第37話

「歌手の木屋正孝が警部にお会いしたいと」

流行歌手、木屋が十文字のもとを

訪れたのは、その年も押し詰まった

十二月の暮れのことだった。

「どうされたんですか」

「歌が歌えなくなったんです」

「ホ~ッ」

「どうしましょう、生活がかかっているんです」

「どういう症状ですか」

「体からすべての言葉が

抜け落ちてしまったような、そんな感覚です」

「なるほど、なるほど」

十文字は適当に相槌を打ったが

事は相当に深刻らしかった。

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