花の咲かない竹の姫

水波形

第0話 プロローグ

今となってははるか昔の出来事。

ある山におじいさんとおばあさんが住んでおりました。

おじいさんは竹取りの翁と呼ばれ、毎日山へ竹を切りに行っておりました。

ある日のこと。おじいさんは山の奥で、根元が光っている一本の竹を見つけます。

おじいさんは不思議に思いその竹を切ってみたところ、なんと中には小さな小さな女の子が入っていました。

おじいさんは女の子を連れて帰り、おばあさんと一緒に育てました。

女の子はすくすく育って、3ヶ月もすると美しい娘になりました。

女の子はかぐや姫と呼ばれ、多くの人たちが、ひと目会いたい、結婚したいといって訪れるように なりました。

しかしかぐや姫は誰とも会おうとせず、ただしくしくと泣くだけです。

4/1の深夜、かぐや姫は「私はこの世界の者ではなく、月から来ました。もう月に帰らなければなりません」と言います。

おじいさんたちはすぐに帝に頼み、兵を用意してもらいますが月からの使者はいとも簡単にかぐや姫を連れて帰ってしまいましたとさ。


………………………

…………………

………


ザシュッ

肉を切り裂く音とともに血しぶきが上がる。

赤いフードをかぶった少女に返り血が付着する。


メイジー「あー……汚え……」


森の中、小さな小屋を背に赤いフードをかぶった少女は、形はバタフライナイフ、しかし大きさは腕の長さ分もあろうものを振り回していた。

先程仕留めたものは、コウモリの形をした化け物だ。

あたりには同じ形をした化け物が散らばっている。

ナイフについた返り血をつけていた手袋で拭き取り、そのまま手袋を脱ぎ捨て、ナイフを折りたたんだ後彼女は小屋に入る。


メイジー「かぐや、今回はこれで全部みたいだぞ」


かぐや「そうですか。ご苦労さまです、メイジー」


小屋の中にはきれいな着物を着た少女が座っていた。

隣には黒い服を身にまとった暗い顔をした少女が一人座っている。


メイジー「ったく。何でココが分かったんだか……どっこいせ」


ドサッとメイジーと呼ばれる少女がおっさん臭く腰を下ろす。


マウリー「……どうせあなたが昼間に街で暴れたからでしょ」


かぐやと呼ばれた少女の隣の暗い顔をした少女が口を開く。


メイジー「うっせ。あの店の親父がぼったくろうとしてきたから悪いんだ!」


かぐや「マウリーの言うとおりよ。あなたは目立ちすぎです。そういう親父は本体だけではなくちゃんと店ごと揺らしてあげないと」


かぐやがマウリーと呼ばれた少女の頭を撫でる。


メイジー「わー出たよ。腹黒お姫様」


かぐや「ふふふっ、褒められるって気持ちいいわね」


メイジー「褒めてねーよアホ」


かぐや「しかし困りましたね。ココがバレてしまったのなら、新しい場所を探さないと」


メイジー「今夜は月が出てるぞ」


かぐや「あらあら、告白ですか?」


メイジー「それは『月が綺麗ですね』だろうがドアホ」


かぐや「ほんと、お口がたいそう悪うございますな。ま、それはさておき準備しますか」


かぐやが立ち上がり外に出る。

夜空を見上げ、月の光を浴びる。

メイジーが小さな木の枝を一本折ってかぐやに投げると、かぐやはそれをキャッチし、そのまま目の前に投げる。


かぐや「はっ!」


かぐやが木の枝に手をかざすとメキメキと何倍もの大きさになり、馬車の形へと変化していった。

マウリーは馬車が出来上がると小屋の荷物を抱えながらすぐに乗り込んでいった。


メイジー「……おい、かぐや。馬車はいいが馬がいないぞ……?」


かぐや「馬はいるじゃない。ほら」


メイジー「おい、私を指差すな」


かぐや「あなたの態度、馬牛襟裾(ばぎゅうきんきょ)じゃない!あ、"牛"も入ってるわね!素敵!!」


メイジー「素敵じゃねーよ!!要はバカってことだろ!?」


かぐや「そんなこと言ってないわよ。脳筋って言ってるの」


メイジー「一緒じゃねーか!!」


マウリー「……かぐや様、マットが敷けましたのでどうぞ中へ」


メイジーとのやり取りをしていると、馬車からマウリーがひょっこりと顔を出す。


かぐや「はーい。ありがとう、今行くわ」


マウリー「おい、話はまだ終わって――」


かぐやは馬車に向かいながら森を指差す。

メイジーが見るとイノシシがこちらを見て警戒していた。


………………………

………………

………


メイジー「あー、一時はまじで私が馬車を引くのかと思ったぜ……」


馬車は快適に進んでいた。

メイジーがイノシシをとっ捕まえ、しばきあげ、馬車を引かせているのだ。


マウリー「……そもそもあなたが撒いた種でしょ」


メイジー「あーあー……悪うござんしたよ」


イノシシの進路調整をしながらメイジーが気だるそうに声を上げる。


かぐら「……そろそろ夜が明けるわね」


メイジー「そうだな」


朝焼けが山の頂上から広がっていく。


マウリー「……今日は六時半ごろに月が沈みます」


かぐら「そう。ありがとう、マウリー」


その話を背中で聞きながらメイジーは小型のバタフライナイフでカチャカチャと手遊びをする。

その動きは手慣れたものだ。

彼女は自分の手の中で優雅に動くナイフを見ながらよく昔のことを思い出す。


………


それは自分がまだ幼く、お母さんのお使いでおばあさんの家にお使いに行っていた頃、私はおばあさんの家で狼に襲われてしまったのだ。

たまたま猟師とかぐやに助けられ、一命をとりとめた私にかぐやはそっと手を差し伸べた。


かぐや「あなたはこれからは普通の生活をしていくことが難しいと思う。だから私にあなたの人生を預けてほしい」


自分の身に起こったことを考えると、たしかにそうだろう。

狼に食われ、一度は失ったはずの人生を救ってくれた。

お母さんのこともあるが、今の私のことを考えるとかぐやについていったほうがいいと直感で感じた。

私はかぐやの腹の中に渦巻くドス黒さに気が付かず、彼女の手を握ってしまったのだ。


………


メイジー「はぁ~~~~……」


後ろで二人がうたた寝を始めた気配を感じつつため息をついた。

ここまで性格が歪んだのも間違いなくあの腹黒姫のせいだ。

手を握ってからすぐに、「ではあなたは私の正式な弟子となりました」と言われ、無理やり無茶なことをさせられ続ければ流石にやさぐれる。

しかしそのお陰で実力はついた。

カチンと懐から取り出した小型のバタフライナイフを固定し、上空に最小限のモーションで投げる。

数秒後、ナイフが刺さった鳥型の化け物が落ちてきた。

ナイフだけ抜き取り、化け物の死体を脇道に投げ捨てる。


メイジー「長い移動になりそうだな」


メイジーの独り言をきいたかぐやは、目を閉じたまま満足そうに頷いていた。


………………………

………………

………


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