第12話 トルド来訪

 こうして私は本を読みながら、つつましく洋館で暮らす日々が続いていた。勿論学園には行かず、目立たないように生活してきたつもりだ。

 こう見えて前世ではキャバ嬢だった私でも、ここまで家族含めて洋館の関係者以外には存在感を消して生活する事は可能らしい。少し自信がついた。


「おはようございます。リリア様」


 朝食後、いつものようにナホドから挨拶を受けた。彼の顔つきはやっぱり伊吹にそっくりだ。髪型もどこか似ている。

 そんな彼を見ているだけで、私は癒される。


「リリア様、大変です!」


 自室にメイドが慌てて入ってきた。ただならぬ様子に私はいやな予感を感じる。ナホドも目を丸くさせ、驚いた表情を見せている。


「何かありました?」

「と、トルド様が……! 洋館に!」

「え?!」


 なぜだ。なぜこのタイミングでトルドが……


(学園に戻るように言われてたのを、蹴ったから?)


 思いつくのはそれしかない。でもってこの洋館に来た事は回避も出来ない。


(ど、どうしよう……!)

「リリア! どこにいるんだ!」

(うわっ来た来た!)

 

 トルドがどすどすと音を鳴らしながらこちらへと歩いてくる。そして私の左腕をぐっと掴んだ。


「リリア! さあ、戻るんだ! 君を許そう!」


 トルドに掴まれた箇所には痛みが走る。そこへナホドがお待ちください。と驚きを隠せないままトルドに声をかける。


「お、お待ちくださいトルド王子。リリア様が痛がっておられます」

「ああ、そうだな。失礼した」

(あっさりと外した……!)


 トルドは私の腕から手を離す。そして眉を八の字にして申し訳なさそうな表情を浮かべた。その申し訳なさそうな表情はどこか嘘くさく感じるのだが。


「で、どうしてこちらへ? 私が学園には行かなかったからですか?」

「ああ。あれから考え直したんだ。リリア達の流刑は間違っているとな」

「は、はあ? それはあなたがたがお決めになった事でしょう? 今更間違っていると言われましても……」

(戻るんだってさっき言ってたよな、私はナホドくんが好みなんだからお呼びじゃねえっての)


 すると自室に両親が息を切らしながら走って来た。


「リリア! 戻ると言ってくれ!」

「そうよリリア! もうこんな洋館で暮らしたくないわ! 元の生活に戻りたい……!」

「お父様、お母様……」


 

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