第3話 リーゼンの町


「な、何この光! ねえコウ! 大丈夫!」


 コウの体が突然光りだした。

 いや、厳密に言うと、コウの装備している呪いの甲冑が光っている。


「こ、これは……」


 しばらくすると、光が消えていく。


「ッ……こ、これは!」


「あ、あー! コウが! コウの甲冑が……!」


 さっきまでボロボロで、薄汚れていた甲冑が、綺麗になっているのだ。


「凄いっ! さっきまで汚くて若干ひびも入ってたのに!」


「これがこの甲冑の本当の姿なのかっ……! 動きやすさも、さっきと比べ物にならないぞ」


 さっきまでの重さがふわっと消えたぞ。

 あの歩くたびになる金属がぶつかるような音もない!


「何か変わってるかもだよ! 見てみようよ!」


「ああ!」


 2人のテンションはまだ上がりっぱなしだ。


【呪いの甲冑(完全体)】

【詳細】

・脱ぐことができない呪いの甲冑。

・咀嚼や排泄を不要にすることができる。

・甲冑の中の本体が、甲冑ごと傷をつけられた場合、本体の傷が治れば甲冑も修復する。

【スキル】

形態変化メタモルフォーゼ

 必要な素材をこの甲冑に吸収させ、装備している本人がスキルを覚えることによって、甲冑が変化する。

・本体のレベルが上がっていくと、形態変化できる種類も増えていく。


 少しだけ効果が増えているな。

 【詳細】に増えた甲冑の修復機能は、一見良いように見えるが、甲冑を外すために俺自身を傷付けても、治した途端に甲冑も元通り。

 つまり余計脱げなくなったということか……。

 【スキル】に増えた形態変化の種類……。

 これは今後が楽しみだな。


 うーん楽しみと悲しみが詰まった進化だな……。


「ど、どうだったの?」


 微妙な顔をしていたコウを見たアロナが、心配そうに聞いてきた。


「いやー、能力は凄いんだが、余計外せないようになってしまった」


「アハハ……それは確かに微妙な顔になるね」


「俺は一生この姿なのかぁ?」


 コウは頭を抱えてしゃがみこんだ。


「まあそんなにガッカリしないでっ」


 アロナはコウの肩に手を置いて励ました。


「私はその甲冑、カッコいいと思うよ!」


 首だけアロナに向ける。

 その顔からは、嘘偽りない純粋な気持ちが伝わってきた。


「……それもそっか。正直楽しみなの所もあるしなっ」


 不安な気持ちを振り切るように、立ち上がった。


「そうだよ! ほら! 町に行こう!」


 アロナは満面の笑みで、コウの手を取った。


 そうだ。

 まずはこの世界を楽しもう。

 後で何が起こるか分からないしな。


 コウはアロナに手を引かれ、今度こそ町に向かった。




◇ ◇ ◇




「おおっ! ここが――」


「そう! ようこそ! 私生まれ故郷でもある、『リーゼン』へ!」


 2人は、道中モンスターに出くわことなく、町に着くことができた。


 横から一直線に流れる川に、一本の石橋がかけられ、その先に門が見える。


 川を掘り代わりにして、橋が唯一の入口になっているのか。

 橋の長さはそこまで長くないが、防衛面ではかなりいいな。


「この町に入るためには、ここと、裏側にある出入り口のどっちかからしか入れないんだ。まあこっちはほとんど使われてないけどね」


「じゃあこっちは裏口か」


 まあ確かに、ここまでアロナ以外の人と会わなかったな。


 アロナを先頭に橋を渡っていくと、門番と思われる男が2人いた。


「よお。帰ってきたなアロナ。そっちの甲冑は誰だ?」


 いかにも衛兵と言える恰好をした門番の1人が話しかけてきた。

 ちょび髭が特徴的だ。


「うん! 帰ってくる途中で出会ったんだ~。コウって言うんだよ」


「どうも」


 アロナに紹介されて、一応会釈をする。


「見ねぇ甲冑だな。どこの国の者だ?」


 もう1人の顎髭が長い男が、警戒しながら質問してきた。


「いや実は――」


「記憶喪失だぁ?」


 コウは、記憶喪失であることと、呪いの甲冑について軽く説明した。


「確かに外すための金具はねぇな」


 2人は甲冑をベタベタと触りながら、コウについて調べている。


 やっぱ警戒されるよなぁ。

 あとちょび髭の男の名前がバン。

 顎髭が長い男がモンと言うらしい。


「ステータスを見せてもらうことはできるか? 見せたくないことは隠してもいいが」


 モンがステータスの開示を求めてきた。


「あ、ああ」


 まあ今見られても困るところはないしな。


【名前】コウ

【性別】男

【職業】なし

【装備】

 ・呪いの甲冑

 ・鉄の剣

【レベル】5

【スキル】なし


「これでいいか?」


「……特に隠してるところもないな」


「2人とももういいでしょ~。早くコウに色々案内したいんだけど~」


「悪い悪い。ちゃんと仕事はしなくちゃいけないんでね。ほら、通っていいぞ」


 バンがコウの前をどいて、入場を許してくれた。


「まあアロナが信じるならいいか」


 モンも前をどいてくれた。


「よしっ。じゃあ行くよコウ!」


 アロナは張り切って町に入っていった。


「ありがとう」


 コウは2人に感謝し、アロナの後をついていった。




◇ ◇ ◇




「賑やかでしょ?」


 2人は町中を歩いているが、どこもかしこも人の声が聞こえるあたり、賑わっていることが分かる。

 飯屋に、装備屋に、アイテムを売っているところもあるのか。

 素材とかもあるのか?


「まずはどこに行くんだ?」


 コウはアロナにこの後の予定を確認した。


「冒険者ギルドに行こうと思ってる」


「冒険者ギルド?」


「そう。私みたいな冒険者が、依頼を受けたりする場所だよ。まずはそこで冒険者登録をする」


「冒険者か……」


「その甲冑の謎を解くには、冒険者になっとくべきだと思ったんだ」


 アロナの言う通り、甲冑の進化にも素材やらレベルが必要だったし、冒険者になっておいた方がいいかもな。


「分かった。案内してくれ」


 そう言うとアロナは立ち止った。


「着いたよ?」


「え? いつの間に……」


 話しているうちに、目的地に着いたようだ。

 かなり大きい建物が目の前に建っていた。

 2人の他にも、様々な格好をした人たちが出入りをしている。

 ここが冒険者ギルドで間違いないようだ。


「分からないことはそこで聞くといいよ。私より分かりやすく教えてくれると思うから」


「アロナはどこに行くんだ?」


「私は私で依頼を受けていたんだ。薬草を採って、ポーション屋に届けに行く依頼なんだ。ほらっ」


 アロナが腰に付けていたポーチの中を見せる。

 中にはギッシリ薬草が入っているのが見えた。

 どうやら薬草を採りに行った帰りに、コウを見つけたようだ。


「このポーチじゃ全然入ってないんじゃないか?」


「フフフ、これはただのポーチじゃないんだよ……」


 アロナは不敵な笑いを浮かべた。


 あのステータスにあった『???』の装備品だな。


「凄いな。また機会があれば教えてくれ」


「うん! じゃあ私行くね! 薬草渡したら報告のためにここに戻ってくるから、登録が終わったらこの辺りで待っててね」


「分かった。じゃあまた後で」


「すぐ戻ってくるね~」


 コウは元気良く走っていくアロナを見送ると、冒険者ギルドに入っていくのだった。




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