第31話 忙しい一日
一紗とグッズ相談をした次の日、
「おはよう駿作くん。さあさあ楽しいお仕事の時間が始まったよ。」
天摩がいつもと違うテンションで話しかけてくる。
「…なんだ、何か企んでるだろ。」
こういう時の天摩はろくなこと考えてない気がする。
「いや?今日はとにかく仕事が忙しくなるから、頑張ってくれって言おうと思っただけだぜ。」
「うそだぁ、どうせ俺の苦手な営業行って来いって言うんだろ?」
俺はあんまり営業に向いてないと思う。決められたことしか喋れないからなぁ…。
「正解、よくわかったな。じゃあ頼んだぞ。」
…ん?!
「は、え、本当に言ってる?!」
「うん、俺会社から動きたくないし、もうお前が行くって言っちゃったからよろ。」
こいつ…。
「え、本当に行くの…?」
「頑張れよ~」
朝から
「うう、気が重い。」
時刻は朝十時。
俺は、昨日広告を請け負った『株式会社コーデン』の前に来ている。
この会社は、家電や家具を専門に通販のみで販売している、今の時代を行くデジタルな会社だ。
天摩に半ば強引に「昨日できた広告をさっそく渡しに行ってくれ」と言われてここにきたのだが…。
「メールじゃダメなのか?」
「おいおい、それじゃあ失礼になっちゃうぞ。」
最初はメールでいいのではなんて思ってたけど、こういうのは形が大事だとか。
それに、仕事を請け負わせてもらっている身の上、よくしてもらっているから、手渡しの方がなおさらいいらしい。
その理論はわかる。人付き合いっていうのはすごく大事になってくるから、俺もなんだかんだ言いつつも来たんだ。
でも俺は人多いのが苦手なんだよなぁ…。
「…でかいなぁ…。」
俺の目の前にあるのは12階建てビル。このすべてが『株式会社コーデン』のものらしい。
おまけに地下駐車場とカフェもある。正直羨ましい。
「よし、行くかぁ…。」
俺は会社に入る。
受付で事前にアポを取ってあることを伝えて、4階にある宣伝課に向かう。
エレベーターのドアが開いて、そのまま壁の案内に従って宣伝課の前に立つ。
「…ふぅ。」
一息ついて、ノックをしてドアを開ける。
「こんにちは、『オームロ工房』のものなんですが。」
俺は大きめの声でオフィスに呼びかける。
宣伝課の人たちが一斉にこっちを向く。うわぁ、これが本当に慣れない…。
思わず目を瞑りそうになるのを我慢していると。
「すみません『オームロ工房』さんですね。」
「あ、はい。そうです。」
中年の男性が話しかけてきた。
「私、宣伝課の鳥田といいます。」
そう言って「宣伝課部長
あ、こういうのって俺が先に出すべきだったな、しまった…。
というか鳥田か、今まで生きてきてあの鳥田以外の鳥田さんを見るのは初めてだな。
まあ、今はどうも思わないけど。
ああ、いけない名刺出さなきゃ…。
俺は慌てて、天摩からもらった名刺を取り出す。
「なっ…。」
そこに入っていたのは、俺の名前より大きく「ライバー課」と書かれた俺の名刺だった。
…あいつ…やりやがったなぁ…。
またまた嵌められた。いや、ライバー課であることが恥ずかしいんじゃなくて、こういうのって普通自分で作るから、こんなのじゃ自己主張激しいやつだと思われちゃうって。
あいつに作るの任せなければよかったぁ…
でも後悔しても遅い。ここは潔く出しておこう。
「…ありがとうございます。私は…ら、ライバー課の黒井です。」
「はい、ありがと…うございます。」
一瞬鳥田さんの動きが止まる。絶対変に思われたって…。
んもぅ~~…。
俺は膝から崩れそうになるのを我慢する。
「…では、どうぞこちらへ。」
「…はい。」
俺はそのまま、鳥田さんに案内されて、会議室に向かう。
「どうぞ、お座りください。」
大きめの窓がある明るい会議室に案内され、俺はそのまま進められた席に座る。
「ええ、早速ですが、『オームロ工房』さんで任せた。『コーデン』の広告ということでしたが、拝見してもよろしいですか?」
鳥田さんが聞いてくる。
「あ、はい。こちらになります。」
俺は持ってきたA4サイズの紙が入る茶封筒を渡す。
鳥田さんはそれを開いて、広告を見る。
「おお、素晴らしい出来ですね。流石『オームロ工房』さんです。」
どうやらお気に召していただけたみたいだ。作ったのは俺じゃなくて美里だけどね。
「ありがとうございます。」
俺は軽く頭を下げる。
自分の会社の技術が褒められるのはやっぱうれしいな…。
その後簡単に話を終えて、30分程度で会社を後にする。
「引き続きよろしくお願いします。」という言葉を聞けただけで、上々だったんじゃないか?
個々の会社の人たち楽しそうに仕事してたし、この関係を大事にしよう。
♪~~
スマホから電話の通知が鳴った。画面には大室天摩の文字。
「もしもし?どうした天摩。」
「ああ、駿作実はさ、」
「ん、なんだ?」
…。
「・・午後も2社に駿作が行きますって言ってあるから、頼んだ。」
「…はぁ?!ちょ、おい、天摩?!」
こいつ、自分が会社から出たくないからって…。
電話がぶつ切りで終わる。
…。
……。
「…天摩ぁあああああ!!」
俺はそのまま『オームロ工房』に向かって走った。
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