私を秒で追放した王子様なんて必要ありません。

二位関りをん

第1話 キャバ嬢と乙女ゲーム「ロイヤルグレイル」

 何度も何度もゲームで見てきたこの光景。というかまさか転生して秒で追放処分とかって、ある?


「リリア・シャーケイン、そなたを追放処分と致す」


 「マジウケる」……こういう時にも使える言葉だよな。とつくづく思うのだった。


※※※


 先ほどまでハイヒールを履いていた重い足を引きずりながら、私はようやく自宅のマンションへとたどり着いた。

 もうがっつり塗っているファンデーションがどろどろになりつつある。不快でたまらない。


「あ~、疲れた……」


 私は浅羽麻美。職業はキャバ嬢。なんでキャバ嬢をしているかというと、大学時代にバイトでやり始めて、その後就職活動がどうにもこうにも上手くいかなかった為に、そのまま仕方なくキャバ嬢を続けているという訳……である。先輩達もママさんも皆すごく優しいのも助かっている。

 地元に帰るという手もあったが、面倒だったのでそれはやめた。兄の夫婦が実家に住んでいるし、実家の家業である農業(米)を手伝うのもそれはそれで気が引けたからだ。


「さっさと飯食って寝よ」


 とはいえこのどろどろとしたファンデーションをどうにかしたいので、まずはシャワーを浴びる。服を大雑把に脱いで浴室に入り、シャワーの蛇口をひねると冷たい水が身体にかかった。


「つめたっ!!」


 体力を無駄に消費してしまった。その後シャワーを浴びつつ髪を洗いメイクも全部さっぱりと落とすと、残り体力ゲージは殆ど無くなっていく。


「はあ……これだけで疲れるわー、めんどい……」


 着替えてドライヤーで髪を乾かしながら、スマホでゲームを進める。今遊んでいるのは最近はやりの擬人化育成ゲームだ。イベントを回収しつつぽちぽちとストーリーを進めていく。


「こんなもんかな、もっと上振れてほしいけど」

 

 髪を乾かし終えたら、コンビニで買った豚汁におにぎり2つを、レンジでチンして温めて食べる。買ったおにぎりは和風ツナマヨと鮭ハラミ。どちらも私の好きなおにぎりだ。


「はあー……美味しい」


 豚汁の赤みそのだしが疲れ切った全身に染みていく。おにぎりにかぶりつくと、具材と海苔の塩味がお米に染みていて、とても美味しい。

 むしゃむしゃと食べ勧めていくと、あっと言う間に完食してしまった。


「ごちそうさまでした」


 片付けを終えて歯を磨く。磨き終えればリビングに置いてあるゲーム機に勢いよく手を伸ばした。


「よーし、やるかー!明日休みだしいけるとこまでいこ!」


 ロイヤルグレイル。今からプレイするゲームの名前である。所謂乙女ゲーで、魔法が使える国で王子様や、幼なじみの魔法騎士団長らと恋をするゲームになる。

 このゲームのヒロインの名前は自分で選択して決める。また、目の色や髪の色、髪型もカスタム可能だ。


「続きからっ、と」


 今、攻略しているのは国の王子であるトルドというキャラだ。金髪碧眼の王道イケメンだが、正直私のタイプではない。でもキャバクラに来る自慢家なおぢ達よりかは大分マシではあるが。


「てか、元彼似のキャラいないよな……いないか」


 私のタイプは元彼の伊吹みたいな男子だ。クールで黒髪ショートで笑った所がかわいい男子。

 だが伊吹は大学卒業後蒸発して音信不通になった。高校時代からの付き合いなのにどうして消えてしまったのだろうか。そんなこんなで今も私は元彼への未練が残りまくりで新しい恋へ踏み込めないでいる。


「眠くなってきた……」


 ここで、私に強烈な眠気が襲って来た。なんだこれは。


「眠……」


 意識が飛んだ。


「……」


 次に目覚めた時。私はベッドの上にいた。しかもこの感触、自宅のベッドとは違うのが分かる。


「リリア様、朝でございます」


 リリア?私の事だろうか?私はゆっくりとベッドから起き上がると、そこは自宅とは全く違う豪華な部屋が見渡せる。

 しかも私がいるベッド、白い天蓋付きだ。


「リリア様、おはようございます」


 私の前方にはシックなメイド服を着た中年の女性が2人いる。私はこの2人に見覚えがあった。


(ロイヤルグレイルに出てたメイド?) 


 というかリリアと言う言葉、どっかで聞いた事があるような……


「もしかして、ロイヤルグレイルのリリア?」



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