第二十四話.イカサマじゃなイカ?
「わしは、九だな」
「お、勝った!」
ものの三十秒で、一枚の銀貨が二枚に増えた。となりの冒険者は青白い顔になっているが、どうやらやられたらしい。勝ったり負けたりを繰り返して、少しばかりプラスになった頃にとなりの冒険者が言った。
「おっちゃん、もう少し金を貸してくれ!次の勝負で一発逆転、全部取り返してやる」
「ああ良いよ。でも困ったな、金を貸してしまうと親をやれるほどの余裕が……」
小太りの男がキツネを見る。
「あんた、調子よさそうだし一回親を代わってくれないかい?一回だけでいいよ」
「親を?」
「ああ。賭けるんじゃなくて、賭けるのを受ける側。親番だよ。良いだろ?」
キツネがマヤの顔を見る。
「いいんじゃない」
「じゃあ受けよう。カードを配れば良いんだよな」
「ああ。いや、待てカードはわしが配ってやろう。慣れてないだろう?」
「じゃあ頼むよ」
「えぇ……怪しく無いですか?」
ルシアが口を挟むが、マヤが再び唇に指を当てて静かにしろとジェスチャーをする。この人たち大丈夫なのか。カードを配り終わって、数字を確認する。キツネのカードは点が三つと、六つのカード。つまり3と6で合わせて9だ。それじゃあと冒険者風の男が、銀貨を十三枚目の前に置いた。全財産らしい。小太りの男は冒険者風の男の前に追加で金貨を五枚置いた。
「は?」
レートによるが、金貨は一枚でおよそ銀貨十枚だ。つまり銀貨換算で六十三枚。帝都の
での給料四ヶ月分くらいの大金だ。
「いや、全財産賭けようっていう彼の心意気に乗ろうと思ってね」
「そんな金ないぜ」
「大丈夫、大丈夫。金はツケで大丈夫。もし負けても貸しにするよ。それに、そうだな、後ろのエルフのお姉ちゃん。彼女だったら割の良い仕事も紹介できるよ」
キツネがマヤの方を見る。
「いいよ」
マヤはそれだけ言うと、キツネの持っているカードを手にとって床に伏せた。
「よし、じゃあ勝負だ」
「オープン」
そう言いながら、冒険者風の男がカードを開く。数字は三枚。2と5と5、合計十二。このゲームで最強の札だ。
「おお!お兄さんやっぱり信じて良かったよ。やる時はやるんだな」
わざとらしく大声で小太りの男が言った。全財産賭けた割には冒険者風の男のリアクションが薄い。もしかして、こいつらグルなのか?ハメられた?ルシアが何か言いかけようとしたところで、それを遮るようにキツネが動く。
「喜ぶのはまだ早いんじゃないか?」
キツネがそう言って、床に伏せてあるカードをめくる。カードには赤い点が六つと六つ。つまり6と6で十二。同点だ!セーフ、というかさっき見たカードは3と6だったような。
「な、なに!?」
小太りの男が驚く。
「何って、同点だな。何を驚いてるんだ?いや怖い怖い、ギリギリ助かったぜ」
「いや、そうか。そうだな。じゃあ勝負は無しだな、残念だけど……」
そう言って、自らが出した金貨を回収しようと手を伸ばしたところでキツネが言う。
「まて。同点は、こう言ってたな。賭け金を倍額にして、次の勝負だって。あぁあんたは銀貨十三枚だったな、じゃあ次は二十三枚の勝負。おっちゃんは金貨五枚だから次は十枚だな」
「なに?そんな金あるわけが……」
「良いよ、貸しで。良いんだろ?」
「ぐぅ、お前さん。本当に良いんだな。負けたらエルフのお姉ちゃん、しばらくは帰れんぞ」
「いいよ」
先程と同じ、さらっとマヤが答える。ルシアは早まる鼓動を抑えるのに必死だ、気を抜くと卒倒してしまいそうな雰囲気だ。さすが冒険者なのだろうか、彼女らの肝の座り方は異常だ。金貨十枚と銀貨二十三枚。ものの三十秒で決まるようなゲームでそんな金額、小市民で暮らしてきたルシアには正気とは思えない。キツネの目が鋭くなる。
「金を出しなよ」
言葉を聞いた冒険者は、小太りの男の方を見る。それに応えるように小太りの男は頷いて金を出した。再び、カードがそれぞれの前に配られた。キツネのカードは1と2。合わせて3。対する冒険者は一枚追加のカードを要求するが、それをなぜか小太りの男が引こうとする。
「まて」
マヤが声をかけた。男の動きが止まった。
「あやしい。上から一枚渡すから山札にさわらないように」
「ああ、そうかい。じゃあ一枚渡してくれ」
そう言いながらカードを山札の一番上に戻して手を引っ込めた。何か仕掛けをしたのだろうか、余裕の表情である。が、マヤが手渡したカードを受け取って表情が一変した。
「んっ!?」
「どうしたんだ」
冒険者風の男と、小太りの男らが二人で何やら震えている。キツネもカードを一枚追加する。
「よし、じゃあ勝負だな。ところでアドバイスだけど、博打を打つのにそんなリアクションしちゃダメだろ。顔にでてる、わかりやすいぞ」
「……」
無言でカードが開かれる。冒険者のカードは4と5と6。合計15でアウト。対するキツネは、2と4と6合計12。キツネの勝ちだ。
「よし勝った!悪いな」
そう言って、キツネが場に出ている硬貨を全て自分の元に引き寄せた。大量の金貨と銀貨が打ち合って金属音を高らかに上げた。
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