第26話 ボスクジラ
鳥楽音が雑談で時間を稼いだ結果、視聴者を飽きさせることなく、ボスゾーンの前につくことができた。
「ざっと2時間くらいでしょうか。トラネさんもありがとうございます」
「いやいや、こっちこそ、ルナちゃんお疲れ様」
『2時間はまたしてもRTAなんだよなぁ……』
『シンクロしてでもないと絶対超えられないでしょ』
『これからの時代シンクロは必須だなぁ』
もはや視聴者もこの速度に慣れ始めているのか驚きのコメントは少ない。
本来はそもそもBランクエリアを攻略するだけでも一流の冒険者の証なのだが……
「さて、それじゃあ、エリアボスの確認をしましょうか」
それはさておき、改めて戦うボスの確認をする。
「というわけで、フラワ~さん、お願いします」
こういうのは陽花の役割だ。
フラワ~『水の大海のエリアボスは、キャノンクジラ。大型のクジラモンスターで、口から小型のクジラ型砲弾を発射してくる。基本は水中にいるから、泳いで近づいて攻撃するか、遠距離での攻撃が必要。地上にいても潮と同時に爆弾を降らせてくるから要注意だね』
陽花が長文での解説を入れてくれた。
『大砲クジラ……』
『やばい予感しかしないねw』
『俺の知ってる限り、今までで一番大きなボスだね、大きさが大きさだから動きは遅いけど』
『その分体力も多いし、基本的には大人数での討伐が前提なんだけど』
『二人でいけるの?』
巨大なクジラが相手ということで、心配する声もある。
「大丈夫です、倒す手段は考えてきてますから」
雫月は事前に情報を得ているので、対策は考えてきている。
「まぁ、見ていてください。RTAとまではいかないですが、面白い戦いにはなると思いますよ」
雫月はそう言って、ボスゾーンに突入した。
ボスゾーンに入ると、そこは入る前と変わらない浅瀬。
しかし、地鳴りがし始める。
さらに、向かって正面の海から、巨大な何かがせり上がってくる。
「ルナちゃん!」
「はい! ロックウォール!」
雫月が唱えると、地面から岩壁がせり上がってくる。
「さらにもう一回! ロックウォール! ロックウォール!」
さらにもう一度、さらにまたと隙間なく岩壁を繋げていく。
正面だけでなく、横や上にも岩壁をつなぎ、コの字型の岩壁を作り上げた。
ちょっとした防空壕みたいな感じだ。
「ルナちゃん! 来たよ!」
鳥楽音が急いで岩壁の中に避難してきた。
雫月も同じく、身をかがめる。
「ブォオオオオオオオ!」
鳴き声と共に、巨大なクジラが海の中から姿を見せた。
それと同時に、クジラが潮を吹いた。
潮は水と一緒に小型の爆弾が噴射されていて、ランダムに振ってきている。
しかし、爆弾の爆発は岩壁に阻まれて、岩壁の中にいる雫月と鳥楽音には届かなかった。
ランダム爆弾の回避策としては、このように防壁を作ってしまうのが一番安全だ。
この方法は割りと出回っている方法で、攻略するなら防壁を作れる人間を仲間に入れるのが定番だ。
『ナイス! 防壁!』
『初手全方位爆撃はこうして防ぐのが安定だよね』
『やっぱりウォール系は必須だよね』
『岩壁だったら、結構持ちそうだよね』
『さて、防御はできたけど、攻撃はどうすんだろう?』
無事に防ぎきったので、次は攻撃方法となる。
しかし、よく考えてみたら、雫月のホシイヌは遠距離攻撃を持たないし、鳥楽音は基本的にサポート役なので攻撃は苦手だ。
いったいどうやって攻撃するのか。
「トラネさん! 任せましたよ!」
「うん! 了解!」
爆撃が去った後に、鳥楽音が岩壁から飛び出した。
キャノンクジラもそれに気が付き、すぐに鳥楽音をロックオンした。
「ブォオ!」
キャノンクジラの口の中から、小型のクジラ弾が発射されて、鳥楽音に向かう。
クジラ弾は一直線に鳥楽音に飛んでいく。
「止めちゃうんだよ! バブルシールド!」
鳥楽音は手を前に構え、唱える。
すると、鳥楽音の手から、泡が発生した。
その泡に、クジラ弾が当たると、クジラ弾が泡に包まれて、動きを止めた。
『何それ!?』
『大砲の球止めた!?』
『泡? そっか、バブルカメの能力か!』
『バブルカメの泡ってそんなものまで防げるんだ』
さらに、鳥楽音は泡を手に持って、弾を逆向きにした。
「お返しするんだよ! バブルボム!」
唱えると共に、弾を捉えていた泡が爆発し、クジラ弾はキャノンクジラに向かって飛んでいった。
「ブォオオオオオオオ!」
驚いたのか、鳴き声をあげるキャノンクジラ、クジラ弾はそのままキャノンクジラの口の中に吸い込まれた。
ドン!
低い爆発音が響いてきた。
キャノンクジラの口の中からも煙が漏れてきている。
『口の中で爆発した!』
『口内攻撃は基本ではあるけど……クジラ弾跳ね返せるのか!』
『普通に防いだら爆発するもんな、バブルで止めたから爆発しなくてすんだのか』
視聴者の言う通り、柔らかい泡で止めたからこその跳ね返しだ。
さらに、
「クジラ弾は威力が高いから、この方法なら楽に倒せるんだよ!」
再び、発射されてきたクジラ弾を、跳ね返す。
時折、キャノンクジラが全方位爆撃を起こしてくるが、それも岩壁で防ぐことができている。
「……正直、暇ですね」
戦いはほとんど鳥楽音だけで完結している。
雫月はやることもないので、岩壁を次々と作っていく。
やがて、キャノンクジラの体力が半分を切って、形態が変化する。
今までは口からだけだったクジラ弾が、身体のあちこちから発射されるようになった。
しかし、それは、単に自分の寿命を縮めているだけにすぎない。
「全部跳ね返すんだよ!」
鳥楽音の泡が、全ての弾を防ぎ跳ね返す。
結果、短い時間でキャノンクジラは光となって消えていった。
『おつかれ!』
『この方法は凄い安定してるなぁ。Bランクエリアのボスとは思えないくらいのあっさり感だった』
『ほとんど一人で倒してたもんなぁ』
『基本攻撃は2種類しかないのが悪い』
『まぁ、攻撃増えても壁があるから防げるだろうけど』
『さて……これまでスルーしてたけど……いいかげんツッコもうかな?』
『ルナちゃん、何してんのwww』
戦っていた鳥楽音に対して、役割を終えて暇をしていた雫月は岩壁をとある形に仕上げていた。
「頑張ってお城みたいにしてみました!」
形は悪いが、ちょっとした建物みたいになっている。
本人曰く、お城らしい。
そんな、砂で作る城じゃないんだからと全員がツッコミを入れた。
いずれにせよ、これにて水の大海のボスの攻略は完了。
今回の配信も大成功で終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます