ライトノベル編集者って何してるの?

サナギ雄也

第1話  ライトノベル編集者のしごと

先日から、ネット上で『編集さん』というワードがトレンド入りしました。


新人賞を受賞したのに、作家さんが編集者と信頼を築けなくて刊行を中止した騒動です。


まあ、すごく分かるんですよね、編集者への不満。

だってせっかく苦労して原稿を書いたのに、一ヶ月や二ヶ月待たされるのは当たり前。

読んだとしても、「ここはいらないです」「ボツです」「これは今の時代ウケないです」とか言われると、「待たせておいてそりゃないだろ!」と内心で叫ぶことはよくある。

普通の会社ならそんなに絶対に通らないやり方だ、とかそういう主張が出るのも無理はないと思います。


ただ。

そう思う一方で、「編集者ってすごく激務なんだよ、何なら悲壮な状況……」と思ってしまうんですよね。

作家としてデビューして色々見聞きした後なので。


そもそも、編集者は約束とか『守らない』ではなく『守れない』です。

つまりわざと破っているわけではないんですよね(性格悪い人などは除く)。


編集者って、一言で言うと『時間が全然足りていない』。

すごく多忙。

すごく激務。何なら拷問だろこれといいたくなる環境で仕事してます。


でもおそらく大体のアマチュア作家とか読者は、その『仕事の内容』がよく分からないのでイメージとかで判断するしかないと思います。


なので、編集者の仕事を、おおまかですがまとめてみました。


大体以下の通りになると思います。

(長いので適当なところで読み飛ばしを推奨)


--------------------------------------------------------------------------------------

・作品の企画書を作家に送ってもらう。

・送られた企画書を読む。

・内容を煮詰めたプロットを読む。

・必要に応じて作家と打ち合わせする

→改善点があればやり直し。(企画書、あるいはプロットから)

→大丈夫なら『編集会議』。 その作品を書いても良いか、編集長を交えて議論する。

・ボツになった場合。

それを作家に伝え、ゼロから新しい企画書を作ってもらう。

・それを繰り返す。

(通るまで何度でも)

編集者や作家の私見は関係ない。あくまで『商業的に』通じるかどうかが判断される。

・無事に編集会議でOKが出た場合 →担当作家に連絡。原稿を書いてもらう。

・1ヶ月~3ヶ月ほど待つ。

・原稿が出来たら作品を読む。

・改稿した原稿などを読む。

・それらを繰り返す。

(合計で5回とか、多くて10回以上)

・編集が見て大丈夫な原稿と思ったら編集長に見せる。(あるいは編集会議)。

 →そこでOKが出れば、作家に連絡。細かい修正点があれば伝える。

 →駄目なら改稿を頼む。待つ。1ヶ月くらい。

・それの繰り返し。

・編集長がGOと決めた場合。

→作者へ原稿が刊行の作業へ移って良いと通達する。

・作品のイラストレーターの候補を探す。

・イラストレーターに依頼を申し込む。

→全部断られた場合、最初から選定のやり直し。

→承諾を得られた場合、スケジュールを考える。伝える。

・作家との打ち合わせ。

→イラストに関して相談する(希望などはあるか。細かいビジュアルの設定があるか、など)

 →作家に強いこだわりがある場合は揉めることもある。

・表紙、カラー絵、モノクロ絵のおおまかな内容を決める。

・イラストレーターにそれらを伝える。

・イラストレーターが描くイラストを待つ。

・キャラの『ラフイラスト』を受け取る。

・作者にラフイラストを見せる。

 →問題があれば修正をイラストレーターに依頼する。

・『表紙』のラフイラストを受け取る。

・作者に表紙のラフイラストを確認してもらう。

 →問題がれば修正をイラストレーターに依頼する。

 →場合によっては、複数の候補を描いてもらい、その中から検討する。

・『カラー絵』のラフをイラストレーターに描いてもらう。

・作者にカラー絵のラフイラストを見せる。

 →問題があれば、修正をイラストレーターに依頼する。

・モノクロ絵(挿絵)のラフをイラストレーターに依頼する。

・作者に挿絵のラフイラストを見せる。

 →問題があれば修正をイラストレーターに依頼する。

・イラストレーターに表紙、カラー絵、モノクロ絵の完成版を描いてもらう。

・何らかの事情で、イラストレーターが描けない事態になった場合、選定からやり直し。

・作品の『あらすじ』を書く。

・作者にあらすじを確認してもらう。

・タイトルを正式決定する。

 →それまでの仮のままで良ければ、それを採用。

 →改善すべき点があれば、作者と相談。(揉めることもある)

・作品の『帯』のキャッチフレーズを考える。

 →作者と相談する場合もある。

・校正者に原稿のチェックを依頼する。

・作者に出来上がった校正後の原稿を確認してもらう。

 →必要に応じてそれを繰り返す。(作者と揉めることもある)

・無事にイラストレーターからイラストが上がった場合、作者に矛盾点などがないかチェックしてもらう。

 →問題があれば修正をイラストレーターにお願いする。

・デザイナーに依頼をする。

→表紙、タイトルの文体、帯関連、著者名とイラストレーターの名前の表記場所など。

・印刷や装丁関係者に依頼をする。(以降、編集者はそれぞれの中継役となる)

・営業担当者と打ち合わせをする。

(作品の強み・コンセプトなどを説明。書店に多く置いてもらえるよう、アピールの材料となるものを伝える)

・原稿の見本を各書店に送る。

・各店舗から、店舗特典の希望があった場合、担当者と相談する。

・作者に店舗特典のSS(ショートストーリー)を書いてもらう。

(複数の店舗から希望があれば数種類のSSを)

 ・上がってきた特典SSを全て読む。

  →問題点があれば修正をお願いする。

(時期的に修羅場なので急ぎで。以後、全ての作業は急ぎ)

・イラストレーターに店舗特典のイラストを描く必要がれば依頼する。

・表紙やカラー絵の色見(色合いの確認)を作者やイラストレーターに確認してもらう。

 →問題点があれば修正をお願いする。

・カラー絵の中で、キャラ紹介の文章等に問題点がないか、作者に確認してもらう。

  →問題点があれば修正する。

 ・『あとがき』を作者に書いてもらう。

 ・あとがきに問題がないかチェックする。問題点があれば修正してもらう。

 ・イラストレーターにあとがきを書いてもらう。(無い場合も多い)

・表紙、カラー絵、モノクロ絵、あらすじ文章、帯など、全てを合わせた見本を作者に確認してもらう。

・著者校(最終的な文章の校正)を作者に確認してもらう。(特急で)

 →本文に問題があれば直せる最後の機会。

・並行して作品の『宣伝』を行う。

・ツイッターで進捗などをツイートする。(必要におうじてラフイラストの画像なども添付する場合も)

→表紙などが出来たらネット上で紹介もする。

・ウェブでの宣伝担当に依頼をする。専用の『ホームページ』を作ってもらう。

 →そのチャックや中継役を行う。

・『試し読み』に関わる作業を行う。

 →専用ホームページやカクヨムなどに専用の原稿をアップする。

・作者へ出版に関する契約書を送る。確認して承諾してもらう。

・ウェブでの宣伝記事をライターに依頼する。(キミラノ、アキバブログなど。必要に応じて)

・見本誌を作者に送る。

(書店に売られるものと同じ物を10冊送る。郵便で)

・発売日直前、ウェブ上で可能な限り宣伝する。

・発売日。その直後。作品の売れ行きをチェックする。ネットで感想などを見る場合もある。

・一定期間の後、続刊が可能か不可能かを会議で決める。

→売れ行きが良ければ、二巻以降に関する作業を作家と続けていく。

 →上記の刊行に関わる作業を繰り返していく。

・もし作品が『打ち切り』であれば、それを作者に連絡する。

 →次の作品をどうするか、作者と打ち合わせする。

・作家へのファンレターが届いた場合、検閲する。

 →問題なければ作者に送る。

・以上、担当作が月に2つ刊行される場合は、上記の2倍の仕事量になる。

・作品がコミカライズされる場合

 →漫画家の中から候補を探す。

・受諾してくれた漫画家と相談する。

・漫画を出版してくれる出版社と交渉する。

・漫画版で作者の確認が必要な項目があればチェックしてもらう。

・漫画版の巻末で原作者による小説がつく場合は、その依頼を作者にする。

・漫画版のウェブ上での『宣伝』。ラフイラスト、完成版の表紙、発売後の宣伝など。

・作品がアニメ化される場合

 →アニメ会社との交渉や連絡係を担う。

・声優のオーディションに作者と共に参加(無い場合もある)

・アニメ制作の現場に向かう。

 作者と共に細かな確認などを行う。(必要に応じて)

・アニメが完成した場合、パーティなどに出席。

・アニメのDVD、ブルーレイのパッケージで、必要があればイラストレーターに依頼する。確認なども。

・DVD、ブルーレイ購入特典として、描き下ろし小説が必要な場合は、作者に依頼する。

・コラボ企画。

・各施策に関すること。

 →サイン色紙や、サイン本キャンペーン、グッズの確認、色校のプレゼントキャンペーン、発売日付近に書店回りなど、提案や実行。

・取引先への挨拶回り。

・著者やイラストレーターへの言葉かけ。

 →刊行や重版のお祝い、アニメ化の祝い、コミックスの発売祝い、個展開催祝い、ランキング上位祝い、誕生日祝いなど。(どこまでかは編集者の裁量による)

・社内の配置換えで『担当を外れる』場合。

 →後任の編集者に作家の情報などを託す。引き継ぎ業務。必要に応じて作家との打ち合わせを行う。

・部署に新人の編集者が配属されたとき。

 →新人教育を行う。

 業務内容、様々なノウハウの伝授、マニュアルなどの徹底。おおよそ半年くらい。(出版社によって違う)

・作家を戦力外通告するかどうか決める。

 そして連絡する。

・出版社のホームページでブログがある場合、記事を書く。定期的に。

・『新人賞』で新人作家を選出する

 →最終選考まで残った作品を読む。(4~8くらい。レーベルによる)

 (1次選考から読む場合もある)

・最終選考に残ったことを応募作家に伝える。

・新人賞で受賞したことを連絡する。

・改稿のための打ち合わせをする。

・『ウェブ上で』書籍化の候補となる作品を探す。

 小説家になろう、カクヨムなど。ひたすら読む。(数千~1万作品など)

・候補となる作家に書籍化を打診する。

 →承諾された場合は担当編集として出版作業に入る。

・『流行』である作品を読む。あるいは『ヒット』した作品を読む。

 →分析する。流行に送れないよう、知識を増やし続ける。



おおよそはこんな感じかと。


続きます。

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