第21話 メソッド

 Dクラス職員用医務室のベッドで横になり、人工呼吸器を取り付けられた有坂が意識を取り戻したのは翌日の事だった。


「起きたかね?」


 目を覚ますなり、有坂は数人の職員に囲まれていることに気付いた。財団から脱走した挙句SCPに近寄り打ちのめされ、あまつさえ救護された自分の処遇を考える。Dクラス職員用の刑罰があるのだとしたら、きっと重い罰が与えられるだろう。只では済まないのは分かっていた。


「……もう一人、いませんでした?関西弁のおっさんなんだけど。」


 有坂は一緒に逃走を図った堀江の事がずっと気がかりだった。水溜まりの底にあった懐かしの地で出会うことは無かった。彼も別の世界に落とされてしまったのだろうか?もしくは、たまたま一切顔を合わせることなく先に脱出したのかもしれない。堀江とは仲が良いわけでも彼に愛着があったわけでもないが、全く気にならないというのは噓であった。


「それより君と話をしなくてはならない。1時間後にまた来る。顔を洗って飯を食っておけ」


 有坂の問いかけに一切答えずそう言い残し、ぞろぞろと職員たちは医務室を出て行った。



「それよりって……。なんだったんだあいつら……」


「貴方、中々やるわね。」



 呆気に取られていると、女性の医師に労いの言葉をかけられる。長いフレンチのネイル。彼女は、入団した際の精神鑑定を担当した女性だった。


「……俺が脱走したから罰が当たったんだな。おとなしく3か月我慢していれば釈放されたってのにさ。昔からこうだよ、我慢していればいつかは出所できるのに俺は我慢が出来なくって、先走って、脱走して罪を重ねて……。自分で自分の首絞めてんだって分かってるのに。愚かだよな……。」


「……。」



 不思議と何でも話せてしまう雰囲気が彼女にはあり、有坂は思わず吐露する。彼女は黙ってその話を聞いていた。


「俺、これからどうなるんですか?」


「それをこれから決めるんですって。」


「……死刑、とか?」


「さぁ、どうでしょうね。生きたいのならば自分が有用であることを示すことです。」


「……有用だなんて。そんなの、俺に……。」


 


 そんなの、思い当たらない。そもそも、罪を犯し犯罪者となった者に有用性などあるのだろうか。有坂はどうも思いつかず、黙りこんだ。


「あなた、自覚していないのね?貴方が幸運の持ち主だという事。」


「脱走失敗して、怪我して、どこが幸運なんですか?」



 有坂は自嘲する。



「幸運であるにはそれなりのメソッドがある。危機的瞬間でどのような判断をしてどんな行動を取るのか。本人には無意識でも、それぞれの人間の性質上、どういった行動を取りやすいか傾向があるわけ。現に貴方は数回Scipと接触しているのに生きているじゃないの。それって、とっても幸運な事で、稀有な事なのですよ。なんであなたが生き延びることが出来たか、よく考えてみたらどう?」


「俺が生き延びた理由?」

 


  例えば、温和な性格の人間であれば他人とうまく調和し、諍いを起こすことなくコミュニケーションを取ることが出来るが、逆に攻撃的な性格の人間であれば、何かしらの不和を生み出す。それと同様に、幸運を掴む傾向の性質が有坂にあることを彼女は指摘した。


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