第十六話.キツネさんの黄金郷に求めるものは?
「黄金郷の噂って、何を知ってる?」
「噂ですか?」
キツネの問いかけにルシアが応える。
「えーっと、樹海の奥地のどこかに黄金でできた都市があるってことですね。誰も見つけていないんだけど、この間そこから黄金を持って帰ったって言う冒険者が出てきた」
「うん」
「それで、探検に出る人が爆発的に増えたんですよね。キツネさんたちみたいに」
「そうだな」
彼は、うーんと一つ背中を伸ばした。
「ところで、その黄金郷から帰ってきた冒険者って見たことはあるか?」
「いえ」
「死んだらしいぜ」
そうなのか。確かに噂が噂を呼んでいるが、その噂の張本人の姿は見たこともない。
「誰が言い出したのかは知らないけど、黄金郷には命を吸って黄金に変える石があるんだってさ。命からがら逃げてきた冒険者も、それで死んだんだと」
頷きながらルシアはメモを取る。人差し指をくるくるしながらキツネは続ける。
「だからさ」
「だから?」
「俺が黄金郷を探しに行こうと思ったきっかけだよ。その人の命を吸う石とやらを見てみたくなったのさ」
「なるほど」
冒険者ともなると、そんなところにも興味があるのか。いきものの命を吸って黄金に変える石。
「怖くないんですか?」
「うん?」
「もし見つけても、命を吸われるかも」
「そうだなぁ、あんまり怖くないかな。もし命を吸われて死んだらそのときだ。それに」
「それに?」
キツネがニッと笑う。全く屈託のない瞳だ。
「それが冒険者だろ?日常から飛び出して、未知なるものに挑戦する。それがなんだっていいのさ。俺は冒険が好きなんだ」
「冒険ですか」
キツネはルシアの持っていたペンを取って、くるくる回し始めた。目で追いかけると目が回りそうだ。ルシアは新聞社で働いているんだろう?とキツネは聞いた。そうだと答えると、彼は続ける。
「例えばさ、毎日通う職場への通り道を変えてみる。出発する時間帯を変えてみる。見えてくる景色に目を向ければ、何か新しい発見があるかもしれない。それが冒険さ、剣を持って旅をするのだけが冒険じゃない。自分の心が決めるんだ」
言いながら、キツネは自分の胸をペンで指し示す。
「未知に挑戦するのをよしとする。新しいことを楽しむ心。俺は冒険者で、冒険が好きなんだ。だから……」
彼は大きく息を吸って言った。
「黄金郷が見つかったなんて、そんな噂を聞いたら探検せずにはいられないのさ」
キツネはそう言いながら笑って、ルシアにペンを返した。
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