その声は響かず、届かなかった。
影神
孤独
僕は引っ越しをする。
新しく家が建つ予定だが。
まだ建っては、いない。
けれども僕は胸の高まりを抑えきれず、
早帰りだったその日に自転車に乗って。
新しい家の建設予定地へと向かった。
「どこ行くんだよ?」
そこには知った顔があった。
僕はその子が好きでは無かった。
だが不意の質問に、普通に答えてしまった。
「新しく建てる引っ越す家の所」
嫌いな子「えっ、引っ越すの!??」
しまった。
そう思った時には、もう遅い。
「じゃあ、こっちだから、」
僕がそう言うと。
嫌いな子「新しい家。見てみたい!」
と、言い付いてくる。
僕は嫌だった。
「大丈夫だよ。遠いし。」
嫌いな子「暇だから良いよ。」
やんわり断っているのが、分からないみたいだ。
僕はわざとスピードを出し。
目的地の方ではない道も、余計に通った。
すると、目の前はいきなり高い段差になり。
勢い良くブレーキを踏んだ。
キィイイ、、
その音が2つ響いた。
目の前には、真っ赤な橋があった。
嫌いな子「すげー。」
こればかりは僕もその子に共感した。
それは、人が通るだけの狭い橋だった。
今日は諦めて帰ろうとした。
「迷ったみたいで、
分からなくなっちゃった。」
嫌いな子「えー!。覚えて無いの!?」
「うん。」
嫌いな子「残念。」
もう少し知らない場所を見たかった僕は、
そのまま来た道とは逆に進んだ。
勿論。その子も付いて来た。
嫌いな子「ここら辺に住んでる子なの?」
不意にその子が話し掛ける。
ん?
そこには女の子が居た。
「そうだよ。ここがお家。」
見ると立派なデカイ家だった。
嫌いな子「こいつ。新しく建てた家のさ、
引っ越す場所忘れちゃってさぁ?」
女の子「そうなんだね。」
「ぅ、うん。」
別にお前に見せたくて来た訳じゃねえだろうが。
しかも、知らない人にそういう事言うなよ。
僕の中で少しずつ怒りが沸く。
女の子「この辺なの?」
「多分、」
本当は分かってる。
嫌いな子「知ってる??」
「悪いから良いよ、」
構わないでくれ。
女の子「お母さんに聞いてくるよ。」
女の子は家に入ろうとした。
「いいよ!!
それよりさ、一緒に遊ぼう?」
女の子「、、良いの?」
少し違和感のある反応をした。
「いいよ。
家見るより遊んだ方が楽しいし。
それと、あの赤い橋の先には何があるの?」
僕は一生懸命話を逸らした。
女の子「分かった。
良いよ。」
成功した。
嫌いな子「近くに遊ぶ所あるの?」
女の子「ちょっと先に行った所に、
大きな公園があるよ。」
「いつも何して遊んでるの?」
女の子「鬼ごっことか、かくれんぼとか、、」
やっぱり、何か変だった。
嫌いな子「早く行こう?」
女の子「ちょっと待って?
お母さんに、言って来る。」
嫌いな子「分かった。」
僕の嫌いなその子は、
こうやって知らない子と関わる事が出来る。
そういう所は、正直すごいと思った。
「あら。こんにちは、」
玄関からお母さんらしき人が出てか来た。
『こんにちは』
お母さん?「引っ越して来るんだって?」
「はい。」
お母さん?「どの辺?」
僕は口を閉ざした。
嫌いな子「忘れちゃったみたいで。」
お母さん?「そうなのね。
お家に帰るまでの時間もあるだろうから。
暗くなる少し前には、帰っておいで?」
嫌いな子「はーい。」
「分かりました。」
女の子「行こう!?」
少し嬉しそうな女の子は、
僕達の前を走って案内をしてくれた。
「あっ!
あの橋はね、凄い揺れるんだよ??」
嫌いな子「行ってみたいな?」
「うん。」
公園では、鬼ごっこ。かくれんぼ。
色おにや、遊具で沢山遊んだ。
とても楽しかった。
嫌いな子「バイバイ!」
女の子「またねっ、」
最初は嫌だったけど。
付いて来てくれて、女の子と3人で遊べて。
とても良い1日だった。
嫌いな子「じゃあね。」
「うん!。
ありがとう。」
しかし僕が次の日に学校へ行くと。
同級生の女の子A「引っ越しちゃうの!??」
同級生の女の子B「新しいお家良いなあ」
同級生の男の子A「今度遊びに行って良い?」
この有り様だ。
犯人は一人しか居なかった。
だから嫌いなんだ。
そう、僕は再認識した。
ほんの少しの寂しさを感じながらも。
新しい環境に胸を踊らせ。
僕は新しい学校に行った。
「初めまして。」
自己紹介は無事済んだが。
教室には、空いた席がひとつあった。
放課後に担任の先生と話す時間があったから、
その事を聞いてみた。
「あの空いた席はお休みですか??」
担任の先生「あ。いや、学校、来て無いんだよ。」
何だか端切れの悪い反応だった。
「じゃあ、せっかくなんで。
プリントとか持って行きますよ?」
ちょうど挨拶したかったからだ。
担任の先生「そうか!そりゃ助かるよ。
確か、家が近かった気がするし。」
ファイルを見て何かを確認する。
担任の先生「うんうん!
ついでに机の中の物とか。
宿題とかで必要になるかもだから。
一緒に持って行ってくれるか?」
渡されたファイルには、
沢山のプリントが挟まっていた。
「分かりました。」
誰も居ない教室に戻ると、
空いていた席の机の中に手を入れた。
「痛っ、。」
手を見ると指先からは血が出ていた。
指を強く抑え、保健室に急いだ。
「すいません、切っちゃって、」
「あらあら、。
あれっ。転校生?」
そこには綺麗な女の先生が居た。
「はい。」
綺麗な先生「先ずは処置しないとねっ。」
「お願いします、」
綺麗な先生「何で、こうなっちゃったのかな?」
「お休みの子の机の中に手を入れたら、
痛くなって、見たら血が出てました。」
綺麗な先生「そう、なのね。」
何故かその子の話しをすると、
ここの先生は気まずそうにした。
綺麗な先生「はい。どうぞ、」
「ありがとうございます。」
教室へ戻ると、僕は机をひっくり返した。
床に散らばったのは、明らかに変な物ばかりだった。
僕が怪我したであろうカッターの刃。
何か分からないゴミの様な物。
虫や虫の死骸。
破られた教科書やノート。
千切られた消しゴムに、折れた鉛筆。
腹が立った。
僕はそれらを袋に入れて、一度。
家に持ち帰った。
「これ。先生からです。」
「ありがとうね。」
そこにはあのお母さんが居た。
学校に来て無かったのは、
あの日遊んだ女の子だった。
破れた教科書とノートは。
お母さんには見せられなかった。
きっと、悲しむのが分かってたから。
「ただいま。」
お父さんが帰って来て直ぐに。
僕は持って帰って来た物を見せた。
「、、こりゃ、酷いな。
けど、教科書とノートは。
持って帰って来ちゃまずいぞ?」
僕はお父さんと一緒に、また女の子の家に行った。
お父さん「すいませんでした。」
「、、ごめんなさぃ。」
女の子のお母さん「ぃぇぃぇ。
いーのよ、?
ありがとうねっ、」
女の子のお母さんは優しく頬に触れてくれた。
女の子のお母さんは今にも泣きそうだった。
「私。こうなってる事、
薄々気付いてはいたんですが。
あの子が何も言わないから、、
私も、どうしたら良いか分からなくて。」
お父さん「難しいですよね。
先。車に戻ってなさい。」
「ぅん。」
女の子のお母さんと僕のお父さんは2人で話して居た。
ふと、上の明かりを見ると、女の子が見ていた。
僕は複雑な思いを抱えながら。
ただ、手を振った。
女の子は、返してくれた。
その瞬間。
少し心が落ち着いた。
一人じゃきっと何も出来なかった。
僕がした事が良かったのかは、
正直。分からなかった。
でも起きてた事は、良い事では、無かった。
そして、僕がそう行動出来たのは。
心強いお父さんが居てくれたからだ。
「あはははは」
彼女の楽しそうな声が。
学校の校庭で響いた。
そこには楽しそうに同級生と遊ぶ。
女の子の笑顔があった。
女の子は毎日学校に来て。
学校では楽しそうに過ごして居た。
虐めは空の雲の様に。
晴れた青空から、
何処かへと消えて行った。
現実には、女の子は本当は死んでしまった。
僕が転校して来て暫くして。
家の近くのあの赤い橋から飛び降りて亡くなった。
空いた空席があの日一緒に遊んだ女の子だとは、
女の子が亡くなるまで、知らなかった。
仮に知って居ても。
"僕は何もしなかっただろう"
次のターゲットになるのは目に見えていた。
子供なら、誰でも分かる。
それが怖いから。見てみぬフリをするんだ。
これは大人になっても変わらない事だ。
それに、あの頃に。
僕に頼れる様なお父さんは居なかった。
しっかりした大人達が居れば。
理解のある大人達が居れば。
変わったハズの未来。
それか僕達にほんの少しの勇気もあれば、、
『女の子は死なずに済んだのかも知れない』
物語の中くらいは。
幸せな彼女で居て欲しかった。
それは、私の勝手な【エゴ】である。
子供の問題。
子供の人間関係。
子供の社会。だが。
子供達だけでは解決出来ないのだ。
行きすぎた虐めは。
犯罪となる場合もある。
否。『虐めは犯罪だ』
人を容易に殺し。
人生を奪うモノだ。
彼女の死を通して。
私の物語を通して。
何か大切なものを少しでも感じとって貰えたならば。
きっと、、
彼女が報われると、思いたい。
"救えるのは、それを知っているあなただけ。
少しの勇気で、救える命がある事を。
あなた達にも、分かって欲しい"
子は、落ちた井戸から助けを求めた。
たまたま誰かに助けを求めに行ける、
その子の友が側に居ても。
そこから引き上げられる力のある親が居なければ。
井戸に落ちてしまった子は助からず。
助けを求めたハズの子の友は諦め、
友のまだ居る井戸に、蓋をするのだろう。
そうして、心は歪んでしまい。
それで良いのだと、学ぶのだろう。
こうやって子は育つ。
子は皆の子であり。
親は皆の子の親である。
お節介を焼け、という話ではない。
本当の助けをこう者が居れば。
血の繋がり等は関係無く。
当たり前の様に、平然と。
躊躇無く、その手が差し伸べられる様に。
和を持つ、日本人で居なさい。
その声は響かず、届かなかった。 影神 @kagegami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます