第18話 モテモテ
「
「そう。職業というか、役割を変えれるってこと」
「そんなの誰でも変えれるだろっ」
「結構手間がかかるの。スキルも職業に沿ったものが習得しやすいってことは、一度身につけたら変えるのは至難の業なんだよ」
「そうなのか?」
「そう。コウが決闘の最後にやったパンチ。アレだけ見たら、剣士じゃなくて格闘士に見えるよ!」
【
しかもレベルが低いD級冒険者。
好きなように育てることができるということか。
「――いたぞ! こっちだー!」
後ろから声が聞こえてきた。
「もう来ちゃったか」
「早く逃げなきゃな。でもどこに行くつもりなんだ?」
「実はこうなることを察して、事前にルートを考えてきてるの」
「おおっ!」
「まずはシーフや暗殺者用のスキルを獲得できるポーションが売ってる店に行く」
「シーフや暗殺者? 逃げるのに役立つスキルを手に入れるのか?」
「半分賭けだけど、面白いものが見れるかも!」
「こんな時に何言って――」
「ッ……! 伏せて!」
十字路に差し掛かったとき、アロナが叫んだ。
コウはアロナの掛け声に、反射的に従った。
「いっ!?」
伏せたコウの頭上を、鎖に繋がれた鉄球が飛んでいった。
バッと鉄球が飛んできた方向を見る。
そこには銀髪の男が立っていた。
「あれは……モーニングスターか!」
その男は、鎖の両端に棘のある鉄球がついている武器、モーニングスターを持っていた。
「マジか……こっちっ!」
アロナはグッとコウを引っ張り、再び走り出した。
「おいっ! アレ殺す気だっただろ!」
コウはあの男に聞こえる程の声で文句を言った。
「多分噂が広まるにつれて、どんどん過大評価されていったんじゃないかなっ」
「ハッ、じゃああの程度じゃ死なないと思われてるのかよ。一応怪我人だぞ?」
「とにかく! 今の人はマズイ! 急いで逃げるよ!」
先程よりも、アロナの腕を掴む力が強くなった気がする。
「そんなマズイ状況なのか?」
「今攻撃してきた人はA級冒険者にして! この町のトップ3に入るパーティーのリーダー! 先駆者ゴート! まさかユウキ以外にも目をつけられるとは……」
先駆者ゴート?
この町じゃ有名なのか。
というか、ユウキもA級冒険者なのか?
「ちょ〜っと待ったっ」
上から誰かが降ってきて、2人の前に立ち塞がった。
「今度は誰だよっ」
2人は足を止める。
「嘘でしょ……」
「アンタが噂の甲冑ルーキー? ホントにダリアに大怪我負わせたの~?」
「負わせてねぇよ! 話が大きくなってるぞ!」
現れたのは高身長の女で、ブロンドのロングヘアをたくし上げた。
露出多めの戦闘服を着た、ナイスバディのお姉さんだ。
「なんかアテナみたいだな……」
ついボソッと口に出た。
『はぁ? 私の方が豊満だろぉが』
お淑やかだったら良かったのに……なんて。
「アロナ。あの人は?」
「……あの人もA級冒険者で、この町のトップ3に入るパーティーの意リーダー。愚弄のパディーナ」
「愚弄……? 変な二つ名だな」
「ホントだよねー。私も困ってるんだよねぇ~」
パディーナはニコッと笑った。
「ヒッ……」
なんか今悪寒が走ったような……。
「ハハッ……。モテモテだねコウ」
「なんでリーダー自ら来るんだよ。おかしいだろ」
「この町のトップ3のパーティーは、最近加入する者が出ていない。つまり有能な人材が欲しいんだよ」
「まあ正解だね。でも何よりの理由は……」
「――ユウキちゃんが勧誘したことっ」
「クッ……」
「ユウキちゃん?」
多分ユウキのことだよな?
「やっぱりそうだよね……」
アロナは納得しているようだ。
「何? ユウキってやっぱり凄いの? ダリアのパーティーのリーダーって言ってたけど……」
「私も初めて見たから最初は分からなかったけど、ユウキはこの町でたった1人の……」
「――S級冒険者なの!」
「……マジか」
「大マジ! 滅多に町に現れないのに、こんなときに限って来るんだから……」
うわぁ……ってことはユウキのパーティーもトップ3に入ってるんだよな。
「はいはいもうお終いっ」
パディーナが手をパンパンと、2人の注意を向けた。
「一応聞くけど、パーティーに入る気は?」
「……今の所はない」
「そっか~。じゃあ力ずくでっ」
パディーナは笑顔で、2本のサーベルを後ろから取り出した。
なんか語尾にハートがついてたような……。
多分この悪寒は、恐怖から来てるだろうな。
「――ってか! なんでみんな殺意が籠ってるんだよ!」
「そんなことないよ〜。ちょっと気絶させるだ、けっ!」
パディーナは襲いかかってきた。
「――待て馬鹿女」
パディーナは足を止め、コウたちの後ろを見据えた。
「誰か馬鹿女だってぇ? ゴートちゃんっ」
「ゴート!?」
振り返るとそこには、モーニングスターを持つゴートが立っていた。
もう追って来たのか……。
というか、ちゃん呼びってことは、男女関係なくそう呼んでいるのか。
「俺は事実を言ったまでだ。そして、そこのコウはうちのパーティーに入れる」
勝手に決めんなよ……。
「へぇ。そっちもその気なら、早い者勝ちでどう?」
「フンッ。部下の数は俺の方が多い。俺の方が有利だ」
「数より質よ。寄せ集めに私の部下がやられるとでも思ってんのぉ?」
「……コウ、こっちっ」
「……おう」
コウとアロナは、2人が揉めてる間に、こっそりその場を抜け出した。
「そう言うなら、素質のあるコウを譲ってもらおうか」
「それはできない条件……っていない!」
「チッ。馬鹿のせいで見失った!」
「はぁ? 次馬鹿って言ったら八つ裂きに……って! 抜け駆けすんな!」
コウがいなくなったことに気づいた2人は、すぐに後を追った。
◇ ◇ ◇
「店はここから近いのかっ?」
コウは1人で走り、アロナの後を追う。
「もうすぐだよ。この先を左に曲がって、真っ直ぐ行くと、地下に繋がる道がある。その先に店があるの」
「へぇ。じゃあすぐに――」
ドガァンッ……っと後ろから爆発音が聞こえた。
「この音は……」
「多分追ってるパーティー同士で潰し合ってるんだろうね。今のうちに店に入っちゃおう!」
アロナは道を左に曲がった。
「そうだな!」
コウも続いて道を左に曲がった。
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