるらしく、新宿で男三人集まっての飲み会だ。

久しぶりの飲みにウキウキしながら店に行くと、元カノが働いていた。

八年ほど前に付き合っていた彼女は、今も変わらない笑顔で働いていた。

友人二人は運命だなんだとはしゃいでいたが、正直気まずかった。

そもそも、彼女と出会い付き合ったのは地元である熊本の頃の話。それがまさか、東京で出会うなんて。

それは彼女の方もそうだったのだろう。それか気を遣ってくれたのか。飲みの間は店員と客として接してくれた。

だが、帰り際に店員の彼女が僕たちを店先まで見送ってくれた時に、


「私のこと、覚えてる?」


そう言った。二人にニヤニヤとした目を向けられながらも、僕は「うん」と答えた。

家を出る時は晴れていたのに外は大雨で、友人二人はコンビニで傘を買っていたが僕だけ傘がなかった。

家も駅も近いし少しくらい濡れても良いかとも思ったんだけど、


「傘いる?」


と、再び彼女が声を上げた。

正直迷って、「それは、返しに来ないといけないやつ?」と聞くと、


「うん」


と彼女は言った。

濡れるのも嫌だし、何より早くこの場から離れたかったのもあり、僕は傘を借りた。


「ちゃんと返しに来てね! バイバイ」


彼女は店を後にする僕たちに、僕に手を振っていた。

一度は別々の道を選んだのだ。正直に言って復縁は考えてなかった。

でも傘を返さないといけないし、何より彼女を振ったのは僕だ。もし彼女側にそういう気があるのだとしたら、どうしたいいか分からない。


結局僕は借りた傘を返せずにいる。ダラダラと連絡だけを取り続けてしまっている。

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世間は狭い 明通 蛍雪 @azukimochi

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