祖母の怖い話

不労つぴ

祖母の怖い話

 僕の祖母は厳格な人だ。

 祖母はゲームで遊ぶなんて以ての外というような人で、コーラは脳が溶ける、うま味調味料は体に悪いなどということを言うような人だった。


 特に食事のマナーや作法にも厳しく、幼い頃は怒られるのが怖くて僕や従兄弟達は必死で覚えた。

 僕達孫世代が高校を卒業したあたりから丸くなったが、今でも食事のマナーや作法にはめっぽう厳しい。


 これは僕がまだ小学校低学年くらいのときだったと思う。

 当時僕は、オカルトや怪談話などのいわゆる怖い話が大好きで、友人や家族に聞いて回り、それをあたかも自分のことのように学校で話していた。


 当然祖母にも聞いたのだが、祖母はあまりそういう話が好きではなかったようで、そんなことを聞くのなら外で遊ぶか勉強でもしなさいなんて言われてしまった。



 しかし、一度だけ祖母が何かの機会に僕へ怖い話をしてくれたことがある。

 







 あるところにとても仲の良い母娘おやこがいた。

 母娘が手を繋いで海辺を歩いていると、突然の津波により2人は攫われた。

 母はその海辺で見つかったが、娘は波にさらわれてしまったのか見つからなかった。

 見つかった母の手首には強く握りしめたような跡があった。






 僕がそのとき、その話を聞いたときの素直な感想が「なにこれ?」だった。

 あまりそういう話をしたがらない祖母が珍しく口を開いたので、きっととんでもない幽霊や妖怪が出てくる話なのだろうと大層期待を寄せていた。


 しかし、祖母の口から語られた話は、何というか子供の僕にはあまり面白くなかったので拍子抜けしてしまった。


 僕は祖母に、

「その話全然怖くないよ……もっと幽霊とかそういうのが出てくる話はないの?」

 と文句を言った。


 いつもならここで怒られるのだが、その時は何故か怒られなかった。


 祖母は「まぁ、確かにお前にとっては面白くないかもねぇ」と優しく言った後、


「確かに、お化けや妖怪みたいな人じゃ理解できないものも怖いよ。でも、これだけは覚えておいて……一番怖いのは自然なの。人間しゃ自然には太刀打ちできないのよ」


 と言った。


 その時、祖母がどのような表情をしていたかは思い出せない。


 しかし、記憶を掘り返すと、その時祖母は悲しそうな顔をしていたような気がする。


 その時の僕は、祖母の言っていることの意味がよく分からなかった。


 僕は「ふーん、そうなんだ」とつまらそうに返した後、夕焼けが照らす道路を祖母と手を繋いで歩いた。

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祖母の怖い話 不労つぴ @huroutsupi666

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