第18話

扉は、閉められた。

こき使われ、ぼろぼろの姿。

とても聖女とは、思えない女。

こんな田舎で聖女をし、あきらかに心身疲れ切っているにも関わらず、まだこの国の聖女をしたいと思う変わり者。


ふむ。

おもしろいな。


「殿下。諦めるつもりですか」

「そんなわけがないだろう。それより、出しゃばりすぎだ。明らかに引いていただろ」

「も、申し訳ございません。ですが、彼女の力は、異常です。すぐにでも引き抜くべきです」

「わかっている。だが、ことを急いでは、しくじる。まだ、あいつは奥の手を隠し持っている可能性がある。変に刺激するのは、避けたい」

「わかっていますが…。あぁ、素晴らしい。この国をすべて一人で守っているだなんて、そんな力、ありえない」

「うちのだと、…ルナならいけるか?」

「いえ。うちの子でも難しいでしょう。一人で、国を覆えるほどの大きさの結界を張り、それをずっと保つなど、人間業ではない」

「では、まさに選ばれた人間。神業だな」

「素晴らしい。こんな人間が、こんなところにいるとは。あぁ。しかし、ずいぶんとぼろぼろでしたな。あれなら、少し甘やかせば、すぐに落ちるでしょう。なんといっても女。しかも、まだ若い。様子を見ていましたが、外の世界や甘やかされることを知らない女だ。きっと、帝国に来れば、あの考えも変わります」

「そうだな。愛国心は、素晴らしいが、それはうちに向けてほしいものだ」


冷めたお茶を見下ろし、魔法で温める。

安い茶葉だ。これが、俺に出すレベルなど、ふざけているにも程がある。

おまけに保温魔法もかけられていない。

これが、ほかの国なら考え物だが、あの聖女のことを考えると、我慢してやろうという気になる。

帝国の王子を我慢させるほどの価値があるというのに。

この国は、あの聖女の価値を知らなすぎる。

普通ならば、国家機密レベルだ。

王も王だな。

いくら帝国の王子だからと、自国の秘密兵器と会わせるなど、能がない。

俺なら、絶対に会わせない。

大事に囲って、誰にも見られない奥の部屋に隠しておく。

こんな国で、頑張れるような女だ。

大切に扱えば、きっと俺のために、神に与えられた力を存分にふるうことだろう。

そして、俺の国は、ますます強く、繁栄していく…。


「妹のほうは、どうだ」

「だめです。あれは使い物になりません」


あのパーティーのあと、どうしてもというので、実力をこいつに見させた。

ダメだったらしい。

聖女殿は、えらく才能を買っていたが、身内びいきか。それとも洗脳に近いのかもしれない。

この国の王子も、やけに押していたしな。

いくら、小さいころ出来ていても、そこまでの人間だったというのは、珍しくない上に、努力もしないのであれば、いくら才能があろうと腐るのは、当然だ。


「結界を張ることも出来なかったときは、笑ってしまいましたよ」

「ぶはっ!…本当か!それは。それでは、聖女ですらないではないか…」


あの妹に、聖女など務まらない。

それをあの聖女が知らないうちに、俺の帝国へ連れていく。


お優しい聖女。きっとそれを知れば、この国から一生出ないだろう。

それでは、困るのだ。


「早く俺のものになってくれ」

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