第17話 陽花の友達

「さて、陽花さん……」


「はい」


 配信終了後、すぐに陽花の家に直行して反省会を始める。

 主な議題は、陽花の知り合いだという女性について陽花に問い詰めることだった……のだが……


「うむ! やはりここのお茶は格別じゃの!」


「さようでございますか」


 椅子に座って優雅にお茶を飲む女性がいた。

 見覚えのある、巫女服に黄色い耳と尻尾。

 どう見ても、先程ダンジョンで戦った女性だ。


「その方はいったいどなたなんですか!?」


 そうやって雫月が叫んだのも無理がないだろう。



「えっと、この子の名前は狐珀(こはく)だよ」


「うむ! 儂の名は狐珀! 見ての通りの狐じゃ!」


 見ての通りと言われても……

 確かに、その耳と尻尾は狐のものだけど、明らかに人だし、何よりも喋っているし……


「えっと、狐珀さん? という方が、狐のモンスターをシンクロしているということですか?」


 そういうことだと思ったのだが、陽花は首を振った。


「いや、この子はそもそも人じゃなくて、この子自身が狐のモンスターなんだよ」


「えっ? いや、えっと……冗談ですよね?」


 流石にそんなと、思ったものの、陽花は真剣な目をしている。


「陽花はモンスターに関しては嘘をつかないよ。この子は正真正銘モンスター。アマギツネっていう種族のモンスターだよ」


「うむ! 儂はアマギツネ! 名は狐珀じゃ!」


 二人に嘘を言っている様子はない……

 しかし、にわかには信じられない。


「人の形をして、人の言葉を喋るモンスターなんて聞いたことないですよ」


 そもそも、モンスターと意思疎通ができるなんてこと、最近まで知らなかったのだ。

 雫月が信じられないのも無理はない。


「えっと、僕はよくわからないんだけど……狐珀さん? は最初からそういうモンスターなの?」


 雫月が戸惑っている間に、鳥楽音が質問をする。


「いや、儂の元々の姿は、お主らが知っている狐の姿じゃ。今は、人の姿に化けておる」


「……化けギツネってことですか?」


「うむぅ、まぁ、そう言って差し支えないが……儂はアマギツネじゃ。化けギツネとは違うぞ」


 よくわからないが、本人的にはそこに違いがあるらしい。


「どうして、狐珀さんは人の姿に?」


「それはじゃな……」


 狐珀は、陽花に目を向けた。


「大分昔に、陽花に助けられての。それ以降、交流をしとったのじゃが、やはり同じ姿でいるほうが交流をしやすいのでの」


「陽花としては、別に元の姿でも構わないんだけどね」


 陽花は狐珀の言葉に頷きつつ苦笑いをしている。


「まぁまぁ、流石に狐の姿では外に出るのも苦労するのでな、こうして人の形をしておれば、目立つこともあるまい」


「いや、でも流石にその耳と尻尾があったら目立ちませんか?」


「ああ、忘れとった。これはお主ら用に見せておるものじゃ」


 そう言うと、狐珀は自身の耳と尻尾に手をかざし、何かを唱えた。

 すると、耳と尻尾が消えた……ように見えた。


「ほら、こうしておけば、完全に人じゃろ?」


 確かに、耳と尻尾がないと、ただの美人な女性だ。

 まぁ、この際巫女服なのは置いておくとする。


「……実際にそんなところ見せられてしまっては信じないわけにはいかないですね」


 黙って流れを見ていた雫月だったが、狐珀が耳と尻尾を消したことで信じざるを得なくなった。


「狐珀さんは、陽花さんのモンスターって理解しましたが、それで合ってますか?」


 陽花のモンスター、すなわち、陽花がソウルストーンに封印したモンスターなのだと思ったのだが。


「う~ん? 別に陽花のモンスターってわけじゃないよ? 狐珀はソウルストーンにも封印してないし」


「あそこは狭いのでな。儂は偶に陽花の家に遊びに来ているのじゃ」


「えっ? そうなんですか?」


「うむ、まぁ、最近は少しダンジョンに潜っていたのでな、陽花とも会うのは久しぶりじゃが」


「大体、2ヶ月ぶりくらいかな~?」


 つまり、雫月と知り合った時には陽花の家からは出ていたということだ。

 それは雫月たちが知らないのも無理はない。


「陽花と狐珀は、なんだろう……友達かな?」


「うむ! 陽花は儂の恩人にして最大の友じゃ!」


 笑い合う二人に一切の陰りはない。

 二人の間に深い信頼があることが伝わってきた。



「……まぁ、話はわかりました。それで、その狐珀さんはどうしてあんな戦いを挑んできたのですか?」


 そもそも、挨拶をしたいなら、陽花の家で良かったのに。

 どうして、ダンジョンで戦いなんて挑んできたのか。


「うむ、それはじゃな。陽花からお主らの事を聞いて、実践でお主らの実力を確かめるためじゃ!」


「……いえ、でも例えばここで戦えばよくないですか?」


 雫月のツッコミはもっともだ。

 しかし、狐珀はカカカと笑う。


「それじゃあ、面白くないじゃろう。お主らは生放送しておるのじゃろ? 唐突に正体不明の女が勝負を挑んできたら面白いじゃろう?」


「……そんな理由で?」


 まさかの理由に雫月は混乱するしかない。


「放送の盛り上がりは重要じゃろ? ほれ、今も儂のことでお主のチャンネルは盛り上がっておるぞ?」


 狐珀がスマホを取り出して雫月に見せてくる。

 そもそも、スマホ持ってるんかい! と突っ込みたくなる気持ちを抑えて、それを見ると、たしかに多くの人が狐珀の事を話題に出している。

 確かに、チャンネル的には成功……と言えなくないが……


「そもそも、どうして、狐珀さんは私の実力を確かめようとしたんですか?」


 雫月は狐珀に問いかける。


「それはじゃな……実はお主らに儂の仕事を手伝ってほしいのじゃ」


「狐珀さんの仕事?」


「うむ……実は、今、とあるエリアにて異変が発生しておるのじゃ」


 狐珀は真剣な顔をして二人にそう告げたのだった。




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