第22話 浮気をされたわたし
二人だけの世界でのグレゴノール殿下は、入学後五年目の時が一番世界に深く入っていた気がする。
とはいうものの、新婚当時はまだ今よりも世界に深く入っていた。
このままだと、二人だけの世界に入っていくことすらなくなっていくのでは?
わたしの心の中ではそういう懸念がだんだん生まれ始めていた。
しかし、わたしはこの時点では、グレゴノール殿下の浮気の可能性については、一切思ったことはなかった。
それだけわたしはグレゴノール殿下のことが好きだったし、信じていたのだ。
グレゴノール殿下は、二人だけの世界には、なかなか入ってくれないものの、「レデシアーヌさん、好きだ」と言ってわたしのことを毎日抱きしめてくれたし、キスをしてくれていた。
新婚当時ほどではないにしても、わたしは幸せな気分でいた。
二人だけの世界に入らなくても、二人の心は通じ合っていると思っていたので、このままいくことができれば、いずれ、子供を授かることができて、もっと幸せになっていけると思っていた。
しかし、それは無残にも打ち砕かれた。
結婚一周年を迎えた十一月のある日の夜。
わたしたちの王宮にある夫婦の寝室。
グレゴノール殿下と美しい女性。
悔しいが、わたしと比べても遜色のない美人だ。
二人は抱きしめ合い、唇と唇を近づけていく。
「グレゴノール殿下、今すぐその女と離れて!」
とわたしは叫ぶのだけれど、聞く耳を持たない。
そして、今、わたしの目の前で、二人の唇と唇が重ね合わされた。
それだけではない。
部屋の状況は、二人が既に二人だけの世界に入った後であることを物語っている。
「わたしは今まで、グレゴノール殿下一筋で来たと言うのに……」
わたしは呆然として、それ以上の言葉がでてこない。
二人は、わたしを無視したまま、キスを続けていた。
やがて、お互いの唇と唇を離す。
わたしは、
「この人はいったい誰? どういう関係なんでしょうか?」
と心が沸き立ち始めながら言う。
グレゴノール殿下は、しかし、
「この人は、ボダンデリックス子爵家令嬢のオルリドさんと言って、わたしたちの通っていた学校の一年後輩、あっという間に頭角を現して、今年度からは、わたしの直属の部下になっている優秀な女性だ。俺の恋人でもある」
とわたしに平然と言う。
オルリドさんと言われた女性も、
「オルリドと申します。グレゴノール殿下の部下です。そして、恋人でもあります」
と頭は下げるものの、平然としている様子。
わたしはめまいがしてきた。
「グレゴノール殿下、わたしはあなたのことのみ愛してここまで来ています。それなのに、なんでわたしの目の前で浮気をするのでしょうか?」
「それは、レデシアーヌさんに、わたしたちの仲を承認してもらう為だよ」
わたしの想像していなかった返事だった。
「それは、正気で言っているのでしょうか?」
「もちろんさ。王太子妃はレデシアーヌさん。でもわたしの恋人はオルリドさん。オルリドさんは別に自分がレデシアーヌさんを押しのけてまで王太子になるつもりはなく、第二夫人になると言っているんだ。なあ、オルリドさん」
「グレゴノール殿下の言う通りです。わたしはグレゴノール殿下の恋人。今のところはそれで満足しています、いずれ第二夫人にさせていただくつもりですが、王太子妃になりたいということは、全く思っていません」
そう言いつつも、グレゴノール殿下に甘えた声で肩を寄せるオルリドさん。
グレゴノール殿下もうっとりした表情。
そして、
「レデシアーヌさんさえよろしければ、この形で三人の関係を続けたと思います。わたしは第二夫人になるのですからレデシアーヌさんの王太子妃としての地位はそのままで、これからも安泰です。悪い話ではないと思いますけど」
と平然とした様子で言う。
これは勝者の余裕のように思える。
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