転生して美少女ダンジョン配信者の飼い犬になったけど剣咥えたらバズった

カラスバ

第1話 プロローグ


 転生したら犬だった。

 マジでどう言う意味だと思われるかもしれないが、実際そうなのだからしょうがない。

 真っ白な毛に覆われた四足歩行の獣の母。

 ぺろぺろとザラザラした舌で舐められたあの時の感触を今でも覚えている。

 お世辞にも気持ちは良くなかったが、不思議と印象に残っている。

 

 それから俺は飼い犬というかペットとして売られるためにケージの中で過ごす日々が始まり、それから大体数ヶ月。

 一人の女性とその子供らしい女の子に連れられて一軒家へと運ばれる事になった。

 どうやらこの家族に買われたらしい。

 俺はこの家庭の一員として暮らしていく事になる訳だ。

 ケージの中から出され、子供がこちらを見て何やら期待げな視線を向けてくる。

 仕方がねーなーと思いつつ、控えめに「ワン!」と鳴いてやる。

 すると少女は嬉しそうにカラカラ笑い出した。

 素直と言うか単純でよろしい。

 可愛いし、うん。

 お前を俺の家族として認めよう!

 毎日散歩に連れてってくれよな!

 

 

  ▼

 

 

 それから大体5年の月日が経過した。

 俺は成犬となったが、家族の数はかなり減ってしまった。

 より正確に言うのならば、死んでしまった。

 数年前に起きた交通事故によって少女……草木優菜の両親は亡くなったのだ。

 今、彼女と俺は彼らが遺した一軒家で暮らしているが、思い出がある分彼女はとても辛そうだった。

 散歩に行く時、外にいる時だと彼女はとても明るそうに振る舞っているが、家に戻って誰も見ていない時だと泣き出しそうな顔をしている場合が儘ある。

 そう言う時は俺も言葉が通じないのは承知で「ワン」と鳴いて構いに行く。

 すりすりと俺の胴体を撫でたり顔を押し付けたりとしてくる、大きくなった少女のされるがままになる。

 

「ありがと、ハル。私も、頑張らないと」

 

 顔を上げる彼女の顔には明るさがまだあった。

 

 ……

 

 そんな彼女だったが、最近様子がおかしい。

 何やら煌びやかで豪華な衣装を持って帰ってくる事があるのだ。

 アイドルみたいに可愛いって訳ではない。

 なんて言うか、所々にアクセントのように装飾がされている、防御力が高そうな服と言うべきか。

 ガッツリ全身を覆っているくせに機敏に動けているのを見るに、どうやら体をがっちり抑えつけるようなものでもないらしい。

 不思議である。

 

 それから彼女は夜遅くに帰ってきたり、1日家に戻ってこない日が増えた。

 ……食事が心なし豪華になった気がする。

 何かをやっているのは間違いない。

 しかし本人はそこまで大変そうじゃないし、それどころか俺に語りかける会話の中に友達の事についてが混ざる事が増えた。

 

 結局彼女が何をしているのかは分からないけど、だけど今のところ不幸せそうではない。

 それなら、良いのだろう。

 俺が飼い犬として、家族として彼女に求めるのは不幸せでない事だけ。

 幸せになれ、なんて大変な事は求めない。

 ただ、生きて後悔しないように生きてほしいのだ。

 

 それから、何日か過ぎて。

 今日も帰りが遅い家族の帰りを待ちながら俺は「わふ」とあくびを噛み締め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、予感がした。

 

 それは第六感というか、ドッグスセンスというべきか。

 何にせよ、俺は感じた。

 

 優菜の身に危機が迫っている事を。

 

 ……助けに行かないと。

 そのような衝動に駆られるが、しかしそもそも彼女が今どこにいるかも分からない。

 だけど、俺だって……もう、家族との別れを経験したくはない。

 

 そのように心の底から思った、まさにその刹那だった。

 

 

 

 

 視界が、真っ白に染まる。

 

 目の前に、巨龍がいた。

 

 ……倒れ伏せる少女がいた。

 

 巨龍が草木優菜にとどめの一撃を振り下ろそうとしていた。

 

 時が、ゆっくり進んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 俺は、気づけば地面に落ちていたボロボロの剣を口に咥えていた。

 大地を駆けていた。

 目の前の巨龍。

 その身体に、剣を振り下ろした。

 

 剣光。

 爆発的な切断音。

 くるくると舞う龍の首。

 

 ……敵が沈黙したのを確認するや否や、俺は剣を溢れ落としつつ急いで優菜の元へと急いだ。

 彼女はボロボロで、俺の来訪に対して驚いているようだった。

 

「は、ハル……?」

 

 その頬を、舐める。

 いつもこんな事はしないけど。

 だけどこうするのが正しい気がして。

 

「……くすぐったいよ」

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