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第五章


 V300の運転席でマジックがしばらく待っているとタケザキの運転する黒いカマロに続きツチオカの運転するシルバーのR32型スカイラインGT―Rが駐車場にやって来た。32の助手席にはマジックの知らない男が乗っていた。あいつが今度のヤマの四人目の仲間になるのだろうとマジックは思った。四人はクルマから降りた。タケザキが32の助手席の男、キクシマをマジックに紹介すると彼らは昼下がりのスターバックスへ入店した。

「マジック、コーヒーでいいか?」

「ああ」

 他の二人にもコーヒーでいいかどうかを訊いてからタケザキはカウンターでコーヒーを四つ注文し代金を支払うとキクシマに言った。

「じゃあ、お前持って来いよ」

「分かりました」

 三人は奥のテーブルに進み席に着いた。店内は主に青春を謳歌している最中の若者の集団と暇を持て余した主婦の集団などで混み合っていたのでゴロツキ共の悪巧みには持って来いの騒々しさであった。マジックはラッキーストライクを出すと言った。

「灰皿は」

「マジック。気は確かか? ここはスターバックスだぞ。灰皿なんかある訳ないだろ。全面禁煙だ」

「なるほどねえ」

「これからは各自が自ら排出する有害物質による他人への悪影響を自覚し責任のある行動を取らなければならないんだよ」

「その通りだ」

 マジックはタケザキの持論に納得し煙草をしまった。それを見てタケザキは満足の笑みを浮かべた。ただツチオカはそんな話には一切興味はなく、それとなく周囲の状況を偵察し自身に対する脅威となり得るような敵対者が存在しないかどうか抜かりなく気を配っていた。なぜなら彼にとって一歩外へ出ればどこでもそこは戦場であったからだ。しかしそれはマジックやタケザキについても同じことではあったので一見つまらない会話で油断している素振りは見せていても実際にはいつでも敵の攻撃を回避し反撃出来る体勢は密かに整えていたのだ。スターバックスでそんな戦闘配置に着いた三人組の待つテーブルに完全に油断しリラックスしたキクシマが注文した品物をトレーに載せて半笑いで歩いて来た。

「はい、どーぞー」

「おっ」

「どうも」

「シュガーとミルクは?」

「両方くれ」

「俺も」

「はいはい。ツチオカさんは?」

「俺はいいよ」

「ハイ」

「ようし、じゃ始めようか。けど、その前にキクシマ、それは何だ?」

「ニューヨーク・チーズケーキです」

「うん。これから仕事の話をしようって時にそんなスイーツって。普通は何かの会議って言ったらコーヒーかお茶がせいぜいってもんだろ」

「テメェ、ティーパーティーじゃねえんだぞ」

「すいません」

「まあまあ、いいじゃないのそんなスイーツくらいで。俺も買ってこようかな。タケザキお前の分も買ってこようか?」

「え? ああ、じゃあまあ、折角だからお願いしようかな」

「ツチオカさんは」

「俺はいいよ」

 マジックは席を立つとカウンターへ行きニューヨーク・チーズケーキを二つ買って戻って来た。

「うまそうだな」

「まあな」

 そう言いながら三人のゴロツキがニューヨーク・チーズケーキを食べ始めた。

「いいね」

「なかなかだな。どうだ、キクシマ」

「うまいっすね」

「程よい甘さだな」

「絶妙なクリーミーさです」

 笑顔で和気あいあいと食べ進める三人をツチオカは無表情で観察しながらブラックコーヒーを啜った。何だこれ。これじゃすっかりティーパーティーじゃねえか。ツチオカは密かにそう思ったのだった。食べ終えたタケザキが口を開いた。

「よーし、それじゃいい加減そろそろ始めようか。まずはお互いの呼び名を決めようと思うんだが、そろそろ色で呼ぶというのも飽きてきたんで何か別な案はないかな」

「それなら」マジックが言った。「F1ドライバーで行こう。俺がセバスチャン・ベッテルでツチオカさんはキミ・ライコネン」

「いや」ツチオカが言った「アイスマンだ」

「アイスマン?」

「アイスマンは」マジックが解説した。「キミ・ライコネンのニックネームだ」

「なるほど」タケザキは言った。「じゃあ、俺は?」

「そのヒゲにタトゥーまみれのいでたちと言ったらプレイヤー気取りのルイス・ハミルトンしかいないだろ。ま、体型は間逆だがな」

「ルイスか」

「だと俺がマックス・フェルスタッペンですね」

「いや」アイスマンが言った「お前はチーズだ」

「ツチオカさん。お言葉ですが、それってF1とは関係が……」

「うるせえ。お前はミスター・チーズだ!」


「おお、どうした?」

「あ、店長。すいません、今日、休ませて欲しいんですが」

「テメェ、コラ。なめてんのか、こんないきなり。無理に決まってんだろう、バカ野郎」

「そこをなんとかお願いします。インフルエンザに感染してしまってもうフラフラなもので」

「ったく。仕方ねえな。いいよ。休め」

「ありがとうございます」

 シンガーは通話終了ボタンを押してから携帯電話の電源を切った。それをそこら辺に放り投げVITAの電源を入れるとまずは《リッジレーサー》を起動し自分のセリカと同じ黒に塗装したなるべくセリカっぽいクルマを選択しレースを開始した。最終コーナーを時速328キロでドリフトしストリート・サーキットのホームストレートに進入したと同時にハイニトロを使い時速443キロでゴールを駆け抜けた。その後そのリプレイ映像をご満悦の表情で鑑賞してからいつもの様に歌の練習をし、最後に《ダスク・ティル・ドーン》のビデオ・クリップを再生しゼインが颯爽とジャガーFタイプのソフトトップでカーチェイスする様を鑑賞してからシャワーを浴び身支度を整えビリー・シェイカーの自宅へと出発した。あの人意外と近所に住んでんだなあと思いながら丘の上の新興住宅地へと向かう坂道をセリカで駆け上がった。インターステートでゼインがFタイプのペダルをベタ踏みしてたようにこんな急な登り勾配でこの過走行セリカを走らせたらエンジンに多大な負荷がかかり大ダメージを負ってしまいかねないことを考慮していた時期も一時あったがその頃坂道走行時に頻繁にエンジンの警告灯が点灯していたのは点検の結果エンジン自体のダメージではなくO2(オキシジェン)センサの故障によるものでありそれを交換して貰いはしたが実のところ不調の根本原因はバッテリーの電力不足でオートバックスでバッテリーを交換しセリカがかつて無いほど完全復活してからはエンジンのパワーアップ用の燃料添加剤も使用しつつゼインほどはベタ踏みしないまでもそれなりなアクセルワークでいい感じに加速しアメリカ人の邸宅へと突き進んだのだった。

 午後七時前に到着すると塀で囲まれた敷地の正面にあった門は自動で開きシンガーは中へセリカを進めた。邸宅の正面玄関の前にはシルバーのマクラーレンMP4―12Cと白いポルシェ・パナメーラが照明に照らされ光り輝いていた。豪勢なもんだなあと感心しながらパナメーラの後ろ辺りにセリカを停めたシンガーはパナメーラの運転席に中年男性が座っていることに気づいた。様子からして主人を待つ運転手といった風情だ。特に自分には何の関係も無いだろうと思いつつパナメーラを素通りし玄関へ向かった。ブザーを押してみると直ぐに扉が開きビリー・シェイカーの手下と思しき人物が玄関の中に入れてくれた。その人はただいまうちのシェイカーは来客の応対をしておりまして今しばらくここでお待ちいただけますかとお願いしてきたので、シンガーはもちろん構いませんよと答えそこで佇んだ。すると直ぐにバーボンと葉巻の所為と思しきシェイカーのガラガラ声と共にその本人と上品な身なりの老紳士及びその付き人っぽい人物が奥から現れた。ほっそりとした体にフィットしたテーラードスーツをノーネクタイで着こなしたその老紳士は何らかのとんでもない権力を持っていそうな威容を感じさせずにはいられなかった。やたらと大声で話すビリーに対し彼は無駄に声を出すのは損だと思っているらしく何か話している様子だったが何も聞き取れなかった。ビリーはそいつを外へ送り出しパナメーラが走り去るのを見送ると玄関に戻って来た。

「Yo, Singer. How's it goin'?」

「Fine, fine.」

「How about a drink?」

 えー? クルマで来ちゃったしな。どうしようかな?

「もちろん、頂きます」

「Remy Martin?」

「Sure.」

 ビリーはシンガーをピアノが置かれた広い居間に案内するとホームバーのカウンターの裏に入り棚からコニャックの瓶を取った。グラスを二つ出しコニャックを注ぐとシンガーにその一つを渡した途端自分のグラスに口を付けた。

「ところで」好奇心に駆られたシンガーが口を開いた。「さっきの人は誰ですか?」

「ああ、あの人はコバヤシ会長と言ってこの辺りを仕切ってる組織のボスでな。チェスが趣味なもんで、たまに日曜日になるとここに来て俺と対戦するんだ。品がいい方でな、対戦中はコーヒーくらいしか飲まん。となるとこっちが勝手に酒を飲む訳にもいかんという訳で一緒にコーヒーだろ。今日はちと試合が長引いてな。ようやくこれが今夜の一杯目って訳だ」

「組織のボス……道理であの一緒にいた付き人っぽい人、チャカ持ってそうな顔してましたね」

「あいつは会長のボディガードでオカダっていうんだ。元特殊部隊のかなりの腕利きって話で、前四人の敵に会長が襲撃された時一人で全員を45オートマティックで仕留めたそうだ」

「流石は元特殊部隊なだけはありますね。一人で四人を……」

「奴には手を出さん方がいいぞ」

「出す訳ないじゃないですか」

「ハハハ。そうだ、お前チャカに興味があるか?」

「ま、そりゃ多少は」

「これからあのマクラーレンで海辺の別荘に行こうかと思っていたんだが、その前にいい物を見せてやろう」

「いい物なら是非お願いします」

「待ってろ」

 ビリーはグラスを置きピアノへと歩を進めた。カバーを上げ鍵盤を三つ程叩くと部屋の奥の本棚が横に水平移動し秘密の入口が出現した。これは金持ちの税務署対策とスーパーヒーローの秘密基地によく見られるシステムだなと感心しながらシンガーはビリーに続いてその入口から階段を下りた。地下室に辿り着きビリーが明かりのスイッチを入れるとそこが武器庫であることをそこに収納されている様々な火器類が明確にした。両サイドの壁の下部には長物、つまり小銃、カービン、狙撃銃、短機関銃類が斜めに立て掛けられ上部には様々なハンドガン類がフックで横向きに引っ掛けられていた。それと中央のテーブルにもいくつかの物が置かれていた。

「これだけあれば、いつでも戦争出来そうですね」

「まあな。だが、俺は平和主義者だから仕入れて売り捌くだけだ。戦争担当は他にいる」

「なるほど」シンガーはとある銃に目を奪われた。「これ、いいですか?」

「もちろん」

 シンガーがその自動拳銃を手にするとシェイカーが解説した。

「ベレッタM92GエリートⅡ。ベースモデルの特徴だったスライドからはみ出したバレル先端部が切り落とされ、グリップも細く改良され扱い易くなっている上、安全装置が廃止されているから緊急時にも即座に対応出来る文字通りのエリート仕様がそのエリートシリーズだ。エリートⅡに限ればスライドだけがシルバーでそれ以外がブラックという2トーン配色になっているから派手好みにはピッタリだろうな」

「かっこいいな、これ」

「他にもグロックから何から何でもあるぞ」

 シンガーはエリートⅡを壁に戻しテーブルに目を移した。

「こっちには随分物騒なもんが揃ってますね、ビリー」

「ああ、ここら辺は最近注文が入った品でな入ったばかりなんだ」

 彼は近未来形状の短機関銃を手にすると続けた。

「クリス・ヴェクター短機関銃。45口径弾を使用するネックである反動の大きさを軽減する為にマガジンの差込角度が斜めになっているのが特徴だ」彼は、それを置き隣の大物に目を移す。「こっちは携帯式多目的ミサイル、FGM―148ジャベリン。事前にロックオンしたターゲットを赤外線とコンピュータで自動追尾する。命中率は94パーセントだ。それとこれはM249SPW軽機関銃。ソフトケースに入った5・56ミリライフル弾二百発を連続でバラ撒ける」

「一体こんなものどこで何に使うつもりなんすか?」

「そんな質問は一切せんよ。注文され、用意し、売り捌く。それだけだ」

「へえ」

「そうだシンガー、お前どれか撃ってみないか」

「どこで?」

「そこの奥の部屋が射撃室になってんだ」

「えー? 何でも揃ってるな。ほぼ軍事基地じゃないですか」

「さあ、好きな銃選べよ」

「あ、はい」

 シンガーはエリートⅡとクリス・ヴェクターを手に射撃室へ向かう途中部屋の隅のゴミ箱の隣に無造作に置かれた物が少し気になった。

「ビリー」

「何だ」

「これはゴミですか?」

「ゴミ?」ビリーは微笑した。「まあ、こんなとこにほったらかしにして埃まみれだからガラクタにしか見えんがゴミではないぞ、シンガー」

「じゃあ、何ですか?」

「防弾バトルプロテクション・スーツと装着式高速飛行用ジェットエンジンだ」

「へえ」

「俺が取り引きしてるユナイテッド・ステイツのミリタリー・カンパニーの社長でトニー・ウェインてのがいて、彼がアメコミ・ヒーローにえらく憧れててなあ。それで自分も道楽でスーパーヒーローの真似事をしたくて作らせたそうなんだが……普通に警察に怒られて止めたそうだ」

「でしょうね……具体的に何の法律に違反してるかは良く分かりませんが」

「それでいらなくなったからって、いつだったか何かのおまけかなんかで貰ったんだよ。けど俺は体型的に着れもしないし」

「手下で使いたい人とかもいなかったんですか?」

「こんなバットマンみたいなコスチューム、普通に恥ずかしいだろ」

「でしょうね……すると、これは要らないって事になるんですかね」

「ああ」

「ホントに要らないんですか?」

「ああ」

「でしたら、出来れば――」

「なんならシンガー、お前にやるよ」

 射撃室で銃を撃ちまくってる間にシェイカーが手下にそれらをクリーンナップさせて置いてやるという話だった。クリーンナップか。せいぜいそこら辺に転がってる雑巾で適当に拭く程度だろう。そう思いながら射撃室に入室するとお前、銃を撃ったことはあるのかとビリーが訊いてきた。高校の時に買ったコンバットマグナムと44マグナムのモデルガンだったら撃ったことはあったし、後十五年前位に買ったコルト・ガバメントのモデルガンもあったがそっちは火薬で汚れるのが嫌だったので一回も発砲していない。それと大学の映画研究会時代の夏休みにタランティーノを闇雲にパクって組織のカネを持ち逃げしたカップルの逃避行を描いた《新弾丸逃避行》という八ミリフィルムで撮影したアクション映画で殺し屋を演じた時に先輩の所有するイングラムM11短機関銃のモデルガンもセミオートマティックモードで撃ったことはあったのでこう答えた。

「Yeah, sure.」

「そうか。ま、一応取り扱い法は教えておこう」

「そうですね。お願いします」

 シェイカーはマナー、禁止事項、持ち方、姿勢、操作方法等を懇切丁寧に教えてくれた。一通りの説明を熱心に聞き終えるとシンガーはまずエリートⅡから始め続いてクリス・ヴェクターをフルオート連射で全弾撃ち尽くした。やっぱ本物は音もマズルファイアも反動も派手だから滅法おもしれーや。どうだ、スカッとしたろ。ええ、そりゃあもう。そんな感じの会話を交わし終えると二人は部屋を出た。例の武器庫に戻るとさっきのスーツとジェットエンジンを手下がすっかりきれいにしてくれていた。シェイカーの話だとスーツのベース部分は特殊ラバー製で部分的な装甲強化部はチタン合金製ということでそれぞれマットブラックとシルバーの2トーン配色となっていた。それとフルフェイスタイプのマスク。シンガーはバイクに乗ったことも無ければ乗りたいとも思わなかったしほとんど見たことさえなかった。なぜならあのヘルメットが嫌だったからだ。髪型が崩れるし蒸れるしうっとおしいし置場を探すもの面倒だしとにかく何もいいことが無い。そのマスクはシンガーの嫌いなヘルメットをより一層うっとおしく厄介にしたような物らしくそもそもサイズが白人用で小さかったので東洋系のシンガーには被れそうもなかった。これはパスだな。シンガーはそう心の中でそっとつぶやいた。

「どうだ、ちょっと試着してくか?」

 シンガーは腕時計を見た。

「ビリー、これを全部装着するには結構時間が掛かりそうだしタイトルマッチに間に合わなくなってしまいませんか」

「そうだな」

「さっき、別荘に行くとか言ってましたよね」

「ああ、じゃあ、行くか」

「はい」

「シンガー、あっちで前言ったモデル二人と待ち合わせしてるんだ」

「あ、はい」

「それに既に俺たちのいつもの仲間達も集まってパーティーの準備をしてんだ」

 いつもの仲間達? そんなの居たっけ? とここ数年誰にも飲みに誘われたことのない単独行動主義者は疑問を抱いた。

「そのいつもの仲間達って誰々ですか?」

「そいつは着いてからのお楽しみだな」

「そうですか」

「更にだ、あっちにはカラオケがあるから好きなだけ歌えるぞ」

「ファンタスティック!」

 バトルプロテクション・スーツと装着式ジェットエンジンは手下連中が集まってセリカの荷台に積んでくれた。その際、荷台に余計なガラクタが転がってるのを見られてちょっと恥ずかしかったシンガーであった。これはこれは、どうもありがとうございました、と深々と頭を下げ手下どもに感謝するとビリーが待つMP4の方へ向かった。どうせこんなもんオートマだろ。誰でも簡単に運転出来んだろと思っているシンガーにビリーは自慢げにバタフライドアの開け方を解説した。言われた通りにドアの張り出た部分の下を軽く撫でるとドアが約一センチ程浮上しそれを更に上方に押し上げた。多分運転よりこっちの方が難しいんじゃないかと思いながらシンガーは2シーターに乗り込んだ。車内のインテリアはシンプルで兵器っぽい雰囲気がありシンガーの好みだった。下手に豪勢なフェラーリなんかよりも別にこんな感じでいいんじゃないかというのがシンガーの個人的見解であった。それに外観もフェラーリやランボルギーニなんかより遙かに美学的に洗練されておりシンガーが日頃やってるカーゲームでは使用頻度においてはかなり上位にありその実物にここにこうやって乗せてもらってる訳であった。シェイカーがエンジンのスタートボタンっぽいとこを押すと3・8Lツインターボ・エンジンが始動し車体後部の独特の位置に設置された二連センター出しマフラーから猛々しい排気音が響き渡った。その音がシンガーを《マイアミ・バイス》でコリン・ファレル演じるソニーが運転するF430の助手席に座るジェイミー・フォックス演じるリカルドのような気にさせ、これからコロンビア麻薬カルテルのアジトかなんかに潜入捜査を敢行するかのような空想が頭の中を駆け巡った。そんなのが駆け巡っている最中、いつの間にかマクラーレンは動き出し既に集まっているいつもの仲間達が待つ海辺の別荘へと向かい軽やかな快音を奏でつつ軽快に駆け去ったのだった。

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