第13話 構わん、もっと撫でれ
さて、良く分からない事になっている。
我というか俺は今、椅子の上に座っているというか優菜の膝の間に座らされていた。
気持ち的には太ももと腕でがっちりホールドされているために逃げる事も出来ない。
雄としてはこのような女性的にどうかと思われる拘束方法を取るのは如何なものかと思うのだが、まあ、俺は犬だしそれ以上に家族なので無問題なのかもしれない。
……いや、親しき中にも礼儀ありというかむしろ家族だからこそこのような事をするべきではないのでは?
分からん。
何が一番分からないって、何故俺がカメラの視線の先にいるのかという事だが。
「うーん、どうもハルが原因だとは思うのですが。如何せん本人はこの通り人の言葉を発する事が出来ないから……」
ご主人よ、我はいっぬ。
貴方の脳みそに直接語り掛けたいと思っているのだが、正直この状況かなり疲れるから早く開放してくれたまえ。
ああほら、ぐりぐり頭を撫でるのは止めなされ。
そのようにしたって誤魔化されはせぬぞ。
もっと撫でれ。
「そういえば、この前ハルの検査をして貰ったのですけど、なんかレベルが☆でした。☆ってなんでしょうね?」
私にも分からん。
そもそも発端と言うべきなのかは分からないが、どうやら先ほど俺達がダンジョンで探索――探索と言って良いかは分からないけど――をした時、その状況を映像でお送りしてしまったらしい事が問題なのだそうだ。
幸い、変な発言はしていなかったけど。
コンプラは気にしないといけませんからね、我もカメラの前だから変な発言に関しては気を付けないと。
えへんえへん、おっほんほん。
わふん。
「……なんで今のタイミングで鳴いたの、ハル?」
怪訝そうな視線を向けないでおくれよご主人。
一応発声練習みたいなものだから意味に関しては特にないでござる。
まあ、俺ってば犬だから例えば「あかんぼあかいなあいうえお」的なニュアンスの言葉を発したとしても通じるのは同じ犬だけなのだが。
……そう考えると、もしかしたら画面を通じて同じ犬が俺の言葉を聞いている可能性を考えると、本当に発言は気を付けるべきかもしれない。
変な事は言えないねぇ。
「ハルはいつも落ち着きが人間並みで大人しい子なんですけど、時々挙動不審になるんですよねぇ」
挙動不審というかついうっかり人間の癖が出てしまうというか。
いっぬですが元々人間ですゆえ。
こちとら犬食いにすらいまだに抵抗があるタイプの人外転生者ですぞ。
お肉も生肉なんて食べられません、ちゃんとレアで焼いてください。
まあ、実際この身体になってから肉を食べた事は一度しかないのですが。
めっちゃ薄味で美味しかったです、流石はご主人料理の腕も達者だな!
もしかしたら将来は料理人、シェフになるかもしれん。
あるいは、配信者なのだとしたら料理動画とかも配信したらどうかねご主人?
きっと需要あるよ、美少女だから特に。
「それよりも、ちょっとご相談と言うか知恵を貸して欲しいのですが。リスナーの中にペットがスキル的なものを持っていたという経験をお持ちの方はいらっしゃいますかね?」
なんか全体的に画面が茶色っぽくて見えづらいんじゃが。
これ、多分犬だからそう見えているだけで多分ご主人はちゃんと見えているんだろうな。
文字とか追っているみたいだけど、俺の眼では一切見えないというのが少し歯がゆい。
うーん、何を言っているのだろうか彼等は?
「やっぱりですか……まあ、そうですよね。検査をしてくださった方も前例というものがほとんどないとか言ってらっしゃいましたし」
どうやら満足の行く答えは得られなかったらしい。
「まあ、ハルが特別って事ですかね。いやもうこんな犬が他にいてたまるかって話しですけど」
褒めてるのかそれは、なあご主人?
なんか珍獣扱いをされているような気がして少し嬉しい。
はっはっは、我は珍獣ぞ!
剣だってぶんぶん振っちゃうぞー!
「なんか尻尾ぶんぶん振ってる……」
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