02:俺、死んでるんだよな?
「えぇと、その……あんた、誰?」
と尋ねてみる。
「はぁ!? 誰って。誰はないでしょ? 人の名前、大声で叫んでおいて」
この子、めちゃくちゃ怒ってるんだけど。
俺何かしたっけ?
した覚えないんだけどな。
こんな見知らぬ女の子を怒らせるとか俺ってとことんツイてないんだなぁ。
って。
「名前?」
そんな今さっき会ったばっかの女の子の名前なんて分かるわけないじゃん……。
「だからっ、あたしの名前っ! 今、叫んでたでしょ!?」
怖すぎる。気ぃ強そうだし、これ以上怒らせたくない。
ここはできるだけ穏便にいきたいな。
「あ、あのさ、俺、あんたの名前なんて叫んだ覚えないんだけど……」
「ふざけないでよ。さっき、すごくでっかい声で"空ぁあああああっ!"って叫んでたのはどこの誰よ? あんたでしょ?」
「空?」
あぁ、そっか。
この子の名前、空っていうのか。
だったら叫んだことになるよなぁ。
俺、さっき大声で叫んでたもんな。
「こんなとこで、人の名前叫ぶのやめてくれない? すっごく迷惑だから」
「あはは……、あははははっ!」
「な、何がそんなにおかしいのよ?」
「いや、確かにさっき叫んでたけど、別にあんたの名前呼んでたわけじゃないんだよ」
「……?」
俺は"空"を見上げた。
俺が今、一番行きたいと思っている場所。
けど、どういうわけか行けない場所。
「あ、そうなの? ……って、」
そう言うと、その女の子――空は、下を向いて唸りだした。
かと思うとさ、
「変な奴」
って、俺のこと睨むような感じで見てきたんだよ。
俺のが背が高いから、ちょっと上目づかいになってて、それがほんの少しだけ可愛いかもと思ったのは言ったら怒られそうだ。
いや、っていうかさ、そっちも失礼だろ?
いきなり人のこと"変な奴"って言ってきてさ。
そりゃ、まぁ、こんな道のど真ん中ででかい声出してた俺だから反論とかできないけど。
でも、やっぱり、へこむよなぁ。
だってさ、だってさ。
この一週間、道行く人にどれだけ声かけても俺の声なんて聞こえてないみたいだったからさ、別に大声だしたって誰も気にしないだろって、自棄になってたんだよ。
って。
……あれ?
ちょっと待てよ?
俺、死んでるんだよな?
それで、今までたくさんの奴が俺の目の前を通り過ぎてったけど、俺に気付いた奴なんて一人もいなかった……んだよ、な?
でも、俺、今、この子と、この子と――。
「は、話してる……?」
「はい?」
「あ、あぁっ!? あぁあああっ!!」
「な、何よ、いきなり!? 人のこと指さしてっ!?」
「分かった。空っ! お前、お前も俺と同類なのかっ!」
「同類?」
「つ・ま・り、だ。お前も俺と同じだ。実は死んでるんだろ? 幽霊仲間なんだろ?」
「あの、ごめん。もう一回、言って?」
「だからさぁ、お前も死んでるんだろ? だろ?」
な、なんだよ。 この嫌な沈黙は。
「どうしよう……やっぱり、やっぱり! こいつ変な奴だ……!」
「変な奴って失礼だなぁ。お前、さっきも俺のことそう言ってただろ」
何かとてつもなく危ないものを見るような目で人を見ないでくれよな。
「し、失礼なのはどっちよ。死んでるんだろ? って、ばっかじゃないの?」
「でも、お前死んでるんだろ? そんなの見れば分かるよ」
「…………」
嫌な沈黙だなぁ。
なんて思ってたら、
「……さようなら。私は誰とも会いませんでした」
おぉ、見事なターンにダッシュだ。
というか、なんだよ、あの態度は。
「あ、俺は大! 俺の名前は大だからな、だーいー! 忘れんなよー!」
もしかして、あの子、自分が死んだってことに気付いてないのかもな。
よぉっし、俺がなんとかしてやるか!
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