第二十九話.大蛇の残したものはなんじゃ
「この辺かな」
がさり、がさりとあおい草を分け入って大蛇の逃げた先を追いかける。ずいぶんのたうち回って逃げたのだろう。立ち木を薙ぎ倒し、うろを抉りながら地面を引きずった跡がくっきりと残っている。
「あれ、あの黒い塊もしかして」
「こげくさい」
とぐろをまいた身体から伸びた頭が、天を仰いで大きく口をあけている。酸素の足りなくなった魚が少しでも多く息を吸おうとするように、こいつも逃げ場を探して空を見たのだろうか。キツネが近くのやぶを剣で払いながら近付いていく。
「死んでますか?」
「うーん……」
ぴくりとも動かない黒色のかたまりに、慎重に距離を詰めていく。少し離れた位置からルシアとマヤが固まって様子をうかがっている。いよいよキツネが大蛇の目前に
「死んでる、生きていない。いや……!」
「えっ!?」
とん、とマヤがルシアを押す。普段では考えられない力強さで、ルシアは押しのけられて地面を転がった。ころころ二、三回転がったあと体勢を立て直して立ち上がる。直後、マヤの頭上から何かが降ってきた。マヤは身をよじって間一髪、それを回避した。
「抜け殻だ!中身がない、気をつけろ!」
「いうのがおそい」
キツネが叫び、マヤがこたえる。
「シャ!」
頭上からふって来たのは白い蛇だった。あの巨大な蛇から、真っ白な蛇が抜け出てきたらしい。飛び掛かろうとしてくるそれに、マヤは袖から取り出した黒い塊を向ける。同時に小さな光と、連続した破裂音。
パン、パン、パァン!
白い蛇が赤い血を噴いて吹き飛んだ。ずるずると、しばらく動いていたもののさすがに力尽きて動きを止めた。マヤが取り出したのは拳銃だった。銃口からは白い煙。黒色火薬が燃焼したあとの特有の匂いが残された。
「け、拳銃?」
「うん」
「やっつけたんですか」
「たぶんね」
銃器を使うのはもっぱら人間で、亜人やエルフは滅多にそれらを使ったり携行したりはしない。それは亜人種が個人の力を重視する傾向が強く、剣や魔法などの技術こそが重要だと考えているからだ。逆に人間種は誰が使っても同じ効果を得られる道具というのを重視する。彼らはそんな人間の作る道具を、邪道だと考えているのだ。驚いたルシアがマヤを見ていると、彼女が口を開いた。
「ハーフエルフだからね。使えるものはなんでも使うよ」
「そうなんですか」
そうしているうちに、やったかなどと言いながらキツネが近づいてくる。
「おそい」
マヤは銃を懐にしまいながらそう言った。
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