第1話 魔王の器

 魔王が死亡し500年

魔王の支配から解き放たれた魔物たちが蔓延る世界。

人類は魔法の技術を発展させ、終わることのない魔物の脅威に対抗している。


 しかし、魔物も時を重ねるごとに力を増している。

いつか人間の技術を超越した魔物が現れ、人類は滅亡すると言われている。


 私は人間が滅亡することなど望んでない。

でも、魔物たちを支配していた魔王はもう存在しない。

そして私も魔王の器じゃない。

だからやるしかない。








 「私が新たな魔王を作るんだ」




 とはいえ、そう意気込んですでに300年経過してしまった。


 未だに魔王になれる可能性のある魔族を私は1度しか見たことがない。

その子も対立する人間に殺されてしまったわけだけど。


 私は人間を魔族に作り替える魔法が使える。元々魔族は個体数が少なく、人間から魔族を生み出さなければ魔王になれる魔族を見つけるのは不可能だろう。


 なんて考えていると近くで魔物の気配を感じた。

私が今いるバルバニアではほとんど魔物は観測されていないはずだったんだけど、魔物はこの国にまで侵略してきているみたいだね。


 気配を感じた場所に行ってみると人間の腕のようなものが無数に生えたムカデのような魔物がいた。

こちらに気づくと即座に飛びかかってきた。


 「あなたには消えてもらうよ」

『発動:闇属性魔法 シャドウブラスト』

かざした手から放たれた漆黒の光線がムカデのような魔物の体を頭から貫いた。

絶命したムカデのような魔物は体が塵と化し消滅した。


 先ほどまで魔物がいた場所に3人の人間が倒れていた。

「家族かな? 両親は死んでるけど女の子はまだ生きてるね」


 魔法の準備をする。

「私は回復魔法が使えないからあなたの傷は治してあげられない。でも魔族になれば生きられるかも」

『発動:闇属性魔法 魔の祝福』


 倒れている少女の元に魔方陣が展開される。

少女の体が作り替えられていく。

可愛らしい小さな角が生える。


 闇属性魔法 魔の祝福 生物としての性質そのものを上書きする魔法のためかなり魔力を消費する。

「魔力、7割くらい持っていかれちゃったなー」


 魔法をかけられた少女が目を覚ます。

「私……生きてる?」

「おっ、おはよう。早速だけど君の両親? は死んじゃったよ」

「そんな……どうして私だけが助かったんですか?」

「私があなたを魔族にして助けた。その2人はもう手遅れで救えなかった。ごめんね」

「魔族? 私が?」

「頭さわってみて」


 そういうと少女は自分の頭を探る。

2つの小さな突起に指が触れる。

「角!?」

「魔族になった証だよ。それとあなた名前は?」

「……ノエル……16歳です」

「ノエルちゃんね。16歳なんだ、若くて良いね」

「あなたの名前も教えてもらえませんか?」

「私の名前はオリビア。1322歳だよ」

「1322!?」

「魔族は長生きだからね。人間で言うと40歳くらいか……?」


 会話に夢中で気づくのが遅れた。ノエルの魔力が異常に膨れ上がっていることに。

「あなた、とんでもない魔力量...もしかしたら次の魔王に……」

この魔力量なら魔法を覚えさえすればとてつもない強さになる。

全ての魔物を支配することだって可能かもしれない。


 「私の魔力量がとんでもない?」

「ねえ、あなた」











「新しい魔王になってみない?」




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