第18話 ボス討伐のRTA

 エリアを進んでいき、雫月はボスゾーンエリア手前のセーフゾーンまでたどり着いた。


「少し時間がかかりましたね」


 掛かった時間は1時間30分程度。

 前回のエリアでは1時間ほどだったが、それよりも長く時間がかかっている。


『走っていけばもうちょっと早くついたかもだけど、普通こんなもんよね』

『ほとんどの敵を一撃だからこれでもかなり早い方だけどね』

『というか、多分普通に記録になりそうなくらいは速いよ?』

『しかもソロだからな、普通はソロでダンジョンなんか潜らんのよ?』


フラワ~『遭遇したレアモンスターの数は1体だけ。ルナさんにしては運が悪い方だね』


「ご期待に添えず申し訳ありません」


『鬼畜花wwww』

『普通だったら運がいいなんだけどなwww』

『まぁ、確かに配信的には出てくれたほうが盛り上がったかもだけど』

『ここに至るまでのほぼすべてのモンスターに解説いれてくれるから、正直めっちゃ助かってる』

『それな、知ってるつもりでも知らないモンスターの特性とかがあって、へぇってなる』

『別のエリアに行くときもぜひお願いしたい』


 フラワ~の行っていたモンスター解説も好評なようだ。

 まぁ、フラワ~にしてみれば自分な好きなことを広めたいというただのオタク……研究者心であるが。


「フラワ~さん、ここのボスってクレイゾウでしたよね?」


 雫月はダンジョンに入る前に聞いていたことを改めて確認を取る。


フラワ~『そうだよ~、クレイゾウは粘土の体をした象のモンスターで、切ってもくっつくのが一番の特徴。また、自分の体を切り離して壁にしたり、砲弾みたいに飛ばして攻撃してくることもあるの。属性は土で、通常個体の色は白だよ』


『この一瞬でこの解説量よwww』

『粘土象は剣での攻撃きかないから結構やっかいなんだよなぁ』

『弱点とかはないの?』


フラワ~『弱点というか倒し方としては、ともかく粘土の身体だからコアを直接攻撃しないといけないんだよね。だから、あえて攻撃を撃たせて相手の身体を削るのがいいよ、回収しようとする行動もあるけど、先に回収して取られないようにするのがおすすめ』


『ほへぇなるほど』

『メモメモ』

『これは優秀花……』

『基本的に耐久戦になるんだよなぁ』

『でっかいから削れるまで結構時間かかるし……』


 フラワ~の解説を聞いて誰もが戦いは長くなると思った。

 しかし、雫月はにやりとする。


「というのが通常の倒し方になります。今回は、耐久じゃなくてRTAやってみようと思います!」


 RTAというのはリアルタイムアタックの略で、ゲームにおいてどれだけ早くクリアできるかを競うものである。

 ここは現実のダンジョンでゲームではないが、モンスター討伐における早さという意味でもよく使われる。


『まじか!』

『よっしゃ測るぞ!』

『クレイゾウのRTA記録とか、配信探せばどっかありそう!』

『これは世界記録待ったなし!』


 日本のダンジョンなので、日本記録だが、どのみちその時点で世界記録である。


「それじゃあ、私が部屋に入った時点でスタートです」


フラワ~『記録は私が測るよ~』


 フラワ~の言葉の後、配信の画面にはタイマーが表示された。

 それを見て視聴者は、まじでやる気だこいつらと盛り上がる。


 雫月は一度深呼吸をして自分のやることを考える。

 大丈夫、陽花と計画を立てた段階でこうすると決めた流れだ。

 それに向けて練習もしてきた。だから大丈夫。


「いきます!」


フラワ~『よーいスタート』


 雫月が部屋に入った瞬間、フラワ~がタイマーをスタートさせた。



「ぱぉおおおおおおおおおお!!!」


 雫月が部屋に入るや否や、それを認識した巨大な白いゾウ、クレイゾウが嘶く。

 しかし、雫月はそれに対して一切反応することなく、クレイゾウに詰め寄る。


「りゃあああああああ!」


 全速力フルスロットルで出せる限り速くクレイゾウに近寄り。

 そのまま通り過ぎた。


『速っ!』

『攻撃……した?』

『あれ? 通り過ぎただけ?』


 もちろん、通り過ぎただけのはずがない。

 その証拠に、雫月が通り過ぎたあたりのクレイ・ゾウの一部が飛んだ。

 すり抜ける瞬間に、雫月の手がクレイ・ゾウの一部に触れたのだ。


「もっかい!」


 すぐに振り向き直して、雫月は再度アタックをする。

 またしても、クレイゾウの一部が吹き飛ぶ。


『身体が徐々に小さくなってる!?』

『ルナちゃん速っ!』

『魅せるなぁ!』


 生半可な攻撃ではクレイゾウに攻撃をしたところですぐにくっついてしまう。

 それは例えば鈍重なハンマーで攻撃をしても、同じ事だ。

 唯一の方法としては、高速で一部を削り取ること、それもかなりの速さが必要になる。


 雫月のパートナーであるツキヨウはホシイヌというモンスターであり。

 その一番の特徴はその素早さにある。

 そうして、その素早さはシンクロすることで雫月に受け渡せている。


フラワ~『身体が細くなって……見えた! コアだよ!』


 高速で攻撃を加えつつ、身体を削っていくことでコアが見えた。

 それを認識したことで、雫月は動きを変える。


「ぉおおおおおおおおおお!」


 速さはこれまでと同じ。

 ただし、今度は拳を握って、そのまま、コアに叩きつけた。


ゴッ!!


 低い破壊音と共に、拳がコアに入り……

 粘土の身体からだけが綺麗に抜き取られた。


フラワ~『タイマーストップ!』


 壁にコア叩きつけられて壊れるのとフラワ~のコメントは同時だった。

 コアを抜き取られたクレイゾウはそのまま溶けて消える。


「倒しました!」


 その討伐時間、なんと驚愕の1分5秒。

 他の記録はないが、間違いなく世界一の記録であることは視聴者全員が理解した!


『世界記録おめでとう!』


 雫月の配信はそんなコメントで埋まったのだった。

 当然、そんな場面も切り抜きとしては広まり、雫月のチャンネルは更に伸びたのだった。

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