第13話 火の火山ショートカット

 本来であれば、放送はここで終わりにして、次回の放送といくところなのだが……


「今日は、このままの勢いでエリアボスまで行きますよ!」


 久しぶりのダンジョン攻略ということで、雫月も落ち着かない。


「うん、いいね! 僕ももうちょっと戦いたい気分だよ!」


 鳥楽音もそれに同意して放送を続けることにした。


『延長助かる!』

『エリアボスまで行くの!?』

『それ時間かからない? 大丈夫? 耐久放送にならない?』

『それはそれで楽しみ!』


「あー、楽しみにしていただけているところ申し訳ないのですが……最速で行くことにしますので……」


 そもそも、エリアボスまで行く算段がなければそんな発言はしない。


『うん? ルナちゃんの最速ってことはホシイヌかな?』

『あー、ネックレスの効果があるから、ほとんど一直線でいけるのか』

『そういえば、直線距離だったらそんなにかからないんだっけ?』

『だね、マグマの湖を突っ切ればそんなに時間かからないでいけるって聞いたことがある』


 火の火山にはエリアのちょうど真ん中あたりに、広いマグマの湖がある。

 普通は、この湖をつっきることはできないので、迂回することになり、かなりの時間がかかるのだが、今回はネックレスの効果で湖に入っても大丈夫だ。

 しかし、


「それよりも、もっと楽な手段がありますよ」


 雫月はそう言って、鳥楽音と目配せをした後に、ホシイヌのウェアを外す。

 そして、取り出した別のソウルストーンをウェアした。

 ウェアした後の雫月には、青い鳥の羽がついていた。


「そもそも、飛んでいけばマグマに入る必要すらありませんから!」


 これは以前、図らずも披露してしまった、レーダーコンドルとのシンクロになる。

 そのシンクロによってレーダーコンドルの飛行能力を得ることができるのだ。


『なるほど! そういえばそれがあったね!』

『飛べるのずるいなぁw めっちゃショートカットできるやん!』

『あれ? そういえば、レーダーコンドルって風属性なんだっけ?』

『でも、トラネちゃんはどうするの?』


 鳥楽音も同じく翼を持っているが、滑空しかできない。


「大丈夫ですよ、私がトラネさんを抱えていきますから」


「いわゆるお姫様だっこなんだよ!」


 背中に乗せることはできない、抱えるとはつまりそういうことである。


『唐突なルナトラ助かる』

『そっか、二人は幼馴染同士なんだっけ?』

『これは二次創作がはかどりますよ?』

『ナマモノにはご注意を!』


 そういったコメントを受けながらも、雫月は鳥楽音を抱えて、マグマの湖を突っ切っていく。


「うわぁ、こう見ると、やっぱりこの湖広いんだよ!」


 余裕のある鳥楽音は下を見つつ、感想を言う。

 下は真っ赤なマグマ。

 見ているだけでも熱い気がしてくる。


「あっ! なんかでっかいモンスターがいたんだよ!」


 鳥楽音が指差す方向を雫月も見てみると、マグマの中に巨大な影が見えた。


『なんだあれ!?』

『影だけでもでっかいぞ!』

『あれは……クジラ?』


 大きさからすると、クジラのように見える。


フラワ~『あれは! ヴォルケーノクジラ! 背中から溶岩を吹き出すと呼ばれる巨大なモンスターだよ!』


「ヴォルケーノクジラ? 聞いたことのないモンスターですね」


 陽花のコメントが気になり、思わずその場で止まってしまうが。


フラワ~『ヴォルケーノクジラは、目撃例が数例しかなく、しかも、すぐにマグマの中に潜ってしまうからどんな生態をしているのか謎なんだよ!』


 陽花のコメントからも、興奮している様子が見て取れる。


「へぇ、レアなモンスターってことですか? それは珍しいモンスターが見れましたね」


「ばっちり放送にも映ったんだよ!」


『ばっちり見たぞ!』

『フラワ~ちゃんすら詳しくないモンスターとかやばいな』

『あのでかさだと、ボスよりも強いとかありえそう……』

『襲われたらやばそうだな』

『てっきり鬼畜花で捕まえるとか言うかと思ったよw』


フラワ~『捕まえるなら捕まえてほしいけどね! でも、流石に無理じゃない? 食べられたら大変なことになるし。そもそも、ヴォルケーノクジラはあんまり凶暴じゃないって聞いてるから戦えないんじゃないかな?』


 実際、ヴォルケーノクジラはもうマグマに潜ってしまったようで、もう姿を見ることができない。


「まぁ、そうですね。見れただけでも満足しておきましょう」


 そう言って、改めて雫月は移動を開始した。



 しばらく飛び、マグマの湖を抜けることができたので雫月は地面に降り立った。


「ふぅ、結構な結構な時間飛んでましたね」


「でも、かなりのショートカットにはなったはずなんだよ!」


 実際、マグマを迂回していたら、こんなに短時間でここまでたどり着くことはできなかっただろう。


「ほら! あれがエリアボスの場所だよ!」


 鳥楽音が指差す先には、エリアボスがいる証である薄い境目が見えた。

 距離はもうすぐそこだ。


『まじでショートカットじゃん!』

『俺、ここの攻略めっちゃ時間かかったのに……』

『耐性あればこんなに早くいけるのか……今度試してみようかな?』

『いやいや、マグマに入れるだけの耐性あっても、普通だったらマグマにいる敵と戦うからこんなに早くはつかんぞ』

『最悪、あのヴォルケーノクジラと戦う可能性も……』

『げっ、それは流石に勘弁だわ……』


 これも飛べる雫月だからこそできるショートカット。

 飛行能力は偉大である。


「ボスを倒して今日の放送を終わりにしましょう」


「うん、頑張るんだよ!」


 気合を入れ直して二人はエリアボスへと向かった。

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