風吹く街で

入江 涼子

第1話 

 あたしは風がよく吹く街で生まれ育った。


 街は、アリーシェと呼ばれている。アリーシェの街で特に風が強く吹くのは初冬だ。今がその季節だった。


「イーシャ、今日も頼むよ」


「はい!」


 母さんから、タカの木の枝で編んだカゴを手渡された。お使いに行って来てと言いたいらしい。お金も渡されて、鶏の卵や野菜のニンジンなどを買って来るようにと頼まれた。仕方ないかと思う。母さんは、去年にあたしより十七歳も下の弟を生んだところだ。まだ、生まれて三ヶ月の乳飲ちのを抱えているから、必然的に家の事は兄弟の一番上のあたしが担当している。ちなみに、真ん中に五歳下の妹もいた。あたしは当年取って、十七歳だ。妹は名前をウェリナと言う。年齢は十二歳。弟はエマールといった。

 まあ、母さんは十八歳の時にあたしを生み、二十三歳にウェリナと二人の娘を抱えて大変だったそうだ。父さんはいない。エマールが母さんのお腹にいた頃に天に召されて、あたし達を置いていってしまった。

 そんな事を考えながらも、あたしは買い物に出かけた。


 市場に行き、頼まれた野菜類や調味料などを買い揃える。次に養鶏をやっているらしいお家に行き、お金を渡して卵を買う。布に丁寧にくるみ、カゴに入れた。テクテク歩いて家まで戻る。ヒュウとまた、風が吹く。いわゆる木枯らしだ。今の季節はなかなかに冷たく乾いた風だから、吹くと体が縮こまってしまう。着ていたコートの襟やマフラーを掻き合せながら、急いだ。


 家に帰ると妹のウェリナが待ち構えていた。


「お姉ちゃん、お帰りなさい。寒かったでしょ」


「うん、もう木枯らしが吹く季節だしね」


「本当よ、アリーシェの街は昔からそうだね」


 二人して頷き合った。カゴをテーブルの上に置き、コートを脱ぐ。マフラーも外してドアを閉める。コートやマフラーは椅子の背に引っ掛けた。すぐに夕食に取り掛かる。カゴから、いろんな食材を出す。今日は母さんやウェリナが好きなプレーンオムレツを作ろうかな。そう思いながら、エプロンを肩に掛けた。


 黒パンを薄く切ったのとプレーンオムレツ、ニンジンやタマネギ、セロリにベーコン入りのコンソメスープ、最後にキャベツやレタス、キュウリ、ハムを使ったサラダになる。これらをテーブルに並べて母さんやウェリナを呼ぶ。弟のエマールは子供部屋で眠っていた。彼がお休み中に急いで、食べる。あたし達は祈りを捧げてから黙々と食事を済ませた。


 エマールが起きたらしく、ウニャウニャと赤子の泣き声が聞こえた。母さんが急いで子供部屋に行く。あやしに行ったらしい。後片付けをウェリナと一緒に済ませる。こうして、一日が過ぎていった。

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