異世界転移したら無能扱い?そんなん知ったこっちゃねえ!〜転生勇者の無双譚〜
島
第1話 転移、別れ
俺―――
同じバスの中には、クラスメイト30人と担任と副担任の教師2人の32人が楽しく雑談に花を咲かせている。
俺はというと、特に仲のいい友達もいないので、ただ窓の外の流れる景色を眺めていた。
ちなみに、俺はクラスカースト最底辺の人間で、クラスメイトから名前を覚えていてもらえているかすら怪しい。
まぁ、目立つことがあまり好きではない俺からすればどうでもいい事だ。
俺がボーッとしながらバスに揺られていると、バスが目的地に着いた。
「おーし、それじゃあ着いたから、荷物持って降りろー忘れ物するんじゃないぞー」
担任がこちらに指示を出して、生徒を外に誘導する。
今回の目的地は、とある山だ。
なぜここに決まったのかは分からないが、気乗りしないことは確かだ。
山の中にある駐車場から登山道へと向かう。
しばらく険しい登山道を進むと、そこで異変が起こる。
「ん?あれ?先生は?」
異変に気づいた生徒が声を上げる。
その声に周囲の生徒も気づき始める。
「いないじゃん」
「せーんせー」
「これは……はぐれたか」
「まさか、遭難!?」
「マジ!?」
「嘘でしょ!?」
突然の遭難に動揺する生徒たち。
俺はもっと前の段階で先生がいない事には気づいていたが、それはほぼ確定していた運命なので、特に気にしていなかった。
「みんな落ち着け!!」
動揺するクラスメイトたちを落ち着けさせたのは、クラスカースト最上位の男、
髪を金髪に染め、ピアスを付け、制服を着崩したその姿は、まさにチャラ男だ。
スポーツ万能で、クラスのリーダー的ポジションに位置する彼は、落ち着いた様子で全員に号令をかける。
「ここで騒いでも、何も生まねえだろ?だから、ここはみんなで協力して山から下りようじゃんか」
悪手だ。
こういった山岳遭難では、というか、遭難の全ての状況にも言える事だが、むやみに動くことは、ただ体力を減らすだけで、生存の確率を下げかねない。
だが、さっきも言った通り、これは運命なので、特に止める事はしない。
中村の指示を受けた生徒たちは、中村を先頭にして下山し始める。
歩き始めてどれ程経っただろうか。
日が傾き始め、生徒全員の疲労が限界に達そうとした時、1人の生徒が何かを見つける。
「おい、あれ、なんだ?」
「ん?」
よく見ると、木々の隙間から石の柱のようなものが見えた。
「おいみんな!あれに向かうぞ!」
そう言って我先にと走り出す中村。
それにクラスのみんなが続き、それに俺も着いていく。
「な、なんだ、ここ」
視界が開けると、そこにあったのは円状に配置された八本の石柱と、その中にある魔法陣だった。
不思議な事に、魔法陣の中には蔦などの植物が侵食しておらず、風化もしていないのか、綺麗な状態だった。
クラスメイトの全員が魔法陣の中に入りきるのを確認した俺は、最後に魔法陣の中に入る。
瞬間、魔法陣から光が放たれる。
「なっ、なんだ!?う、うわぁぁぁ!!」
中村の悲鳴が聞こえた後、視界が光で埋め尽くされ、一瞬の浮遊感に襲われる。
そして、目を開くと、そこは地下室のような暗い石レンガ作りの部屋だった。
◇
目の前には貴族のような服に身を包んだ1人の男性が立っており、こちらが彼の存在に気づいたことを確認すると、俺たちに向かって話し始める。
「突然で申し訳ないが、これからお前たちは我々に従ってもらう。着いてこい」
そうして連れて行かれたのは、玉座の間のような部屋だった。
そこには玉座に腰掛ける男性とその隣で立っている女性、そして周囲の騎士らしき人6人がいた。
「皆様、突然のことで混乱しているかもしれませんが、今は私の話を聞いてください」
前に出てきたドレスを見に纏った美しい女性が前へ出て話し始める。
「初めまして。私はこの国、ハーレスト王国の第一王女、リーナ=ガイスト=ハーレストと申します。以後お見知り置きを。まずは、今の状況を説明するために、この国の状況を説明致しましょう。騎士団長」
「はっ!」
そう言って俺たちの前に出てきたのは、他の騎士よりも豪華な鎧を纏い、顔に走った大きな傷が特徴の男性だ。
「私は、ハーレスト王国王家直属近衛騎士団の騎士団長を務めるデラスト=ガングートだ。これからこの国状況を説明していく」
そうして周囲の騎士たちに持って来させたのは大きな大陸一つと小さな島4つが描かれた世界地図だ。
「我々の国はここに位置する」
そうして指差すのは東の海に接する一部分。
一方を海、一方を山、一方を砂漠で囲まれた一角だ。
「今現在、我々は隣国のディラスト帝国と戦争状態にある」
そして次に指すのは王国の北側にある大国。
大陸北部のほぼ全てを占め、南部に位置する全ての国と国境を接している。
「現在は、北部に位置する山岳地帯とゲリラ戦法により、なんとか国境付近での防衛には成功している。が、内通者や偵察部隊の情報によると、帝国は密かに魔族と契約し、戦力としての運用を検討しているらしい」
そこまで話したデラストさんは他の騎士を下がらせ、単独で説明し始める。
「魔族というのは、魔物の中でも絶大な力を持った魔物を言う。およそ3000年前に勇者に滅ぼされたはずなのだが、どうやら生き残りがいたようで………現状、世界中に展開する冒険者ギルドや各国の軍隊の全ての戦力である約45個師団を併せてしても、魔族20体倒せるかどうかといった戦力だ。もし、この魔族を戦争に投入されれば、確実に戦争に敗北するだろう」
「デラスト、ありがとう」
「はっ」
最後まで説明し終えたデラストさんを下がらせ、再び話し始めるリーナさん。
「通常、あちらの世界からこちらの世界へとやってきた“異世界転移者”と呼ばれる人間は、こちらの世界の人間とは比べ物にならないほどの強さを持っています。つまり、何が言いたいのかというと、皆様には、我々と共に戦い、世界を破滅から救って欲しいのです」
そこまでの話を聞いていたクラスメイトたちは、突然の要請に困っている様子だった。
しかし、その中でも迷わずに手を差し伸べる奴がいた。中村だ。
「何を言ってるか分からんが、いいぜ。俺様が助けてやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ、困ってるんだろ?そういう時はお互い様ってやつだ」
「ああ、ありがとうございます」
そう言って頭を下げるリーナさん。
王女である以上、そう簡単に頭を下げてはいけないはずなのだが………
そんなこんなで、戦争に巻き込まれる事になった俺たちは、しばらくの間、王城での戦闘訓練をする事になった。
その間に俺たちは簡単な魔法や魔道具の使い方なども教わった。
教わったものの一つに、“ギフト”というものがあった。
これは、こちらの世界に適応できるように、神から与えられる特殊能力で、クラスメイトそれぞれに違うものが与えられていた。
クラスで一番のギフトを与えられていたのが中村で、彼は戦闘系ギフト最強格であるギフト『勇者』を与えられていた。
対する俺のギフトは『探索者』で、戦闘には向かない、クラスの中では最弱のギフトだと言われた。
そうこうしているうちにおよそ2ヶ月が経った。
みんなの剣や魔法の腕は上達し、今や王家直属近衛騎士団の団員と比べても遜色ないレベルまで達していた。
俺の方はというと、ギフトが戦闘向きでは無いこともあり、未だ最底辺の実力しかない。
そうして独り立ちをする時がやってきた。
王女からは、「招集をかけた際に集まっていただけるのであれば、本格的な戦争が始まるまで自由にしていただいて構いません」と言われているので、クラスの方針としては、冒険者ギルドに加入し、さらに実力をつけるそうだ。
そういうわけで、クラス全員で冒険者登録をしにギルドへと向かおうとした時、中村から呼ばれた。
「おい高畑」
「………なんだよ」
「お前はついてくるな」
「………は?」
「お前みたいな役立たずは、このパーティーには要らないんだよ」
「そーそー。前の実戦の時だって、アンタを守ってばっかで、結局負けちゃったしー」
まぁ、いいだろう。
その方が俺としても動きやすい。
そう思った俺は、その言葉に頷こうとした時、横から怒りに満ちた声が飛んでくる。
「ちょっと!どうして碧だけそんな扱いなのよ!」
そう中村に怒るのはこのクラスのマドンナであり、俺の幼馴染の
「役立たずだからに決まってんだろ」
「みんなで一緒に生きるんじゃないの!?誰1人見捨てないんじゃないの!?」
「そもそも、足手纏いになるような奴は、いつか必ず足を引っ張るんだよ。だから、高畑はここで置いていく」
「そんな、話が違うわよ!!」
「優香、やめろ」
「碧!!」
中村に対して激昂する優香を宥め、俺は中村に向き直る。
「その選択は、変えられないんだな?」
「ああそうだ」
「たとえ、俺が敵になるとしても?」
「はっ、テメェ如き俺様の敵じゃねぇよ」
「そうか。なら俺は自由にやらせてもらうぞ」
「ああ、勝手にしろ。みんな、行くぞ」
そうして俺に背中を向け、去っていく中村。
「碧!今からでも遅くない!みんなで一緒に行こうよ!!」
この状況になっても、まだ俺を着いて来させようとする優香に、俺は言う。
「優香、アイツらが言ってた事は、事実だ。あの中に俺がいれば、確実に足を引っ張る」
「でも!」
「ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも、俺のせいでみんなが死んでは、元も子もない。ここで俺が置いてかれるのは、必然なんだよ」
「そんな………」
悲しそうな顔をする優香。
正直、幼馴染のこのような顔を見るのは辛い。
だが、これは必要な事なのだ。無駄な犠牲を増やさないための。
「だったら、私も碧と!」
「それもダメだ。俺のせいで優香が死んだら、申し訳が立たない。それに、優香のギフトは『大賢者』だったか?それなら、アイツらと一緒にいた方が、安全だし、活躍もできる。俺と居るよりはマシだ」
「………絶対に、一緒には、居られないの?」
「………ああ、悪いな」
俺が優香を説得し切れたところで、中村の声が聞こえた。
「おい君嶋ァ!!!」
「ほら、呼ばれてるぞ。行ってこい」
俺は笑顔で優香を送り出す。
「………うん………それじゃあね」
「あぁ………また会ったら、その時はその時で」
「………うん」
優香が集団に戻り、進み始めたのを確認した俺は、彼らとは反対の方向に歩き始める。
「………視界が悪いな」
俺はぼやける視界の中、次の目的地へと向かった。
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