ユニーククラス戦乙女を獲得したのはいいのだが、その影響で美少女になったようだ

三毛猫みゃー

1章 覚醒したら女になった

第1話 コクーン

 姫咲ひめさきリンネ12歳、今年小学校を卒業したばかりで、この春には名門中学校へと入学を控えている。そんな彼は今コクーンと呼ばれる卵の形をした装置の前に、全裸で腕を組み仁王立ちしている。別に彼が変態だから全裸なのではない、コクーンに入る時は着衣をまとわないことが決まりだからだ。


 リンネは今日このコクーンに入り覚醒者となることで、新しい人生を歩み始めようとしている。コクーンに入る指示を待っている彼の視界にはMultitasking Augmented Reality Deviceであるμαミューアルファ通称ミーアによって視界にはAR、いわゆる拡張現実としてコクーンの説明が表示されている。


 コクーン 新暦5年に開発された覚醒誘発装置▼。


 リンネは視線で▼を選択する。


 ▽覚醒誘発装置。覚醒の水晶▼を元に未覚醒者を覚醒者▼へと変化させるために開発された。


 再び視線で覚醒者の横にある▼を選択する。


 ▽覚醒者。新暦元年にダンジョン▼の出現が確認され、その前後に現れるようになった者たちの総称。


 現在は新暦44年なので、およそ半世紀前にコクーンは作られたことになる。リンネがそのようなことを考えていると、プシューという空気の抜けるような音とともにコクーンの前面が開き始めた。


 リンネはμαの表示を全て消して視界を通常に戻しコクーンの中を覗きこんだ。コクーンの中はつるりとした黒い壁面が見えるだけで突起やつなぎ目なども見当たらない。


『それでは姫咲リンネさん、コクーンにお入りください』


 スピーカーから聞こえてきたその声の指示に従いリンネはコクーンへと入り込む。入ると同時に入ってきた入り口が閉まり視界は真っ暗になった。リンネはμαを起動しようとしたのだがコクーン内では機能停止されているようで反応しなかった。


 リンネにとっては物心が付くまえから使い続けてきたμαが使えないということに、居心地の悪さを感じてしまうのは仕方がないことだろう。この国では出生とともにマイクロ・ナノチップを体内に埋め込むことが義務化されている。


 マイクロ・ナノチップが埋め込まれることにより、各種バイタルチェックなどが行われ人手不足の解消や、子どもの育成などに大いに役立っている。そしてそのマイクロ・ナノチップがμαそのものであり、機能の一部として電子機器を介さずとも、視界内に様々な情報をARとして表示することができるようになっている。


 真っ暗な視界の中、突如足元から液体が流れ込んでくる。リンネにとっては事前説明通りなので特に焦る必要もない。液体は数秒でコクーン内を満たす。全身がなんとも言えない感触に包まれたリンネは、止めていた息を吐きだす代わりに液体が口の中に入り込んできて飲み込んでしまう。


 不思議なことに息は苦しくない。そして段々と眠気が襲ってくる。体の力が抜ける。暖かくも寒くもない。そして意識が……。


 突然視界が真っ赤に染まる。リンネの意識が覚醒する。閉じていた目を開けるとコクーン内にはERRORという文字が無数に表示されている。μαが突如起動し、そこに映し出されたARにも無数にERRORの文字が表示されている。


 ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR

 ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR

 ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR

 ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR


 視界を埋め尽くす赤いERRORの文字。この瞬間、姫咲リンネのコクーンによってもたらされるはずだった覚醒者としての新たな人生は、始まることすらなく終わりを告げた。



 HMDヘッドマウントディスプレイの形をしたFull Dive Virtual Reality装置を装着している姫咲リンネが暗い部屋の中で、ベッドに横たわり気持ち悪い笑みを浮かべている。かたわらにはサウザンドシスターズメモリアルというタイトルのゲームパッケージが無造作に置かれている。


「くふっ、うへ、うへへへへ」


 サウザンドシスターズメモリアル、一世紀以上前に発売された骨董品とも言えるフルダイブ型VRゲームである。ストーリーとしては、平凡な主人公のもとに突如生き別れだった父親の使いが現れ、父親のいるという屋敷に案内される。屋敷で父親と再会を果たした少年は、父親の後継者となることを強制される。


 最初は嫌がっていた主人公だが、何日か屋敷に滞在することで色々な事情を知ることになり後継者となることを決めた。父親は喜び、今まで会いに行けなくて済まないと謝罪をする。それを許す主人公、そして父親は「後は任せた」という言葉を残し逃げるように旅立っていった。


 主人公は後継者となるために屋敷で教育を受け始めるのだが、そこへ、一人の少女が現れ「私はあなたの妹です、よろしくねお兄ちゃん」と抱き付かれ困惑する主人公。その日から次々と妹を名乗る少女が現れだす、というものだ。


 タイトルで分かるように、総勢1000人の妹が現れるという、発売当時でも開発者は頭がおかしいのではないかと言われていたものだ。全キャラクターに別々の声優を起用し、なんとも豪気なことだと言われていたが、制作会社はこのゲームが理由で倒産したという落ちまで付いてくる。


 ちなみに後々はプレミアが付き、十八禁仕様に違法改造されたソフトが出回ることになる。リンネの名誉のために言っておくが、今彼がプレイしている物は未改造品なので、気持ち悪い笑顔を浮かべていたとしても、いたって健全なのである。


 コンコン


 リンネの部屋の扉がノックされる。


 コンコン


 再びノックされた後、ガチャという音とともに扉が開き一人の少女が部屋に入ってくる。少女は、とある女子校の制服を着ており、濡烏のような黒い髪はポニーテイルにまとめられている。


 少女は気持ち悪い笑顔を浮かべているリンネからHMDを引き剥がし仁王立ちになる。


「お兄ちゃん!」


 突然現実に引き戻されたリンネは目をしばたたかせながら少女へと視線を送った。

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