天津三姉妹は仲良く暮らす

@parliament9

第1話

登場人物

天津クリコ 長女

営業

真面目っこ


天津ハンナ 次女

マーケター

ほんにゃらっこ


天津コウ 三女

SE

根暗っこ




「みんな、聞いて」


ビーズクッションに寝転びようにしてスイッチでsea of starsを楽しむ次女と、やたら分厚い辞書のような表紙にJRとでかでか書かれた本を腹に置くようにして寝そべりながら読む三女を見下ろして、長女の天津クリコは言った。


「私もこんなに…こんなに情けないこと言いたくないのだけれど。というか女性としてね、その、わりと本当に言いたくないのだけれど」


彼女、天津クリコが26歳にしてははっきりと幼く見えるのは主に髪型のせいだろう。いわゆる黒のおかっぱなのである。また背丈もちいこいものなので二重に幼く見えてしまう。目は大きく、くりっとしており、小ぶりな唇も上品と言えば上品なのだが全体的に幼いため、綺麗と言えば綺麗だが可愛さが勝つ顔立ちをしている。せめてもう少し着ているパジャマのセンスさえあればマシだったかもしれないが、大人向けアレンジがされているとはいえファンシー系のキャラ物だっただけにその印象にトドメを刺していた。


「どしたの姉さん」


次女の天津ハンナがスイッチから目を外さずに尋ねる。こちらはクリコに反するようにグラマーだった。髪も明るい赤めの短髪、無造作ヘアがよく似合う。そして23歳のグラマーなのだ。オーバーサイズのはずのTシャツがぱつぱつになり、中央に描かれていたN64のロゴをチェンソーでぶった切る様子を描かれた謎キャラがびよんと伸びてしまっているほどに。たれ気味の瞳も、ノーメイクであるにも関わらずグロスが塗られているような唇も扇情的で悩ましい。濃紺のジーンズが破れかねないほど張り詰めた下半身を含め総じて艶めかしい肢体と言えたが、身内しかいないその空間においては特に活用の余地のないものとも取れた。


「ないの」


そんな気ままな次女の様子とは裏腹にちんまい長女は悲しげに告げる。


「だから何がさ」


次女はそんな長女の面持ちを一顧だにする様子はなく返す。踏ん切りがつかなかったかのような長女は観念したかのように絞り出した。


「だからないの…その、トイレットペーパーが…」


瞬間、オキェッ!という奇声が上がった。


三女だった。名前は天津コウ。年齢は20歳。俗に言うプリン頭だ。頂点が黒く、それから肩にかかるかかからないかくらいの金髪。大抵の会社の服務規程に引っかかるようなパンクロッカー崩れもどきのような髪だ。そこに厚底眼鏡がかけられ、そばかすがあり、ぱっと見は美大崩れのようであり、崩れまくりだった。しかしよく見れば切れ長の二重まぶたも、黄金比の唇も美しく、何やかやで上二人と血のつながりを感じさせる美貌が隠れていることが分かる。惜しむらくはダメ人間用毛布を着込んでおり、頭から下の一切の情報が見て取れないところではあったが、当人はそれどころではなかった。


「ちょちょちょちょちょっとおおおおお姉ちゃん!どっどどどういうことなのトイレットペーパーが無いって!」


必死の形相でわめきたてる。長女は内心、ああやっと慌ててくれる奴が出てきてよかったと言わんばかりの安堵を感じながら説明してやった。


「だから、無いのよ。その…もうひと拭き分も…というかその、私が使い切ってしまったの」


雷が落ちたかのような衝撃が三女に走る。


「だ、だっていつもAmazonの定期便で頼んでてるじゃん!ていうか使い切るってなに!?こう…何とか我慢してよ!お姉ちゃんじゃん!」


「落ち着いて聞いて、コウ。まず先に伝えておきたいのだけれど、生まれた順番と生理現象への抵抗力に因果関係は存在しないわ。つまり無茶言わないで。そして定期便で受け取った人がトイレの上の棚に補充しておくルールだったでしょう。つまり棚の中にいくつ残りがあるかは補充した人物しかわからない状態になっていたの。定期便を使うようになって三ヶ月…この三ヶ月私は日中は勤めに出ていて受け取っていないわ」


「私だってそうだよ!在宅勤務だけど自分の部屋に引きこもってたもん。私が宅配便の人にも会いたくないくらい人嫌いなのは知ってるでしょ!?」


三女と長女の視線は一瞬交錯し、そして同じ方向を向いた。


「ハンナ…?」「ハン姉…?」


向けられた当人はどこか気まずげに笑っていた。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天津三姉妹は仲良く暮らす @parliament9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る